第七話 巡礼の聖女 魔力持ち幹部と対峙する
第七話 巡礼の聖女 魔力持ち幹部と対峙する
憲兵隊が突入するまで、本来であれば跳ね橋の確保が優先となる。だが、しかしよく考えれば、ここを二人きりで守るよりは、別の場所、具体的には残された城館若しくは、城館前の中庭で騒ぎを起こす方が有利である。
城館から人が飛び出してくるのを、降ろされた跳橋の前で確認したクリスは、中庭の対角線に向け走り出す事にする。
『ん、入ってきた壁に向かってない?』
クラーラの呟き、間違っていない。
今頃、工房の工員たちはオリヴィとビルが無力化しているだろう。時間を稼げば、憲兵とオリヴィが城館に居る幹部の制圧に向かってくれるはずだ。クリスは十分くらい持たせれば何とかなりそうだと計算する。
『魔力持ち、来るよ』
「……え……」
『ヴォルカニック』に装弾しつつ、様子を伺っていたクリスにクラーラが城館から出てくる偉丈夫を指さし『あいつ』と伝えてくる。
装弾を終えたクリスが地面に伏せる。
PAN!
PAN!
小銃をこちらに向け撃ち放ってくる。メジエル工廠銃と呼ばれる旧世代のマスケット銃だ。とはいえ、百年間作り続けられ大量に配備された良銃ではある。この敷地の中程度であれば、十分狙い撃ちできる程度の性能はある。
暗い中であることが幸いし、初弾を外してから、再装填に時間がかかるのが正直助かる。しびれを切らした魔力持ちの男がこちらにサーベル片手に進んで来る。腰には……リボルバー式拳銃。まずい。
「クラーラ、あいつ足止めできそう?」
『楽勝だよ』
男は、背丈こそビルと同じ程度だが、体の厚みが倍ほどもある。そして、顔には深い険がある。獅子を思わせる顎髭ともみあげ。革の胸甲のような物をつけ、腕は金属製の小手をつけている。
「お前ら、何もんだ。ルージュの拠点を襲っていた奴らか!!」
流石にきがつかれるか。
「だったら何?」
「ぶっ殺す!! 俺の邪魔はさせねぇ!!」
吸血鬼というよりは人喰い鬼にしか思えない。主に見た目が。
『やれるものなら、やってみなよ!!』
クリスの前にクラーラが立ちはだかるように出る。
「馬鹿が、立ち上がれば的だ」
魔力持ちが手を挙げると、背後からクラーラに弾丸が撃ち込まれる。
CHUIINN
「は? はあぁぁ!!!」
CHUIINN
CHUIINN
魔力壁で銃弾を弾き飛ばすクラーラに呆然とする虎髭男。顔を囲むように生えた髭を『虎髭』と呼ぶ。
『ほら、どっからでもかかってきなさい』
鉄鞭を上段に掲げ、クウォーターパイクを下段に構えた天地の構え。ジリジリと摺り足で虎髭に近寄るクラーラ。
「むぅ、これで!! どうだあぁぁ!!」
サーベルを切払うように横薙ぎに叩きつける。魔力を込めた身体強化。その神速の横薙ぎ。
GIINNN!!!
鉄鞭で受けたサーベルが叩き折られる。返すクウォーターパイクが、虎髭の右脇腹に突き刺さり、切り降ろされる。腹の筋肉を割かれたため、腹圧で内臓が一気に外に飛び出すはずなのだが、魔力で高めた力で無理やり抑え込んだようだ。
「見掛け倒しじゃないわね」
『意外と面倒』
身体強化に限って言えば、恐らく二人より使いこなせているのだろう。魔力を用いた身体強化を使い、犯罪組織で頭角を現した。鉄砲玉や暗殺者、もしくは、幹部の護衛として。
「いってぇだろがぁ!!」
『あ、痛いのは痛いんだ』
折れたサーベルを投げ捨て、金属製の小手の拳を固め振り下ろすようにクラーラに殴りかかる。クウォーターパイクを振り上げ切っ先を下に向け拳を受け流す。
「げふっ」
体を回転させ、腹と膝下を鉄鞭で激しく叩いた。腹は強く叩かれ呼吸を止める程の痛みであったが、膝下の打撃は骨が砕けるほどのダメージであった。つまり、虎髭は足さばきが相当怪しくなったということだ。
BISHU!!
BISHU!!
BISHU!!
「があぁぁぁ!!!」
クリスの放った『ヴォルカニック』の弾丸三発が、胸、腹、左太腿に着弾。激しい出血が始まる。
『死なないかな?』
「死なない死なない。てか、止め刺しといた方が良いよ」
『……だね。おそらくこいつが最弱の魔力持ち。他の二人よりかなり弱い』
クリスはボルカニックと双発銃を持ち替える。一撃の威力は双発銃の方が格段に上だからだ。
門楼から憲兵が突入してくるのが見える。と同時に、城館から異装の二人が中庭に現れた。
「何あれ」
『クリスが分からないのに、私がわかるわけないよ』
二人は羽飾りのような冠を身に着け、革製のベストとズボンを身に着けている。何やら新大陸の先住民に見て取れる。変わった毛織物をトーガのように身に付けている。
クリスは、ファンブルの酒場で給仕の仕事をしている時に、船乗りから聞いた記憶がある。新大陸の先住民には、祖先が動物であったとされる部族があり、熊や狼の力を身に纏った精霊魔術の遣い手がいると。
――― 赤い肌を持つ先住民を、伝説の妖精になぞらえ『赤エルフ』と呼ぶ
手に持つは片手斧。『トモハーケン』と呼ばれるそれは、元々は殖民地の住人が本国から持ち込んだ鋼鉄製の斧であった。その斧を道具としてだけでなく、近接戦闘用の武器として使いこなしたのが、先住民の戦士たちであったという。
その身に、祖霊である動物精霊を纏い、極めて高い身体強化能力を発揮する先住民の戦士は、傭兵として連合王国や王国の植民地軍に雇われ、大いに活躍したという。森で遭遇したなら、死を覚悟しろというのが、殖民地での戦闘でトモハーケンを持つ戦士と出会った場合の心得であるというのである。
『だいじょうぶだよ!』
「オリヴィとビルもそろそろ出てくるよね。あたしら、この辺でもういいよね。一人倒したしさ!!」
しかしながら、工房からはしわぶき一つ聞こえてこないのであった。クリスとクラーラはもうひと頑張りする覚悟を決めた。
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