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第五話 巡礼の聖女 アイネルに忍び込む

第五話 巡礼の聖女 アイネルに忍び込む


「うー 寒い。寒いぞ……」


 城壁の上に佇む一人の男。アイネル城塞を根城にするルージュに浸透する犯罪組織の末端構成員……チンピラである。中年に差し掛かった年齢であるが、目の下には濃い隈が目立ち、容貌は老人といっても差し支えない様相をしている。腰にはパーカッションロックの単発拳銃と、反対の腰にはサーベルを吊るしている。


 すっかり日も沈み、今は宵闇深い時間である。夕食もとうに終わり、今は三々五々消灯迄の時間を楽しんでいる者がほとんどだ。男は見張り番だが。


 昔なら、ハルバードか短槍でも装備していたのであろうが、今時、そのような装備を持つ警備隊は教皇庁の山国傭兵くらいのものだろう。


「こんなところ、誰も来ねぇよな」

「そんなことないかもね」

「なっ!!」


 慌てて腰の拳銃を取り出そうとした男の腕を、魔力を纏った右手の鉄鞭が強打する。拳銃を取り落とした男に、無慈悲な魔力を纏った左手のクウォーターパイクが首を貫く。噴き出す血を抑え込もうと懸命に手で首を押さえるが、しゃがみこんだまま男は動かなくなった。


『どう?』

「……お上手」

『でしょ?』


 刺叉で魚を突き刺し慣れているクラーラからすれば、動きの鈍い男の首を切裂くことなど、なんの問題もない。躊躇しないのは、元人魚であるからかもしれない。人間が鶏の首を刎ねるのと、変わらない感覚なのだろう。ハンス王子? 王子と庶民は違う種族だ。


 魔力壁を飛ぶように駆けのぼったクラーラ。そして、魔力を節約のために、クリスはお姫様抱っこをしてもらうことにした。コマンドは『まりょくだいじに』だ。


 アイネル城塞は数百年前に建てられた石塔を中心に城壁を巡らせた変形八角形の城塞である。一対の楼門塔と七つの円塔、それを接続する城壁から成り立っている。入口門楼に接する二面に、工房施設と、城館がそれぞれ位置している。


 二人が立っているのは、門楼の対角に位置する円塔脇の城壁上だ。


 クリスはサーベルと単発銃を回収。銃は使い道があるかもしれない。サーベル?売る気満々だ。冒険者は、手に入れた装備の所有権がある。


 しゃがんでいる二人の背後に、音もなくオリヴィ、そしてビルが降り立つ。


「なかなか良い手際ね」

「オリヴィさんのそれは、魔術?」

「『風』魔術の応用。自らの周りに風を纏わせて滑空することができるわ」


 並の術者であれば、高所から飛び降りる際にパラシュートのように用いるのが精々であるが、オリヴィのそれは王国の科学者が開発した『熱気球』のように変幻自在に空中を上昇下降できるのかもしれない。便利。


「空を飛ぶってどんな気持ちですか?」

「今はノーコメント。それより、任務を進めましょう」


 オリヴィとビルは左手に進み、工房施設のある円塔から内部に侵入。この時間、工房には人がいないだろうが、気配を隠蔽しつつ設備を魔法袋に押収していく。勿論、違法薬物である『アニス』の製造に関する証拠物件であるから当然だ。


 中庭にちらりと人影が見える。警邏中の構成員か。


「あなた達は中庭に降りて騒ぎを起こすのよね」

「……ぼちぼち……やります」

『がんばろー おー!』


 城壁上を時計回りに掃討し、楼門に侵入し内部の構成員を排除しつつ楼門の跳ね橋を下ろすまでが一区切りである。


 周囲の森に潜伏している憲兵隊は、橋が下りたことを確認してしずしずと突入。その間、クリスとクラーラは入口の注意を逸らす為、中庭で暴れるということになる。勿論、城館内に突入しても構わない。


「この城館、マリ王妃所縁のものみたいね」

「燃やすのは不味いです」

「……小火程度になるよう頑張ります」


 マリ王妃とは、チビ将軍がクーデターを起こした時代の王妃様であり、帝国女王の末娘であった、ちょっと能天気なお姫様のことである。血筋の良さと可愛らしさから王太子妃時代は国民からとても愛されており、また、王妃となった後も、一男二女を産み未来の国母として敬愛されていた。


 王政から共和政に一時政体が変化した一連の事変において、王妃は子を守る母として振舞い、王配として振舞う事ができなかった。結果として、マリ王妃は不幸な事故で亡くなった。しかしながら、未だに敬愛される存在であるのだ。


『燃え広がりそうなら、私の水魔術で消して上げる。周りに濠もあるし、水には困らないから』

「お願いしておくわ」


 あてにしているわよとばかりに、クリスはクラーラの二の腕を肘で突いた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 楼門もしくは門楼というのは、二つの円塔を繋ぎその下部を門とし、上部を防御施設兼宿舎として充てたものが多い。場合によっては、牢獄として用いたり、病院とする場合もあったとか。


 アイネルにおいて、『兵隊』役をになう構成員は門楼に、製造関係の仕事をする職人・工員は『工房施設』の一角にある居住区に、そして、幹部は『城館』に滞在している。城館は、元子爵の居城を王家が買い取り、王家ゆかりの貴族や愛妾などの別邸として与えていたものである。


 礼拝堂もあり、ルージュの大聖堂周辺の歴史ある城館に勝るとも劣らない。


 城壁上の回廊を通り、クリスとクラーラは門楼へと至る。城壁上で見張をさらに二人始末し、武器を回収する。かなり重たい。


『置いてきなよ。あんまり良いものでもなさそうだし』

「それもそうね。じゃあ、銃は使い捨て、剣は捨て置くわ」


 剣を捨て、三丁の回収した単発銃を両手に持ち、腰のベルトに突き刺す。


「さて、突入しましょう」

『お先にどうぞ』


 クラーラ曰く、門楼内に魔力持ちはいないという。床の軋み音を気にしつつ、中へと侵入する。廊下にある扉は二箇所。おそらくは、両方とも寝室であろう。


 扉の前に立ち、中の様子を探る。鼾や寝息の気配がする。起きているものはいないだろう。扉の隙間から明かりもさしていないので、就寝中だ。


悪しき者から(libera) 私たちを(nos) お守りください(a malo)

「『アーメン(Amen)』」


 神に祈りをささげ、クリスは魔力の高まりを感じる。指先ほどの大きさの穴が、針の先ほどに絞り込まれ、その分、圧力が高まった感じがする。


主よ(Erhalt)御言葉もて(uns, Herr)我らを(bei deinem)守り賜え( Wort)


 クリスの祈りは、精霊の力を借り、自らの火の力を強める鍵言葉を唱える。


『斬り落とすよ!!』


 魔力を纏わせたクウォーターパイクの刃が、ズズッと金具で補強された木の扉を切り裂く。前蹴り一発、中に飛び込むクリス。


ZDANN!!

ZDANN!!


ZDANN!!


 加護を得て火薬の爆発力を高めた単発銃は、ベッドに寝ている構成員たちをベッドごと打ち砕いた。



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