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第八話 巡礼の聖女 野牛と黒豹に出会う

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第八話 巡礼の聖女 野牛と黒豹に出会う


 一人は、大きな鼻を持つ菱形の目の鋭い雰囲気の男であった。歳は恐らく四十代前半くらいだ。大きな羽を自分の結った髪に差している。黒目がひと際大きく細められた眼からすれば、黒目ばかりに見える。『野牛』のような戦士である。


 今一人は、面長で知的でありながら底冷えのする眼光の男であり、布を巻いた頭巾の前立てに黒い尾羽のような飾りを付けている。戦士というより魔術師然とした雰囲気であるが、やはり『トモハーケン』を手に持っている。


 二人とも王国風の仕立ての服を着ているものの、その使われている毛織物が先住民の織物である雰囲気が強くする。ホームスパンとでも言えばいいのか、少なくとも王都の仕立て屋で扱う種類の素材ではない気がする。『黒豹』のような男だ。

 

『野牛』がノシノシと前に出てくる。


『魔力、相当まとってるよ!』


 クラーラにどのように見えているか分からないが、夜の闇にぼんやりと鬼火のように体が光り輝いている二人の赤エルフがクリスにも見て取れる。


「あんなに魔力があふれるほどあるなら、楽ちんだよね。うらやましい」


 魔力量が旅の間の鍛錬で伸びているとはいえ、クリスはクラーラの数分の一に満たない魔力量にすぎない。無駄に溢れ出す魔力などない。


Mi ne(ここは) preterpasos ĉi tien(通さぬ)


 クリスは身体強化を用いつつ、『野牛』の足元を姿勢を低くして抜ける。マッチョは足元に弱いものだ。すれ違いざま、一瞬魔力を通し、魔銀銃剣で斬りつけるが、何か金属鎧の表面を撫ぜたように切っ先が入らないで弾かれる。


『魔力量負けだね』

「うるさい!!」


 青白く光る魔力は体の表面を文字通り鎧のように覆っている。魔力鎧とでも表現すればいいのだろうか。クラーラの装備した魔装手袋のような装備がなくても、同じ効果が得られているようだ。


 クリスは、オリヴィ達以外にこれほど魔力量が潤沢な相手と対峙した経験はない。なにより、手合わせ以上の経験がないのだから、どうすればいいのか迷うのだが、簡単に結論を出す。


――― 後回し


「クラーラ、死なない程度に相手して。あたしは、銃手を仕留める」

『えええぇぇ、そんなぁ!』


――― そして、押付ける


 背後に並ぶ、犯罪組織の構成員は、前装式だろうか大陸戦争時代のライフルマスケットを再装填している。明かりの無い中庭で、マスケットの再装填など簡単にできるはずもない。


「とぅ!」

「あぎゃあぁぁ!!」


 装填するオッサンたちの背後に近づく。マスケット銃が廃れた理由は、威力以前に、立ったままでないと再装填できないからである。その間、敵の前に体を晒してしまうので、伏せ撃ちのできる後装式の銃と対峙した場合、同じ単発銃でも損害を受ける度合いが全く異なる。


 塹壕でもあればともかく、隠れる場所もない中庭では、斬られ放題になってしまう。


 致命傷にならない程度に、足や腿に傷をつけ、行動を制約するクリス。そこに、楼門を通過した憲兵達が数人ずつに別れ中庭に突入してくる。


 痛みに転げ回る構成員に銃剣を装備した小銃を突きつけ、次々に制圧していく。


「分隊長は!」

「誰だ貴様は!」


 クリスは、オリヴィ旗下の探偵であると告げ、オリヴィは未だ工房から出て来ていないことを伝える。そして、現在、目の前で魔力持ちの組織幹部と対峙中であると伝える。


「こいつら任せても?」

「ああ。オリヴィ殿にも状況を伝える。先ずは、あの幹部を拘束していてくれ。俺達じゃ相手にならん」

「……ちっ!」


 イラっとしたクリスだが、憲兵は魔力持ちと対峙したなら、鍪殺されるしかない。死傷者多数となれば、特級探偵のオリヴィと言えども依頼未達にされかねない。それでは、出来高払いも目減りする可能性があるので、安全な場所で職務に徹してもらいたい。


 それより、『野牛』と『黒豹』だ。




『クリス!! たすけてぇ!!』


 どうやら、『黒豹』は『風』の精霊魔術を行使し、クラーラの魔力壁を常時展開させ、魔力切れを狙っているようだ。クラーラは、魔力壁を展開しつつ、『(Aqua)( film)』の『水』魔術を展開、『野牛』の視界と呼吸を奪い、防御に徹している。亀状態だ。


「失せろ!!」


 『黒豹』の背後から、双発銃の片側に仕込んだ『散弾』を撃ち放つ。


doloro(痛し)!』


 銃弾は一発が腰のあたりに、一発が肩甲骨の上あたりに命中したが、さしてダメージを与えているようには見えない。『黒豹』が痛みに顔を顰め振り返り、クリスを睨む。手には『トマハーケン』と……回転弾倉式拳銃。


 CHUIINN!!


 クリスが姿勢を低くし左に飛ぶと、今までいた場所を弾丸が貫き、石畳に跳ね返される。腕は悪くないとクリスは確認する。


「あんな銃、欲しいわね。でも、重そう」


 ハンス王子がクリスの為に探している回転式弾倉拳銃(リボルバー)は36M51 36口径の銃だが、それより一回り大きな銃である。44M48 ドラグーンと愛称の付けられた44口径の銃であり、州国陸軍の正式採用された軍用銃でもある。その威力は、ライフル並みとも言われる。当たれば、一発で行動不能となる。


 PANN!!


 クリスが動きを止めようとする先に、銃弾を送り込んで来る『黒豹』。『野牛』と比べると魔力の溢れはそれほどでもないが、魔力量の問題ではなく、使い方の差であろう。もしくは、身体強化ではなく、魔術に魔力を注いでる結果かもしれない。


「くっ!」


 CHUIINN!!


 精霊魔術を行使し、弾丸の行方を感じにくくしているのだろう。銃口の向きと弾道が一致しないのは、風の精霊の加護による幻惑。空気の揺らぎが、錯誤を与えている。


『クリス! もうだめぇ!!』


 水膜を魔力の開放で弾き飛ばした『野牛』が、猛然とクラーラにトマハーケンを叩きつけている。鉄鞭とクウォーターパイクをクロスさせ何とか一撃を受け止めたものの、身体強化も限界なのだろうかグイグイと押し込まれているクラーラの姿が視界の端に見て取れる。


 PAPAPAPANN!!


 連続する射撃音。そして、ぐらりと体を傾ける『野牛』。


「待たせたわね」


 漸く中庭にオリヴィ=ラウスが舞い降りたのである。




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