第七話 巡礼の聖女 『小竜騎』を得る
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第七話 巡礼の聖女 『小竜騎』を得る
しかしながら、ビルが何かを思い出した。
「ヴィ、36M51は44M48をサイズダウンしたものですが、警官用にさらにサイズダウンしたモデルがあります。MWはリムファイアの金属薬莢ですから途中で入手することも困難ですし、共通性もないので少々難しいのではありませんか」
金属薬莢の良さは湿気に強く環境の変化に対応できるところ。反対に、金属薬莢の製造はプレス機で作るしかなく、再利用もできないためお財布に厳しいというところである。王都であればある程度問題ないだろうが、巡礼の旅のお供には使い切った弾薬の補充に難がある。
「それは一理あるわね。でも、手持ちは……」
「あります。私とヴィで使えるかどうか、試しに入手したものがそのまま一丁保管されています」
『小竜騎』と呼ばれる31M49は、31口径弾を使用する為、軍では威力不足とされ採用されなかったが、警察官には抑えた殺傷力が好まれた。敵を殺す為の軍用と、無力化するために適度に傷を負わせる治安維持用で使い分けされたのだろう。
重さは900g、長さは4インチの銃身で約22㎝。MWより少し長いが、36M51と並べてみればその大きさの違いは一目瞭然だ。紙製薬莢であることも望ましい。
「クリス、手に取ってみなさい」
一回り以上小さな『小竜騎』を握る。シリンダー内に銃弾が無い事を確認し撃鉄を引き起こす。そして、引金を引き、再び撃鉄を引き起こす。これならば、なんとか片手で操作できそうだ。
「いいみたいね」
「はい。これを使いたいと思います」
「威力が不足する分は、『加護で補え』……ですね」
しかしながら、36M51も持って行けという。魔法袋に収める分には大した負担にはならない。火薬も紙薬莢も共用できるし、弾丸だけが異なるのだから。
『予備の装備ってのは大切だ』
それはその通りだろう。不測の事態と言うのは必ず訪れる。予備の食料、予備のお金、予備の着替え、必要だろう。
「それはそうだけど。銃で射撃すると、居場所がまるわかりなのはいいの?」
『お前が銃で牽制すれば、嬢ちゃんが動きやすくなる。撃ったら気配を消して身体強化で走る。走って移動したらまた撃つ。身体強化だけに魔力を集中できるのであれば、少ない魔力量でも長い時間動ける。そう考えると、魔力で攻撃する必要がない分、お前には有効な手段だろ?』
銃剣と双発銃に六連式拳銃。経済的なのは銃剣だが、魔力をより消費する装備でもある。近づくためには魔力を使い気配を消し、身体強化をし、魔力を纏って攻撃する。それに、不用意に人間を傷つけることになる。
「オリヴィ、魔力持ちの巡礼を狙って襲撃してくるのは、吸血鬼だけではないんですよね。使役されているゾンビとか?」
「大多数は、吸血鬼に利益供与を受けている街の支配者とかね。町長や村長、駐留する軍の幹部や警察幹部とかじゃない? でも、実際襲ってくるのはそいつらの部下や一般の村人ね」
その話を聞き、クラーラは『へぇそうなんだ』で済ませているが、クリスは暗い気持ちになる。魔物を殺すのに躊躇はないが、何も知らないか知っていても自分の意思ではない村人や兵士を殺すのは……本意ではない。
降りかかる火の粉は払わねばならないが、何も好き好んで向かってくる人間を皆殺しにする……そんな気にはなれない。
『まあ、悩むよな。命令されて仕方なく、ってのはある。だがな、魔力持ちを吸血鬼に献上して余禄を受けているのは命じた人間だけじゃねえだろ?』
「そうね。この街であったようなことが、大なり小なり発生していると思うわ。協力者も相応の怪我なり恐怖なりを与えなければ、安易に従う行動を変えるとは思えないしね」
巡礼全員が姿を消すような場所であれば、とうの昔に巡礼街道など消えている。魔力を持たない大半の巡礼には影響がなく、知らずに訪れる魔力持ちが攫われ吸血鬼に与えられる。それが、巡礼街道沿いに存在する『吸血鬼村』というものなのだろう。
「王国内には存在しない?」
「一応ね。今回みたいに、影響を受けている組織は存在するし、大きな都市には大なり小なり潜んでいる可能性があるわ。でも、王国内で問題を起せば、私たちが出張って潰して回るから表立って行動はしないのよね」
クリスは、王都の吸血鬼に関して疑問を感じる。確か、『吸血鬼劇場』なる不遜な名前の場所に依拠している集団がいると聞いた覚えがある。それを察したビルがクリスに応える。
「王都のアレは、吸血鬼ホイホイなのですよ。アレの幹部は……吸血鬼のふりをした別の魔物です」
『だまされた!』
世界最大の都市である王国の王都には、様々な国から人が集まり、その中には他国から侵入する吸血鬼も存在するのだ。それを把握するには、内部に協力者を置いた方が良い。その為に、あえて残してあるのだという。
「吸血鬼同士の繋がりというのは確かにあるんだけど、基本は上下の繋がりなのね。誰の血脈かという事が大事で、他の血脈とは同じ吸血鬼同士でもあまり仲が良くない。敵の敵は割と味方という程度だけどね」
加えて、オリヴィの存在が抑止力となり、自ら望んだ『売血婦』『売血夫』以外からは血を吸わない約定を取り決めている。血を吸われるものは、対価を得てその血であがなった金銭で自分の家族を養ったりしている。
街頭に立ち客をとる娼婦よりも、よほどましな生活だと喜んで協力する者も少なくないという。とは言え、魔力持ちは与えてもらえないため、自分自身の力を高めたい野望を持つ者は枠を外れオリヴィ達に討伐されるか、王国の外で活動することになる。
「一昔前は神国が人気だったけど、今は一年中戦争している州国ね。内戦の後は、先住民との戦争。先住民には精霊魔術師も少なくないから、奴らにとっては魔力を高める良い機会になるんでしょうね」
王国の外の事は知らない。とくに海の向こうの国のこと等とオリヴィは言う。
神国の吸血鬼対策は、一つは巡礼街道の問題もあるのだが、今一つは、長年の『修道騎士団』の残党が吸血鬼と組んで王国に悪さをするということに対する牽制でもあるのだという。
「神国は、政治も経済も行き詰っている状態。王国の百年前に似た状況だと思うわ」
「そこで、内戦が継続していて、吸血鬼が活動する余地が増えています。魔力持ちを内戦の過程で餌食にし、力を付けて王国に侵攻する可能性も少なくありません」
チビ将軍はその治世の後半、神国国王となった兄を助けるために、かなりの戦力を投入し自らも戦う事があった。神国の反王国勢とそれを支援する連合王国の軍の背後には、『修道騎士団』残党を取り込んだ吸血鬼の勢力が居たとみられる。
「王国の中心は問題ないし、鉄道も整備されているから割と簡単に対応できるようになってきたわ」
しかしながら、経済衰退著しい神国は工業化も鉄道の敷設も遅れており、その遅れた地域には多くの吸血鬼が潜んでいるという。ちょうど、巡礼街道が通る北部一帯だ。
「カステラ地方というのがあるのね。元は『城』という神国語が訛ったもので、サラセンと長らく戦ってきた地域には小城塞が沢山あるの。そういった場所は吸血鬼が潜みやすいし、細かく分かれた小さな町や村なら支配もしやすい。そんな場所に足を踏み入れたら、注意と覚悟をして貰いたいわね」
「それと、西の大山脈を挟んだ地域は『ビスケ人』という古い先住民が半独立している場所があります。今では神国の一部となっていますが、それは表向き。神国からも王国からも距離をとるために、吸血鬼を利用し、利用されている可能性もあるのです」
つまり、王国の西端から、吸血鬼の影響を受けた地域がずっとつづくという説明になるのだろうか。ふぅ、やれやれだぜとクリスは思うのである。
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