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第一話 巡礼の聖女 『ホテル』に泊まる

お読みいただきありがとうございます!

第一話 巡礼の聖女 『ホテル』に泊まる


『鉄道の旅とホテルのすすめ


 王国内にこの二十年ほどで多くの鉄道の路線と駅が建設された。これまで

と比べ、はるかに短い時間で王国内は言うに及ばず、隣国に向かう事が

できるようになったのは、良い事であろう。


 旅の楽しみといえば、行った先で食べる食事にご当地自慢のワインなど

であろうか。鉄道の旅は、乗り継ぎなどで途中下車し一夜の宿を

必要とする場合もある。その際、地理不案内な旅行者が安心して宿泊

できる場所が新設された駅に近い『ホテル』なのである。


 実は、鉄道の普及著しい連合王国においても、首都において『駅舎併設

ホテル』がもう三十年も前に建設されているのである。まるで古代の神殿

のような石柱を配した異世界の宿泊施設のように見えなくもない。


 これは、地方の主要な都市にも駅舎併設に限らず、駅の前に真新しい

ホテルが次々と開業している。そこでは、当地を治めた貴族や富豪が

雇い育てた料理人の末裔や使用人が、第二の勤め先として職を得ている

のは、「大陸戦争」後の世界において見慣れた光景であろう。


 王都においても、『百貨店』とならび『ホテル』の開業が大いに街を

賑わせている。これは、近日行われる万国博覧会に向け、街の再開発と

並行して行われている事業の一つであり、同じ事が王国内の鉄道敷設

の為された地域においてみられる現象である。


 皆さんも是非、鉄道に乗り、変わりゆく王国の諸都市を巡ってみることを

お勧めする。商談であれ、帰省であれ、新婚旅行であれ鉄道の旅は人生を

豊かにしてくれること請け合いなのだから。


――― 内務省王国観光局 次長 クリョン・リッツ




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『では、私はここで』

『ごめんねぇ……』

「まあ、ケット・シーだから。じゃあ、何かあれば呼ぶわね『シュワルツ』」


 ケット・シー=猫妖精は『黒猫』から、そのまま帝国語の黒に当たる『シュワルツ』

という名前を付けることにした。黒猫でもいいのだが、クラーラが「可愛くない」

と反対したのである。因みに、クラーラは『シュワちゃん』と呼ぶことにした。


『畏まりました、我が主』

「『主』って……まあ、契約した方がお互いのためみたいだから……」


 シュワルツはクリスと『主従契約』を結んだ。魔力を与える代わりに、

クリスを守護するという関係である。勿論、それ以外も個別の依頼を受ける

ことはするつもりである。要は、『猫騎士』のような関係であり、クリスに

猫が剣を捧げたというところだ。


 二人は50フラン金貨を出し、彼女たちが泊まれる中では最も良さそうな

真新しいホテルに宿泊することにした。鉄道の敷設にともない、駅のある

街には貴族の館を模した『ホテル』が建設されている。旅のお客が見合う

金額を払えば、誰でもそれ相応のもてなしを受けられる新しい商売である。


「巡礼の旅で、こんな高給宿に泊まれるなんて思わなかった」

『綺麗で新しいね。感じのいい給仕さんたちだし』


 美少女二人は、巡礼用の修道服以外の着替えを購入することにした。

あまり高価ではないが、裕福な商人の娘とその使用人といった感じになる

簡素であるが質の良い既製服である。クリスは、少し大きめの物を買い、

リボンなどであちこちを詰めるように縛る必要があったが。まだまだ成長期、

ちょっと大きめがお約束である。


 当然、クラーラがお嬢様、クリスが小間使いの少女である。


『さて、まずは……お腹いっぱい食べようかな!』


 ホテルの料理も良いが、周辺のおいしい料理屋でも食べてみたいものだ。

旅行客向けのレストランもあるだろう。そこは、ホテルよりも安かったり、

量が多かったりする。貴族の城館を模したホテルよりも、クラーラがテーブル

マナーを気にせず食事できるだろう。


「では、参りましょうお嬢様」

『うむ、よきにはからえ』


 いったいお前は誰なんだ。お嬢様はそんな言い回ししないぞとクリスは思った。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『主、お供いたします』

『あ、シュワちゃん。元気だった?』


 妖精に寿命や病気は存在しないはずだ。死は存在の消滅で、これは

ありえるし、怪我もする。はず。


 二人は、旅行客に評判と言うルージュ料理のレストランへと向かう。

以前、屋台や巡礼者向けの安い宿で食べた食事は、それなりに楽しめたが、

ルージュの料理と言えば、元貴族のお抱え料理人が始めた料理屋のもの

が良いのだ。


 王都などには、外国や王国内から裁判や進学でやって来る人向けの

料理屋がそれなりにあったのだが、地方には宿と酒屋が一緒になった

程度のものしかなかった。それが、貴族の特権が廃止され、沢山の使用人を

雇う事が難しくなった結果、お抱え料理人が独立し大きな都市で裕福な

市民向けに『レストラン』を始めた。


 一人で抱えられないなら、小分けしてもらおうというようなものである。

ホテルのサービスが素晴らしい理由も同じ根源であり、これは、執事やメイド

と呼ばれる屋敷を整える使用人をホテルが日割りで提供するというものだ。

住みこみのメイドは貴族でなくとも珍しくないし、商人であれば子守の少女や

家事を担う通いの使用人を雇っている場合も少なくない。


 しかしながら、『貴族風』というところがポイントである。食事にしても、

宿泊にしてもサービスの質が高くなければならない。


『ファンブルにもこんな料理屋があればいいのにね』

「うーん、船乗りなら船長や航海士さん向けってことね」


 船長なら『キャプテン(大尉)』であり、航海士なら尉官相当だろうか。

船乗りは陸上の勤務よりも待遇がずっと篤い。ついでに言えば、金払い

もかなり良い。


「今までなら娼館とかにいくだろうけど、年配の方や娼婦に用がない人も

いるでしょうしね」

『あとは、商談する場所としても良いと思う。落ち着くし、一緒に食事したり

お酒を飲んでお話するとか』

「ああ、貴族の館のサロンとかそういう場所の代わりね」


 二人には用がないが、実際、ルージュのホテルには、滞在客が来客と

会うための『サロン』と呼ばれる喫茶室が存在する。給仕もいるので、

ゆったりとした話ができるし、軽い食事も用意されている。勿論、アルコール

もだ。





 二人が入った料理屋で注文したものは、『ベルリ風マスのオーブン焼き』

である。


『美味しい』

「ベリーのソースに生クリーム。贅沢ね」


 ロマンデならばこれがシードルベースのソースであったりする。バターも濃厚

なクリームソースと塩の利いた白身の味。玉ねぎと胡椒で生臭さも消えている。

これに、ジャガ芋のガレットが添えられている。


 肉料理も悪くないのだが、鮮度の良い川魚が食べられる場所と言うのは

限られている。これからの巡礼の旅を考えると、魚料理を楽しんでおくことは

悪くないと思うのである。







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