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第五話 巡礼の聖女 『師』を得る

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第五話 巡礼の聖女 『師』を得る


「「『……』」」

『……お、おう。お前の気持ちは分かった。決まってるよな……そうだ。決まってる。俺もそうだった』


『魔剣』はクリスの唐突な自分語りに同意する。


『魔力はある、俺と会話もできる。何より、年齢的にこれから一番魔力を増やせる。レアな『火』の加護持ちなのもいい。それと、孤児で守るべきモノがあるのも……』

「いいでしょ? 任せられるわね」

『そりゃ、こいつの意思次第だ』


 どうやら、『魔剣』は魔力を持つ者ならある程度、コミュニケーションが成立するようだ。取り出したオリヴィが『先導者』として相応しいと考えてクリスを預けようとしているのであろうから、否はない。


 そもそも、独学で魔術を身に着けるのは『根性』以外方法がないので、限界を感じてはいた。身体強化は、使える魔力持ちも冒険者や港湾労働者に何人かいたので耳学問で身につけたが、それは生き残るための必要に迫られたからに過ぎない。『火』の精霊の加護も同じ事だ。


 オリヴィに「気配隠蔽」と「魔力纏い」を教わり、世界が一気に開けるような気持になった。魔力を積み増して、もっと力を付けたいと思うものの、オリヴィとの同行はここまでであり、正直この先のことを悩んでいたクリスである。


「あたしに教えてくれるなら、勿論、何でも教わるわ。やれと言われた事だって何でもする。あ、エッチなことは無しで」

『……ねえな。それはねぇ……そっちの人魚の姉ちゃんならともかくだ』

『あ、やっぱりわかるんだ』

『人間の魔力とは違うからな。それと、足があるのに、魔力の形はヒレのまんまだ。そりゃわかる』

『あはは、頭隠してヒレ隠さずだね☆』


 クラーラは今日も平常運転である。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「『……千年前……』」

『そうだ。俺が魔術師として王国に仕えていた時代は、王都が大聖堂の建っている河の中州の周りにある小さな街だったころだな』

『ちょう、おじいちゃんだ』

『馬鹿言え、俺はいつでも心は若者のまんまだぞ!』


『魔剣』は、生前、王国に仕える宮廷魔術師であったという。自分の死の直前、魂の依り代として『魔銀の短剣』を作成し、そこに自分の魂を封じた。


「アンデッドとは違う?」

『どうかな。魔力を得るために、多少、それに近いことが必要だ。それと、契約だな』

「は? あんた、血でも吸うっていうの!」

『吸血鬼なら血液に籠る魔力を吸収する。だが俺の体は金属だ。なので、「髪」をいただく。まあ、ちょっと前髪がうっとおしいなお前。切ってやる』


 あっ、とクリスが声を出すまでもなく、目にかかりそうであった前髪が眉毛の下あたりまで切り取られる。


『髪切るのに便利?』

『お前の魔力はこいつと相性悪いから、吸収しないけどな』


 斬り落とされた前髪は、下に落ちる前に『魔剣』へと吸収される。クリスは『火』、クラーラは『水』の精霊の加護持ちであるから、『魔剣』は同時には吸収しないということなのだろうか。


『魔力少ねぇな……けど、質は悪くない。潜在能力に期待だな』


『加護』のある場合、「火」の系統の魔術を行使する際、魔力自体は大して消費しないのである。一般的な魔術が自分の魔力だけで発動するのに比べ、精霊魔術は、精霊と繋がる僅かな切っ掛けに用いる魔力だけで事足りてしまう。魔力を使わないから、魔力量が増えない。そういう理屈なのだ。


「どうにかなりそう?」

『どうにかするさ。それに、お前のようにはならねぇぞ。あいつのようにもな」

「それは期待していないわ。限りある魔力でも最大限に有効活用するのが『リリアル』でしょ?」

『ああそうだな。魔力が足らなければ、火薬を使えばいいじゃない? てなもんだ。こいつは、『火』の精霊加護持ち、火薬との相性は抜群だ。とはいえ、俺も寝起きだ。少し、時間がかかるのは問題ないよな』


 オリヴィは薄く微笑み軽く頷き同意する。




『魔剣』は今の時代に慣れる必要があるという。


『ほぅ、随分と銃も進化したもんだな』

「ここ三十年くらいのものよ。それまでは、先込銃で単発式だったわ。威力だって百年前と変わらないくらいでね」

「機械を加工する生産設備が変わってきていますね。それと、その技術を量産する兵器に生かす発明でしょうか」

『……そりゃ、魔術が廃れるわけだ……』


 千年前の魔術師からすれば、つい最近まで魔術が担ってきた分野を科学で補えるようになっているのだから、瞠目に値するのだろう。


「簡単に引き金を引けば、熟練の戦闘魔術師のような技が出せるのよ」

『この小型の拳銃はすげぇな。装弾はあいかわらず面倒そうだが、六連式は魔術師の無詠唱並に脅威だろ?』

「ライフル銃は1,000m近く弾を飛ばせるようになったわ」

『おいおい、そりゃ「隼鷹砲」の射程以上じゃねぇか』


 『隼鷹砲』というのは、三百年程前の時代にあった軽量牽引野砲のことであり、マスケットの射程がせいぜい200mであった時代に、戦列に撃ち込んだり、城門を攻撃するのにつかわれたのだという。


『そりゃ、正面切っての戦争で魔術は出る幕ねぇよな』

「そう。正面切ってならね」


 騎士が主戦力であった時代、魔術師は堅固な城塞などに立て籠もったならば、容易に守り抜くことができる存在であったという。少なくとも、チビ将軍が行った『大陸戦争』において、戦場で魔術師が活動したり活躍したという話はない。


『魔術は万能じゃねぇ。限られた魔力を効率よく使って目的を達成する為にある。まあ、お前にゃ関係ぇねえんだろうけどよ』

「そうでもないわよ。魔力があったって、一人で出来ることは限られているわ。今の世の中、魔力持ちを見つけることも困難だし、その子が協力してくれる事だって希少価値なの。そういう時代」

『魔術師受難の時代か。というよりも……』

「発達した科学技術というのは、魔術と見分けがつかないと言われています。要は、魔力や魔術に依存せずとも世の中が進んでいく時代となったということでしょう」


 ビルは魔術に思い入れがないようで、二人の会話をバッサリ斬り落とす。ライフルと身体強化で戦う彼は、自身を『魔術師』として位置づけていないからだろう。


『なら、魔力量をそこまで気にせずとも良いな』

「多いなら多いなりの戦い方、少ないなら、少ないなりの戦い方。それぞれ、導いてちょうだい」

『……人魚の姉ちゃんもかよ……ま、ついでだ』

『次いでですが、よろしくお願いします魔剣様』

『魔剣様かよぉ!! おい、適当に呼び名をお前が決めてくれ。なんだか、そんな気分だ』


 普通は弟子が師匠に名乗りを与えられるものではないのだろうか。逆じゃね? と思いながらも、クリスは適当になずけることにした。


ジルバ(Silber)……師匠」

「悪くないわね。そのまんまだけど。魔銀の短剣だからシルバーね」


 シルバーの帝国語発音が『ジルバ』に当たる。


『ジル師匠だね。もしくは、ジル師』


 クラーラが呼びならわし、これで決まりとばかりにサムズアップをした。




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