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第九話 巡礼の聖女 灰色乙女の登場にホッとする

第九話 巡礼の聖女 灰色乙女の登場にホッとする


 肩にアンリ銃を掲げたオリヴィが「ヤッホー」とばかりに気の抜けた声をあげつつ、クラーラのところに歩み寄って来る。


 CHUIINN!!


「お待たせしましたクリス。『Frosti(動くな)!!』」


 騎兵銃を構えたビルがクリスの背後から、『黒豹』に狙いを定めながら割って入る。


Magisto(王国の) de la (魔術師が)regno!!』


 どうやら、赤エルフ語をビルは解するようだ。鋭い眼光を憎々しげに歪め、『黒豹』は拳銃をビルに向ける。


「いただき!」


 一瞬の身体強化、ビルに気を取られた隙をついて魔銀鍍金製の銃剣に魔力を通し、その拳銃を握る手にクリスは斬りつけた。


doloro(痛し)Knabineto(小娘)!!!』


 落した銃を拾い上げ、ビルの背後へと飛び戻る。

 

「はは、流石抜け目がありませんね」


 目は『黒豹』からひと時も離さず、口元だけを僅かに歪め、クリスの行動を賞賛するビル。これで、圧倒的にこちらが有利となった。


「おりゃあぁ!!」


 場違いな声が中庭に響き、何事かと構成員たちを捕縛中の憲兵達、そして、クリスもその声の発せられた方向を思わず見てしまう。


『痛そう……』

「めちゃくちゃ痛そう」

「はは、ああ見えてもヴィは相応の膂力持ちですから。見た目に騙されるんですよね」


 文字通り、体をL字型に背骨側からへし折られた『野牛』が地響きと共に地面に叩きつけられる。上半身は反応しているが、下半身はピクリとも動いていない。そして、顔からあふれ出る脂汗。背骨が折れて激痛が走り、なおかつ、下半身不随というところか。


Mi diris (灰色乙女には)al vi, ke vi (気を付けろと)gardu la grizan(言ったであろう) junulinon』

pardonu(すまぬ)


 風を体の周りに纏わせ、銃弾を逸らせるように『風』魔術を行使した『黒豹』が一瞬で城塞の上まで飛び上がる。複数の『風』魔術と身体強化の

合わせ技であろうか。


"『Ĉi tiu(この場は引く) loko tiras。Estante (大人しく捕まれ)kaptita trankvile』

"

Mi (了解)komprenas!!』


 体の周りの空気を歪めながら、ふわりと中空に体を浮かばせると、一瞬で城壁の外へと姿を消す『黒豹』。


「ヴィ、追いかけますか?」

「今日のところはこのデカ物だけで十分よ。依頼の中に、『赤エルフ』の捕縛まではふくまれていないのだから、首領の捕獲を優先にしましょう。こいつらは、いわば、組織の私たちのようなものよ」


 二人の赤エルフは憲兵組織におけるオリヴィの立場……外部協力者であるということだろう。ルージュの犯罪組織の壊滅が依頼事項であるのだから、外部協力者の討伐より、城館内に潜む幹部の討伐を優先にするという事だ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 身体強化のできる『野牛』だけは、他の逮捕者と別にオリヴィが身体強化能力持ち用の拘束衣で包んでしまう。本当の簀巻き状態である。


「腰の骨と背骨が折れているから、丁度いい固定具になるんじゃない?」

「どうするんですかヴィ。引き渡すおつもりですか?」


 ビルは後腐れ無いように……と考えているようであるが、オリヴィには何か考えがあるようだ。


「やっぱり、州国に入り込んでいるんじゃない? あっちは、魔力持ちがまだ沢山いるから、吸血鬼どもがいるって説明しているのに、ちっとも理解しないんだから」

「陸続きではありませんし、吸血鬼は本来、流れる水を渡れませんからね。まさか、船に乗って新大陸に吸血鬼が入り込むとは思っていないのですよ。そもそも、原神子教徒の過激派の創った国が州国ですから。吸血鬼などというものは、教会が無知な大衆を怖がらせる方便だとでも考えているのでしょう」


 内戦中の州国に、吸血鬼が入り込んでいる。そして、協力者は先住民の『赤エルフ』たちであるということなのだろう。海を渡った原神子教徒たちは、『神から与えられた土地』などと嘯き、共存共栄を考えていた先住民から新しい農作物や資源を手に入れられるだけ手に入れると、最初は布教活動を通して、のちには国同士の戦争に協力させ、やがて州国が独立すれば、迫害対象として土地を追い出し、従わぬ者を武力で討伐した。


 ようは、国家を建設し大々的な詐欺行為をを赤エルフ相手に働いたわけだ。


「古代の帝国は、先住民と戦いはしたが、従う者は帝国の民として受け入れたものですが、州国は多くの先住民の恨みを買っていますね」

「そこに、吸血鬼が付け入る隙があるのよね。嫌になるわ。海の向こうまで出張るわけにもいかないし、州国がどうなろうが私には関わりないしね」


 オリヴィとビルが『野牛』を拘束しながら会話をしている横で、クリスは魔力が切れかかっているクラーラの介助をしているところだ。


『ひぃー 死ぬかと思ったよ』


 青ざめた顔色、そして、滲み出る汗。顔には埃が付着しており、かなりみすぼらしくなっているクラーラ。地面を転げ回り、回避し攻撃を加えたクリスも似たり寄ったりの姿だ。


「水飲んで」

『ぐふぃ……水は魔術で出せるよ』

「無駄な魔力を使わない! まだ終わったわけじゃないんだから」

『そうだ、そうだったよぉ』


『野牛』の見張にビルが残る事になり、城館内に立て籠もる首領の捕縛はどうやらオリヴィと……


「さて、仕上げに行きましょうか」

『当然……』

「強制参加……ですよねぇー」

「ふふ、今回は『赤エルフ』捕縛に成功したんだから、手当弾むわよ」

「『やったあぁ!!』」


 現金な二人である。


 


 由緒正しい城館であり、持ち主からの訴訟沙汰を避ける為にも、出来得る限り室内を傷つけないでもらいたいという雇用主からの希望。それ故、魔力持ち三人での突入、原則銃は用いないという事になる。


「室内では取り回しが難しいからね。ちょうどいいわ」


 クラーラのボルカニック銃は比較的使いやすいが、アンリ銃や双発銃は大きいので、狭い屋内では使いにくい。何より、オリヴィはまともに戦うつもりはないようである。


 クリスとクラーラの二人を従え、つかつかと城館の入口扉の前に進むオリヴィ。


「聞こえるかしら? 吸血鬼になるには魔力持ちでなければならないのだけど、あなたたち魔力持ちじゃないから、どうあがいても吸血鬼になんて成れないんだけど、知ってた?」


 扉の向こうから、呻き声にも似たオッサンたちの悲鳴が聞こえてきた。



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