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第六話 巡礼の聖女 『撃鉄』を片手で引き起こせない事を知る

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第六話 巡礼の聖女 『撃鉄』を片手で引き起こせない事を知る


『魔剣』は、クリスとクラーラの魔術師としての育成方針を整理することにした。


元人魚のクラーラは、魔力量は豊富であるものの、『詠唱』ができない事がネックとなる。身体強化や気配察知、魔力纏いは人魚であった頃に身につけていることに加え、『魔力壁』も問題なく展開できる。


『課題は、複数同時展開と、魔術の切替速度の改善だな』

『うう、いっこずつでいいんじゃないかな……』


 クラーラは身体強化や魔力纏いに関しては速やかに……というよりも常時発動しているようなものなのだが、『気配察知』と『魔力壁』を同時に展開したり、『水』魔術を二つ以上同時に発動することが極端に苦手だ。


「慣れてしまえばどうと言う事は無いんですけどね」

「今までのやり方に慣れてしまっているから、クリスよりも難しいかもしれないわね。入り切りしながら細かく魔術を使っていく方が魔力の消費も少ないし、咄嗟の発動もできるようになるから有効なんだけど」


 身に付いたやり方を新しく切り替えていくことは、経験を重ねたものほど難しい。


『割りきりだな。不器用だが魔力量豊富な魔術師ってのもいる。そいつらは、前に出て魔力でゴリ押しするとか、永久要塞みたいな役割りを果たす感じだな』

『うん、わたしはそれでいいと思う』


 多少慣れたとはいえ、足で歩くようになってから一年少々。まともに駈ける事ができるようになったのもこのひと月足らずである。器用さであれば、魔力量は少なくともクリスの方が優秀であり、魔力量が少ないからこそ、細かく効率よく魔力を使えるようになるべきということでもある。


『じゃあ、人魚の嬢ちゃんは、身体強化と魔力壁をつかって、その杖か、それで、出てくる敵をけん制し足止めする役割だな』

『わかった、それやるね!』


 クリスとて戦い慣れしているわけではないが、人化してさほど日も経たないクラーラに細かいことを注文するのもどうかと思う。それに、『魔剣』のジル師匠はクリスの師匠であって、クラーラはついでに面倒を見る程度である。


 人間と元人魚では魔力の用い方に違いがあるので、仕方がないかと思ったのだが『俺は水は苦手だ』ということが根本的な理由らしい。


『精霊が多いのは土か水ってのが双璧で、水は無いところにはないからな。その次が「風」、希少なのが「火」だ。「火」なんてのは、自然に存在しないものだからな』


 川や池、海や水路に水は存在するが水辺でなければ『水』の精霊の加護を最大に活用することは難しい。『土』の精霊は普遍的で数も多く、『風』に関しても、周囲に存在するが『土』『水』よりは少ない。そして、自然の状態において『火』の精霊が存在する割合はとても少ない。


 水たまりや土砂は珍しくないし、風はどこかで吹いているものだ。しかし、火は人間が管理していなければ、特定の場所以外で目にする事はないと言えるだろう。人間の生活空間だとしても、炊事場の竈や暖炉、夜間の灯火など限られた場所ででしかありえない。


「火は使い勝手がいい魔術だけれど、加護持ちは希少なんですよ」


 精霊が少なければ、加護持ちも希少となる。蒸気機関や火薬といった道具が発展し、火が身近なものとなった今日においては、それが精霊によるものではなく、科学によるものであることから、『火』の精霊の加護持ちが増えたという事もないようだ。


「蒸気機関を止めたり暴走させたり、火薬の燃焼を高めたり抑えたり、『火』の精霊の加護って、凄く有効だと思うのよね」


 自分に『火』の精霊の加護が無いのは残念と、オリヴィはぼやく。


『なんだ、その蒸気機関ってのは』

「昔の魔導機関で魔力を用いて行っていた動力を、水蒸気の圧力で発動させる機関ですね。馬車何十台にもなる巨大な列車を牽くことができる鉄道というものが今の世の中普及していますよ」

『そら便利だな。あちこち気軽に呼びつけられそうだ』


 便利そうだという言葉と裏腹に、とても嫌そうな声。


『それで、クリスはどんな道具を使うんだ?』


 ジルバの質問に、クリスは自分の今身につけている装備を取り出し並べて見せる。


「魔銀鍍金仕上げの銃剣、雷管式双発銃ね。それに、このリボルバー式拳銃もできれば使いたい」


『36M51 ネイビー』を並べる。


『銃は、あんまり変わってねぇんだな』

「魔装銃と比べるとね。確実に発砲できるようになったのは、ここ二十年位の進歩よ。回転式弾倉が有効に作動するようになったのも同じくらいかしらね」


 魔力で発砲させる仕組みの銃を『魔装銃』と呼んでいたようであるが、魔力持ちでないと戦力に出来ない装備なので、魔力持ちが希少となるに従い消えたロストテクノロジーなのだという。


『でもよ、銃は発砲音もするし火花も飛び散るから、気配隠蔽の効果がなくなるよな。陽動や牽制には向いてるけど、相手に気が付かれないように先手を取って……って感じにはならないな』

「そこは、状況次第ね。撃ったら走るって感じで、うまく組み合わせられれば問題ないと思うけど」

「実際、相手が銃を乱射してきた場合、弾切れのタイミングを利用したり、気配隠蔽から先制攻撃するケースもありますから。一瞬で数発の弾丸を発射できるのは、場合によっては魔術より効果がありますね」

『なるほどな。実際見ないと何とも言えないが、魔術でしかできないことが減ってるってことだな。連射できるってのはいいよな』


 そう言いながら、魔剣ジルバは一つ異議を唱える。


『クリスは今何歳だ』

「十二……だけど」

『ちょっと小さめの十二歳だな。ほれ、その回転弾倉の拳銃、握ってみろ』


 36M51を握る。大きさは30㎝を越える。引き金に指をかけ、撃鉄を引きカシンと音を鳴らして撃鉄が下りる。そして、再び撃鉄を引き上げる。


「ああ、なるほど」

「これは問題ね」

『手がちっさ……』


 双発銃の場合、あらかじめ撃鉄を上げておき、引金を引けば弾は飛び出すようにできる。しかしながら、弾倉に六発の弾丸が込められたとしても、発射するごとに片手で銃を握り、片手で撃鉄を引き起こさなければならない。クリスの手が小さいからだ。本来であれば、銃把を握ったまま親指で撃鉄を引き起こす事ができるのだ。


『この銃は、今の体の大きさだと使いにくい。もっと小さな拳銃はないのか』


 36口径ながら、高威力の36M51はとても優秀な銃だが、実際、片手で銃を撃つことは今のクリスには無理そうである。片手に銃剣、片手に拳銃というスタイルにはならい。


「大は小を兼ねなかったわね」

「銃に関しては、クリスの体の大きさがネックになりますね」


 体が小さい事は、遊撃であればむしろ有利に働く。隠れたり素早く動くこと、目立たない存在であること、男装しても違和感がない事など、悪い事ばかりではない。しかしながら、銃に関しては体の大きさが小さい事は不利になる。威力のある銃はそれなりの大きさと重量があるからだ。


「では、これを試してみて」


 ゴトリと取り出された36M51の半分ほどの大きさの銃。


「モリス&ウイルソン MW Mod1 32口径五連発銃。金属薬莢で雷管が薬莢の縁の部分についているタイプ。州国内戦では兵士の護身用に買われていたものね」


 その形は特徴的であり、用心金はなく銃は逆ハノ字型に折れ曲がることで回転弾倉を取り外す事ができる。銃身は36M51が7.5インチであったのに対してMod1は3.5インチ、全長は19.5㎝と扱いやすい長さであった。


『素の威力不足は魔力で補えばいい』


 魔剣の師匠はそうクリスに言った。



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