第四話 巡礼の聖女 『魔剣』と出会う
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第四話 巡礼の聖女 『魔剣』と出会う
オリヴィから聞かされた巡礼街道の秘密。知った上でなお、クリスは聖地に向かいたいと考えていた。知ったとしても、知らなかったとしてもクリスの決心が揺るぐことはない。
最初に、クラーラを助けると決めた。理由を付け巡礼の旅に出た。その過程で受ける苦難も含めての巡礼なのだとクリスは考えている。
「なら、どうしろと?」
「それを考えて決めるのはクリスの役割りです」
ビルはさらっと大事なことを言う。クリスが決める。けれど、それを決める前に、確認しておきたいことがある。
「そこまでわかっているのであれば、お二人で出向いて討伐すれば
いいのではないですか?」
クリスは思ったことを端的に告げる。しかし、事はそう簡単ではないとオリヴィは返す。曰く、王都には吸血鬼の『巣』が存在し、オリヴィ達が長期に王国を離れる隙を伺っている。吸血鬼と対峙することは、訓練された魔力持ちの『冒険者』にとっては難しくないが、警察や憲兵、軍の兵士など
では餌にしかならないという。
「対人戦だけに絞った訓練を受けた人間だと、力と動きが狼や虎、大熊に匹敵し、相応の耐久力を持つ吸血鬼には歯が立たないのです」
ビルが不足を補う。魔物相手に戦っていた昔の冒険者ですら苦戦必至の高位の魔物が吸血鬼。その上、上位種である『貴種』であれば、魔術も容易に使いこなす。例えば……
「『魅了』のような人を支配する魔術も使えるわね」
「吸血鬼の使役する魔物化とは別に?」
「はい。グールやゾンビとは異なり、視線に込めた魔力で暗示もしくは洗脳に近い効果を与えます。即席で、味方となる人間を増やす事も容易です」
『へぇ、人魚なら歌声で魅了するけど、目を合わせるだけで出来るなんて便利だよ!』
若干一名、魔物寄りの発想をしているのだが、それはともかく厄介な相手であることは理解できた。そして、二人が王国内の比較的王都に近い場所にしか移動できない理由も察した。
「王都さえ守れればどうということはないんだけど、王国の外にある巣穴の駆除ができればそれにこしたことはないの」
王都を長期離れられない理由とは別に、オリヴィ達が出向けば、少なくとも吸血鬼はその存在に気が付くし、王都を離れた時点で警戒されることになる。今回も警戒されていたので、偶然処分した下っ端吸血神父以外のそれを見つけることができていない。
吸血鬼を討伐できる二人だが、それが知られている故に、二人を避けて吸血鬼は姿を現さない。これが、クリスとクラーラに吸血鬼討伐を巡礼の旅の最中に頼む今一つの理由である。
「それにね、私とビルの二人だと、どうしても包囲するに限界があるのよ。点と点を繋いでも線にしかならないでしょ? 点が三つになれば『面』になる。
そういう存在を私たちは求めているの」
「私たちの都合ではありますが、クリスとクラーラにはそういった存在になって貰えると大変うれしいんですよ」
二人では手に余る事態も、第三の存在が居れば状況は変わると言いたいのだろうか。人は必要、但し誰でも良いわけではない。魔力を持ち、吸血鬼と対峙するだけの動機をもてるもの。
安っぽいヒロイズムではなく、切実なのは……お金を稼ぐという動機。死んだら稼げないから、死なないように必死に努力し工夫する。クリスは『火』の精霊の加護を持ち、火薬や爆薬との相性も良い。再生能力を持つ吸血鬼も、焼き殺されると対応できない。それも強力に誘われる理由の一つだとクリスは推理する。二人は猛烈に勧誘し始める。
「経験不問、初心者歓迎」「誰でも簡単に吸血鬼が倒せます。今なら、優しい先輩が詳しく丁寧に
あなたを教育します」
「支度金用意、高給保証」
「あ、もし、あなたの心配する孤児院の神父? 院長が懸念材料なら、教皇庁経由でファンブル教区の司教に圧力掛けるわよ」
端的に言えば、院長を馘首してファンブルの司教に直接面倒を見させるということだ。何か問題が発生するようであれば、責任問題にするという意味だろう。
「吸血鬼狩りは教皇庁の意向もあるのよ。だから、その手の対応も問題なく実行できるわ」
「王都に戻ったなら、月一程度、経費でファンブル迄の鉄道旅券を手配します。王国内務省のVIP旅券で。予定を決めて定期的にファンブルに顔を出したり、あちらのギルドで仕事を受けていただいても構いません」
「何かあれば、大聖堂経由で電報を送るから。その時は急いで帰ってきてもらうかもしれないわ。でも、そう何度もあるわけではないしね」
オリヴィでないと対応できない案件も王国外に存在する。二人が不在の間、王都の留守番をすることもクリス達の役割りになるのだろう。
『……クリスは受けたい?』
問題はクラーラだ。クラーラの目的は、巡礼の旅の果て声を取り戻し、ハンス王子に自分の想いを伝えることにある。その後は、ハンス王子の妻として彼に帯同することになる。クリス一人でオリヴィの希望を叶えるほど力を付けられるかはわからない。
「受けたいか否かと言えば受けたい……わ」
『なら、いいじゃない。巡礼の旅が終わるまでは(仮)なんだから』
王都に戻った先のことは、王都に戻ってから考えればいい。あまり先のことまで考えても仕方がないとクリスは結論付けた。
「巡礼の旅の間に、出来る限り吸血鬼の影響を受けた『悪』を討伐します。それなら、できそうです」
「いいわ。腕試しの旅になりそうね」
「クラーラもよろしいですか?」
クリスが受けたのであれば、クラーラに否はない。クリスがハンス王子との婚約を受けてくれたからこそ、クラーラは生き延びていられると言えるのだから。そう考え、クラーラは強く頷く。
「クラーラの呪いを解くことも、並行して協力するからね」
一つはエリクサーの作成。今一つは、『解呪』する方法の捜索。そして、クラーラ自らの魔力を高める事で魔女の呪いを無効化すること。
前二つはオリヴィに頼めるとして、最後の一つはクラーラ自身が解決する必要がある。
しかし、魔力を増やす為の方法をクリスは知らない。クラーラも同じことだろう。
そんなクリスとクラーラの心情を二人の表情から察したオリヴィは、一つの提案があるという。
オリヴィは、古びた短剣を取り出した。魔術には『杖』だけでなく『短剣』を用いる方法があるとは聞く。魔法円を剣で描き、魔術を行使すると冒険者ギルドで聞いた覚えがある。儀式魔術と言ったか。
「これを私に」
「そう。あなたが、この『魔剣』と契約することで、あなたは『師』を得ることができるわ。私たちが居なくても、この剣があなた達を導いてくれると期待しているのよ」
古い形式の短剣。確か……サクスと言った気がする。王国に古くからあった生活用具の一種とも言える実用品。
『お前は、力が欲しいか』
クリスとクラーラはビクッとした。ここに四人以外の声の主がいる。とすれば、目の前の『魔剣』がそういう存在であるのだろう。おとぎ話の出てくる人の如き意志を持つ『剣』……インテリジェンス・ソードと言えばいいのだろうか。
「欲しいかですって? 愚問過ぎるでしょ。あたしの、弟たち妹たちを幸せにするために、変態強欲神父から身を守るために、必要なのに決まってるじゃない! 欲しいかどうかじゃなくって、必要なの!! 馬鹿なの?」
いつもは修道女見習らしく、冒険者らしくと心掛けているクリスだが、『魔剣』という非常識な存在と接し、一瞬心のタガが外れてしまったのである。
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