第三話 巡礼の聖女 『巡礼街道』の秘密を知る
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第三話 巡礼の聖女 『巡礼街道』の秘密を知る
オリヴィの考えた魔女の呪いを解く方法。
一つは、クラーラ自身が大いに魔力を増やす事で、魔女の魔力を越えた能力を持ち、魔女の魔術を弾き飛ばせるようにするという方法。
今一つは、呪いを発動する前提となっている、クラーラが対価に与えた『声』を復元する方法。これは、クラーラが声を失い歌えなくなったことから発生する『呪い』を排除する能力を他の方法で補うという事も考えられる。
「一つは、失った『舌』をエリクサーで再生させる。ただ、エリクサーのレシピは解読中で、素材で入手困難なものがあるのよね。それが手に入れば、『呪い』の前提条件が崩れるから解決するでしょう」
「それに、舌が無くても、『ハミング』『鼻歌』といった表現方法や、楽器を演奏することで代替は可能です。もっとも、管楽器は舌遣いが必要なので無理です。弦楽器かピアノのような鍵盤のある楽器が良いかもしれません」
クラーラの『歌』は人魚の国でもぴか一であったという。魔女はそれを面白く思っていなかったのかもしれない。
「そもそも、魔力を高めれば『人化』まで持って行けた可能性高かったでしょうね」
「はい。人魚の歌声は高い魔力を有しています。まして、人魚の中でも歌の名手であったクラーラの魔力は、人化にもっとも近い存在であったと考えられます」
『……そのままで、人間に化けられた……』
クラーラは思いもよらなかったようであるが、クリスは『ケット・シー』を思い出しそれは十分あり得た未来であったと思う。恐らく、魔女もそれを知っていたのではないか。そして、敢えて教えなかった。
「嫉妬ね」
「嫉妬でしょう」
「嫉妬か……」
『嫉妬なんだ!!』
四人は、魔女の行いに多少の憤りを感じながらも、親兄弟友人知人にハンス王子のことを相談せず、独断専行したクラーラにも問題があったと考えていた。
「それもいまさらね」
「巡礼の旅の先に、より良い未来が訪れると信じましょう」
オリヴィとビルはそんな感じで話を切り上げる。先ずは、この先のことについて話を聞かなければならない。
「巡礼街道の旅、西の大山脈を越えた先なんだけどね。正直、今のままだと二人は『聖地』まで辿り着けない可能性が高いわ」
「帰りもあるわけで、王国まで戻れない可能性はさらに高まります」
二人の所見に「理由を聞いても?」とクリスが問う。
「巡礼街道というのは、聖征の時代以前から存在するんだけど、興隆を向かえたのは聖征があってからなのね」
当時、遥か東方の地カナンにまで、多くの御神子教徒と騎士が赴いた。聖征以前にも内海を船で東に向かい『聖王都』を訪れる敬虔な貴族・騎士はいたものの、十分武装し、また高価な船を仕立てものであった。命がけの旅であり、信仰の証となるものでもあった。
ところが、聖征発動に至る当時の教皇が様々な先導を行った結果、大軍を発し『聖王都』を異教徒から武力で奪還しようという事になる。王国や帝国、法国の諸侯が軍を編成し、遥かカナンの地迄船と陸路で向かい、サラセンの統治が弱まる過渡期であった事もあり、運よく内海東部の諸地域を聖征諸侯軍が占領するに至った。
その後、百年に渡り『聖王国』が成立し、御神子教徒の多くが聖地を訪れ、また、その地域を守るために『聖騎士団』が設立され防衛に当たることにもなった。
「聖征は何も、カナンの地だけじゃなかったの。当時、神国は半分以上サラセンの王朝が支配していて、四百年くらい続いていたのよね」
「旧王国のシャル大王が何故大王と呼ばれたかと言えば、当時、神国を占領したサラセン軍が王国に侵攻した際に、撃退しさらに神国へ攻め込み戦果を上げたからです。その時、現れた聖人が……」
「『聖ヤコブ』です」
サラセン軍と対峙した大王が敗走した際、反撃のための先頭に白馬に乗った『聖ヤコブ』が降臨し、大王を支え勝利をもたらせたという『伝説』が存在する。この事が発端で生まれたのが「西方巡礼街道」である。
実際、カナンの聖王国が失われ、その後、修道騎士団が王国において異端とされ解体されたのだが、その際、帝国に向かった修道騎士団の残党は東方殖民の尖兵となり、やがて『商人同盟ギルド』を育てる事になる。
また、北に逃げた残党は連合王国と敵対する『北王国』に与し、連合王国の侵攻を防ぐために尽力した。その後、連合王国が北王国の血筋を取り入れると、連合王国に根を張るようになる。やがてそれが「自由石工組合」という集団を形成し、石工の職人ギルドから、秘密結社へと転換し王国や帝国、海の向こうの州国へと影響を広げていった。
そして、西に向かったものは、未だサラセンと戦い続ける神国の騎士団へと組み込まれ、再編されていった。『御神子騎士団』などと称する聖騎士団は、修道騎士団の騎士を取り込み、再編されたものである。これらは、全て神国国王直属の騎士団となり、サラセンとの戦争の主力となった。
サラセンを神国から追い出すと、神国内から異教徒・異端を追放し、さらには新領土となったネデルの地でも同様の活動を始める主力となる。当時の騎士や貴族は、修道騎士団の流れをくむ聖騎士の影響を強く受けた原理主義者であったからである。
神国は海外に新領土を持つようになり、その原住民も『異教徒』ということで殲滅し、支配するようになる。これも、原理原則はおなじことであった。サラセンとの戦争で王国の半分程度の人口ながら、騎士は倍ほども存在しており、彼らの「再就職先」は新領土となったネデルや内海沿いの島、そして西の大洋の彼方であった。
「それで、なんで吸血鬼が関わるんです?」
クリスは、この長い話に終始疑問を持っていた。原理原則からすれば、魔物である『吸血鬼』を『聖騎士』が討伐するのが当然ではないのか。神の摂理から乖離した悪しき存在が『吸血鬼』なのではないかと。
「吸血鬼を利用しようとしたのです、彼らは」
「その結果、ミイラ取りがミイラになったというわけ」
吸血鬼はオーガほどの力を持ち、また、魔力を有する魔剣士・魔術師として優秀であった。吸血鬼は魔力持ちの魂を求めており、それが簡単に手に入るのが、異教徒との戦場であった。サラセン人との戦争において、吸血鬼を味方にすることは、修道騎士団の残党にとって有意であったのだ。
「異端や異教徒には容赦ないけれど、魔物には寛容だったってわけ」
「吸血鬼と神国は利害が一致したわけです。さらに、吸血鬼の持つ知識や財産なども魅力的だったのでしょうね」
「結果として、神国の聖騎士団は吸血鬼の影響を受けるようになったというわけ」
クラーラは既に意識が飛びそうである。クリスは結局この話がどこに向かっているのかわからなくなりつつある。
それを察したオリヴィが結論を伝える。
「巡礼街道というのは、その聖騎士団が整備し吸血鬼が活用している『魔力持ち』を掬い上げる『梁』の役割を果たしているのよ」
『梁』というのは、川に設置されている川魚をとるための罠の一種である。革を遡る魚が誘導され、やがて簀子の上に弾き出されて逃げられなくなるのだ。
巡礼街道という流れに、吸血鬼と吸血鬼の支配下にある集団が罠を張っている。そして、巡礼にやってくる魔力持ちを捕らえるために活動している。他国から来る魔力持ちを効率よく刈り取る事ができる。
巡礼の旅で、巡礼者が失踪したり死ぬことは珍しくはない。命がけの旅である。それを逆手にとって、数少ない魔力持ちを掻っ攫う罠として利用している人と、その集団を支配している吸血鬼がいるということだ。
『なんだか、大変そうだね』
クラーラのまるで他人事の不用意な発言に、クリスは少々イラっとした。
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