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第四話 巡礼の聖女 アイネル城の見取り図を知る

お読みいただきありがとうございます!

第四話 巡礼の聖女 アイネル城の見取り図を知る


 情報は刻々と整理され、犯罪組織の根城の内偵調査も進んでいるという。早急に動くより、若干の準備と、向こうの油断を誘う為に時間をかけて進めている為、二人が大暴れしてから既に十日ほどの時間がたっていた。


「これこれ、ようやく図面が手に入ったわ」

「個人所有の邸宅ですからね。おまけに、今は海外在住で地元の管理者が貸し出した先が……」

「『大手犯罪組織』」


長らくこの地を治めていた貴族家がその城塞の所有者であったのだが、政治的問題で、連合王国に長期滞在中であり、その管理は地元の不動産業者がになっていた。恐らく、賃貸料の支払い条件が良かったのだろう。優良顧客として貸し与えて、せっせと送金していたに違いない。


 その結果、由緒ある城館を備えた城塞が、犯罪組織の根城兼違法薬物製造工場となっていたのである。


挿絵(By みてみん)


 その場所の名は『アイネル城塞』という。その歴史は千年前にも遡るのだが、中部・西部との境目に当たり、百年戦争時もこの近辺で唯一王国の支配下を離れなかった城塞なのだという。


「川を遡って50㎞ほどね」

「船で下る分には、半日ほどでしょうか。ヌーベ領に近いですし、脇街道も通っていますから。良い立地ですね」


 ルージュ近くを通りトールへと至るシャル川という河川により繋がっている。


「ここ、内偵していなかったの?」

「ルージュの組織で手いっぱいだったみたいですね。今回、根こそぎ叩き潰していますから、内偵ができたみたいです」


 要は、ガードが固くルージュの組織の末端を根絶やしにしたおかげで、アイネルに捜索が入っても妨害や通報されずに済んでいる結果、急速に情報が集まっているのだという。


「超法規的措置万歳」

「やりすぎると、社会的問題になりますよヴィ」

「今だって十分社会的な問題じゃない? 王国の兵器工廠や砲兵部隊の拠点のある街が、犯罪組織に侵食されて、人身売買や違法薬物で汚染されている。尚且つ、統治者の側にシンパが居て、背後には吸血鬼の影。どこをどう叩いても、社会問題しかないじゃない」


 オリヴィの言う通りだ。吸血鬼になりたがりの犯罪者や、犯罪者の片棒を担ぐ都市の支配層などというのは、根絶して良し!!


「鏖殺されて当然」

『巨悪は眠れない。眠らせない。ん……永眠させる』


 魔力持ちは血の気が多いのかもしれない。


『アイネル城塞』は、変形の八角形の城壁を持つ中世風の要塞であり、大きさはさほどではない。ぐるりと水堀でかこまれ、10mほどの垂直の城壁に囲まれており、中の様子を探る事は難しく、容易に侵入や脱出をする事は難しい。普通であれば。


「これ、得意なレイアウトね」

「ええ。リリアルなら、魔力壁で階段を作ってそのまま突入して制圧ですね」


『リリアル』という聞きなれない単語だが、クリスは王国語で『白百合』の意味であると何となく分かった。白百合に何の意味があるのだろうかという疑問は頭の片隅に置き、『魔力壁』なら、クラーラの担当だ。


 オリヴィは、まず、城塞の壁に立つ見張を無力化し、さらに、正面の楼門にある跳ね橋を下ろし、憲兵隊を突入させるのが最初の仕事であると二人に説明する。


「これ、どうやって渡るんですか?」

「魔力壁を階段状に濠の手前から城壁まで作るのよ。そこを駆け上って、城壁の上の監視員を……無力化する?」

「ようは、息の根を止めるわけですねヴィ」


 クリスの質問に、オリヴィとビルが端的に答える。死人に口なしである。


「突入までは銃を使わないでね。少人数が相手なら、そっと近づいて刺突で仕留める方が良いから。首の血管を切ると、声も出せずに確実に死ぬから」

「ある程度切らないと、動脈迄とどきませんから。魔力纏いをして、刃が全部首に埋まるくらい切裂けば十分です」


 クラーラはなるほどとうなずき、クリスはちょっと嫌な気持ちになる。悪党とはいえ、銃ならともかく剣で首を刎ねるのは少々抵抗がある。ルージュの拠点で暴れた時とは少々異なるのだ。


「楼門の見張は手足を斬って、失血死するかしないかまでで留めていいわ。憲兵隊が突入してくるので、助かりたければ静かにしていろって言えば、黙っているでしょうし、憲兵に何人か捕まえさせたいしね」


 見張はともかく、楼門に詰めている人間は止めを刺さずによいという事だ。


「その後の展開はどうなるんでしょう」

「憲兵隊と調整ね。魔力持ちは逃したくないし、製造施設は無傷で接収したいのよね。証拠が押収できたら、私たちで回収して売却するから」

「大規模蒸留設備ですからね。余計なものを混ぜなければ普通のお酒も

造ることができるので、資産価値があります。買い手もすぐ付くんですよ」


 憲兵は、組織の壊滅とその証拠、構成員特に幹部の確保を優先したいのだという。協力するオリヴィ達に十分な褒賞を与えられないため、その補填として組織の持つ資産を接収する権利を与えられているのだという。


 魔法袋で簡単に回収できるオリヴィと異なり、撤去据え付けにはそれなりのコストがかかる。その辺り勘案して、資産接収の権利を与えたのだろうとクリスは見当をつけた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 数日後、『アイネル城塞』におおよその構成員が集められたという情報が憲兵隊司令部からオリヴィの元にもたらされる。今回のアイネル制圧作戦に関しては、オリヴィが指揮をする事になるという。要は、失敗した場合、責任を負うのは自分たちではないという意味もある。


「大丈夫なのか自信ないよね」

『大丈夫! クリスと私がいれば百人力だよ!』


 人魚は基本的に能天気……前向きな考え方である。探偵四人で密かに突入し無力化。その後、憲兵隊を引き込んで制圧するという流れは変わらない。


 クラーラは幾度か突入の為の魔力壁の形成練習をルージュの郊外で練習し、クリスも高いところが嫌になるほど、魔力壁の階段を登らされた。クラーラの魔力量は十分であり、階段の形成やその後の制圧活動に関しても問題なく維持できそうであった。


 問題は、クリスの魔力量。魔力纏いと身体強化だけであったとしても、心もとない。恐らく、三十分と持たない。


 今までは、数分でけりが付く程度の一蹴できる相手であったが、今回は、それなりの大きさの城塞を一通り制圧するのだから、今までと同じように出来ないかもしれないと思い、不安になる。


 そんな思考を見透かしたかのようにオリヴィが話しかける。


「大丈夫。死ななければ、なんとかなるわよ。魔力は万能じゃないのだから、少ないなら少ないなりに、使い所をよく考えて。それに、あなたの精霊の加護を良く使いこなす事を考えればいいわ。伊達に『マッチ売りの聖女』なんて呼ばれたわけではないのでしょう?」


 オリヴィが何故その綽名を知っているのかと思い、クラーラの顔をちらりと見るが、クラーラとオリヴィは直接コミュニケーションが取れない事を思い出す。「お前か」と眼で言われたクラーラは、首を横に強く振る。


「これも探偵のお仕事です。お二人の事はそれなりに調べていますから」


 空気を察したビルが笑顔で答える。


 マッチ売りねぇ。クリスはそう思いつつ、マッチを使った工夫を考える事にした。精霊の加護を用いるのならば、魔力の消費はほんの少しで済むのである。




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