第一話 巡礼の聖女 仕事が終わらない事に気が付く
第一話 巡礼の聖女 仕事が終わらない事に気が付く
『 州国内戦の終結と先住民戦争の進展に関する報告
現在、州国内戦は終結に向かいつつあり、半年程度で結果はでると思われる。工業力に勝る北部同盟が農業を主産業とする南部連合を駆逐することは動かせない事実である。
今後、州国は州国中央を南北に流れる『チペワ河』のさらに西に向け開拓と開発を継続することになると考えられる。その為には、当該地域に居留地を有する『先住民』を追い出し、鉄道を敷設し、殖民都市を建設する必要がある。
戦争を通じて新たな鉄道敷設能力、生産能力を高め、さらに、先住民との武力抗争に必要な軍事力も内戦終結で振り向けられるようになりつつある。
内戦期間中においても、先住民の武力抵抗は発生しており、州国大統領は内戦中であっても軍を振り向け鎮圧をしてきた。父祖の地を追われ、西の未開拓地域へと移動させられる先住民の怨嗟の声は日増しに高まっており、『狂馬』『座牛』などと呼ばれる先住民の英雄を中心に、殖民勢力に対し反抗勢力が集結しつつある。
州国政府は先住民を統制し西部への開拓を行う法整備を進めており、僅かな支度金を支払い先住民の土地を取り上げるつもりである。その法に従わねば軍を差し向ける事になるだろう。
州国軍内部では『新時代の聖征』であると囁かれ始めており、先住民らが御神子教徒でないことから、討伐する対象と見なす事を考えている。しかしながら、州国が連合王国出身の原神子教徒の中で、更に先鋭的な『清神子信徒』であることから、教皇庁が唱える『聖征』となることは考えられない。
しかしながら、原神子教徒らが王国内でもたらした災禍と同じ動機により州国先住民は討滅されるに至ると推測される。
建国から継続した内戦外征を経験することにより、州国は世界に比類なき軍事大国になる事が想定される。その場合、将来的に王国の外交において大きな影響を持つことになるだろう。宗派の異なる大国が生まれる事は、異教徒の大国以上に困難な相手となると考えねばならない。
――― 外務省 新大陸局 州国調査部より ―――』
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生き残った幹部数人、数十人の構成員と工房で働いていた職人や作業員が憲兵に捕縛されゾロゾロとアイネル城を出ていく。すっかり夜は明け、用意された馬車に分乗し、近くの街まで移送される。そこからは、川を下る船にのせられルージュへと向かうことになるだろう。
『やれやれようやくこれで』
「巡礼の旅に戻れる」
最近すっかり、探偵業が板につき、本来の目的を一瞬忘れつつある二人だが、ようやく本来の目的に戻れるそう思っていた。
「わけではないのよねこれが」
「ですよ、お二人とも」
一晩明け、クリスとクラーラは疲れた顔をしているのだが、楽をしたのか場数の問題なのか、オリヴィとビルはしれっと不穏なことを二人に告げる。
「終わったわけではない?」
『なんですとぉ!』
そんな事ではないかと感じていたクリス、既に終わった事だと考えていたクラーラ。犯罪組織の主要な部分は確かに駆除した。資金源となる『アニス』の製造設備、その技術者・職人、そして隠れ家兼製造工場も取上げ、幹部、構成員もあらたか捉えた。ルージュにある活動拠点や協力者も主だった人身売買や暴力沙汰を行う構成員も潰した。
しかしながら、ルージュの支配層にありながら、犯罪組織に協力し、ルージュの住民以外であるという理由で王国の民を犯罪組織の糧とする事を容認した、『判事』『警察幹部』『市議会議員』『市官吏』を見逃す事は許容できない。
「まあ、憲兵が粗方、この施設にある書類や帳簿の類を調べて市警の頭越しに処理するんだけどね」
「逃げ足の速いものもいますから。その辺りは、我々が対応する必要が
あるんですよ」
市議会議員や市の職員・官吏の協力者は、一年程度の懲役となんらかの罰金、公職追放といった処分がなされるであろうが、意図的に市警察の活動を妨害し情報を組織に流していた『警部』や、犯罪組織に関わる裁判を起させないように握りつぶし棄却してきた『判事』に関しては、実際、顧問か社外重役のような立場であり、幹部も同然であった。
「これ、内務省からの免責状ね。『判事』の髭親父と、冷血『警部』は、こっちで好きに処分していいって。魔力無どもだから、二人にとっては簡単な仕事だろうけどね」
「はあ。これも、探偵の仕事のうちなんでしょうか」
『ずいぶん、荒っぽいことする仕事なんだね探偵って』
探偵は私兵・傭兵の類であり、依頼主の依頼内容を法に適う場合も適わない場合も処理する存在ではある。今回は『免責状』があるため、関係者以外の殺人や放火などといった行為以外は、認められることになるようだ。治外法権状とでも言えばいいのだろうか。
「やりすぎんなよ、と言う奴です」
『まかせて! 悪い奴は捕まえないとね』
「捕まえられればいいけど、捕まえるまで巡礼進まないんだよ。分かってるのかしら?」
四人はオリヴィが呼び寄せた乗り心地の良い『コーチ』のようば大型馬車に乗り、ゆったりと体を伸ばしてルージュへの帰途に就く。
「仮眠をとりなさい。あと、これは暖かいスープと焼きたてのパンよ」
「『おおぉぉ!!』」
オリヴィの魔法袋は特別製であり、時間の経過がおよそ百分の一の速度となっているという。一週間前の作り置きであっても、一時間ほどの時間経過にしかならないという。昨日収納したスープなら、十分か十五分ほどの経過になるだろうか。
「あち!」
『うーん、どう考えても作りたて』
「はは、ゆっくり食べて、お休みください二人とも」
オリヴィとビルは、回収したらしき書類のうち、帳簿の類に目を通している。ルージュに戻り次第、特級探偵として市内の関係者の捕縛に向かわせる為の情報整理を始めたというところだろうか。
――― 頭脳担当と、肉体労働担当。まるで軍隊
クリスに不満があるわけではない。それは、教会組織でも同じことだ。司祭や司教は士官・高級幹部であり、助祭ですらクリスのような修道女見習からすれば雲の上の存在である。一生かかってもクリスは修道女以上の存在になる事は多分ない。
それが、世の中なのだ。
「上は色々大変なんだよ」
『そうなんだ。そうかもね。ハンス王子も大変そうだもの』
ハンス王子は、自分の兄が継ぐ公国が連邦の中に吸収されつつあることから、経済的に自立するために努力しているといえばいいだろうか。付き従う使用人や家に代々仕えるものたちを食べさせていく方法として商会運営を行っているとも言える。
「民を利用して自分たちの欲を満たす事を考えるか、民を支える為に苦労を厭わないか。貴族だ上流階級だと言ってもいろいろよね」
犯罪組織がルージュで活動するにしても、市の支配階級に協力者がいなければここまでのさばる事はなかったであろう。そう考えれば、本来民を守るべき存在が、犯罪者に与していたことは、犯罪組織自身より罪が重いと考えるだろう。それは、免責される事になるのは当然だとクリスは考えた。
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