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第四話 巡礼の聖女 『警部』を捕まえる

第四話 巡礼の聖女 『警部』を捕まえる


 銃が使えないと分かったブレダ警部は、撃ち尽くしたリボルバーをクリスに向けて投げつけると、来た道を戻るように走り出した。


『あ、逃げた!』

「いいから追う!!」


 狭い路地に入り込まれたら、土地勘のない二人には追いつける気がしない。身体強化を掛けた者同士、馬の全力疾走ほどの速度で街路を走っていく。既に暗くなり人通りもまばら、妨げるものは何もない。


 既に背中が小さくなり始め、クリスはかなり焦っていた。


「先に行ける?」

『任せて!』


 つい一年ほど前まで、ヒレで泳いでいたはずのクラーラは、クリスより勢いよく前に飛び出していく。イルカやクジラがジャンプするときに、水面を叩く尾びれの力強さってこんな感じだろうかとクリスは思う。


 ぐんぐんと追いついていくクラーラは、おりゃ! とばかりに鉄鞭部分を取り外すと、ブレダ警部に投げつけるとGUSA!!とばかりに、太腿の後ろ辺りに突き刺さる。


「ぐわあぁぁ!!」

『やったぁ!!』


 脚には太い血管が走っている。血管が破れると致命傷である。クラーラは足を抑えて転げ回る『警部』の近くでクウォータースピアをかざし、フィストバンプを決めている。


「クラーラ!! 鉄鞭を抜くのはちょっと待って。足の血管の太いのが切れるとそのまま失血死するから。おっさん、聞こえた。あんた死ぬかもよ」

「ひいぃぃぃ……」


 おろしたて同然の紳士の装いが馬糞だらけ、泥だらけ、おまけに血みどろ穴あきズボンと化している。そして、大泣きに泣き始める。おい。


「死にたくねぇ……」


 このおっさんは多分死刑になる。確実かもしれない。だが、今死なせるわけにはいかないのは、手続きを踏んだ上で罪を明確にしてからでなければならないからだ。


「クラーラ。一二の三で抜いて」

『ええエエェェぇ』

「大丈夫。いい。一、にーの、三!!」


 クリスは小火球を発生させたうえで、傷口に火薬をまぶしておきクラーラに鉄鞭を引き抜かせた後、火薬に点火した


 BOWW!!


「ぎゃあああぁぁ!!」


 肉の焼ける臭いに服の燃える臭い。傷口を焼き固め、一先ず問題ない状態とする。手錠を腕と足にかけ、身動き取れない状態で地面に転がせる。


『これ、どうするの?』

「迎えが来るのを待つのよ。ほら」


 来た道を指し示すクリス。警察署の方向から、オリヴィとビルらしき影が近づいてくるのが見て取れる。どうやら、役目は果たせたようだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「チョコレート無事貰えそうね。で、それどういう状況?」


 オリヴィは、地面に転がる焼け焦げたオッサンをみて、クリスに説明を求める。


「私たちが拘束に失敗して逃走されたのです」

「……それで……」


 このままでは細い路地にでも逃げ込まれたら困ると思い、クラーラが全力で追いかけ、足止めの為に鉄鞭を投げつけたところ、太腿に突き刺さり『警部』は転倒。そこで、そのまま刺さった鉄鞭を引き抜くと出血多量で死ぬ可能性もあるので、火薬を振りかけて焼き固めたのだと説明する。


「ま、いいか。ポーションあるけど、もったいないよね」

「うう、いてえぇぇ……た、頼む……ポーションかけてくれ」

「え、いやよ。どうせ死ぬんだから、もったいないじゃない。せいぜい、裁判終わるまで生きていればいいんだから。必要ないない」

「ないないですねヴィ」

『ないないだよぉ』


 みんな意外と冷たい。死刑になるまで、死刑が決まっていたとしても人権は守られるべきなんだよ。いいね。(人権を守るとは言っていない)


 そこに、憲兵隊の無天蓋馬車が到着。わらわらと降りてきた憲兵達の背後から、「ちょっと待て」と声がかかる。どうやら、市警の警邏隊が現れたようだ。


「責任者は誰だ」

「ん、私。オリヴィ=ラウスが指揮を執っています」

「ラウス殿か。その者はこちらで預からせてもらう」


 市警は何らかの理由を付けて、ブレダ警部を憲兵に引き渡したくないようだ。それはそうだろう。身内の恥であることは間違いない。


「この場に、市長か市警察の長である警視はいるのかしら?」

「警視……しょ、署長はいない」

「じゃあ、王都の内務省から司法警察官でも派遣されて、指揮でもとっているのかな?」


 一般的には分かりにくいのだが、警察には『行政警察』と『司法警察』という者がある。前者が街の治安や交通整理など日々の街の管理を行う機能をになっている。市においては市警察が、それ以外の王国内の諸地域では憲兵が単独で担っている。駅馬車の警護などはその一環である。


 しかしながら、重犯罪、殺人・強盗傷害・違法薬物・詐欺・内乱騒乱・外観誘致・組織犯罪などに関しては『司法警察』が担っている。これは、これは、内務省が認めた司法警官が担う事になる。市警においては市の行政の長である市長と、その市長が付託した市警察の長である警視、そして地方裁判所の判事が担う事になる。


 つまり、オリヴィが言いたいのは「管轄外の事に口出しするな」と遠回しに言っているのである。


「私は、内務省から依頼を受けてこの地の犯罪組織とその関係者の逮捕拘束及び処分を行っている。依頼書と私の身分はこれよ。あ、触らないでね」


 オリヴィは内務省の辞令交付書を提示する。ルージュに関する組織犯罪の調査及び逮捕捕縛に関する全権委任。内務省特務審議官との肩書。これは警視の上、大臣・事務次官の下であり、事実上この案件に関してのフリーハンドを得ていると考えられる。


 市長や警察署長程度では行動を阻害する事すらできない。知事でも「お願い」程度である。


「で、あなたたちも憲兵に捕縛されたいの? 協力者が他にもいるってことで、口封じにこの男を処したいのね」

「……べべべ、べつにそうじゃねぇし」

「お、お、お、俺達はそいつが犯罪組織に関わっているなんて知らなかった」


 動揺する警邏が何人かいる。


「ははは、内偵済みですから、しらばっくれても無駄ですよ皆さん。大人しく収監されて取調べを受けることをお勧めします。でないと、処されますよ?」


 ビルが爽やかにビビる警邏達に告げる。


『詰んでるんだ』


 膝から崩れ落ちる警邏達を横目に、クラーラがぼそりと呟いたのである。




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