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第三話 巡礼の聖女 アンリ銃に驚く

第三話 巡礼の聖女 アンリ銃に驚く


 オリヴィが持ち出したライフル型の銃は、これもレバーアクション銃であった。


「これは、州国内戦でも大活躍した人気のレバーアクション式の連発銃ね。『44M60ライフル』で制作者の名前を付けて『アンリ銃』とも言われるのね」


 クラーラの貰った『ヴォルカニック銃』によく似た形式の銃だが、銃身が長く、立派なストックがついている。さらに恐らく色からして『魔銀鍍金』仕上げであろうか。お高そうな銃だ。


「クラーラの銃の改良型になるみたい。弾薬を金属薬莢のものに変えて、薬莢に雷管を付けたかたちになっているのよね。弾倉には十六発弾丸が収まっているの」

「こちらの『ペンス式騎銃』より威力は落ちますが、弾丸をばら撒くような時には効果的です」


 44口径と弾丸も大きく、装薬量も相応に多い。弾をばら撒くことに加え、金属薬莢が高価で尚且つ使い捨てというお金持ち仕様であることが難点であるという。


「これは、弾薬の手配が大変なのよ。なので、持ち運ぶならそっちの銃のほうがいいわね。そうそう荒事にも関わらないでしょうし」

「『どうですかね?』」


 思わず、クラーラとクリスの声が重なる。本当かよとばかりに。




 クラーラはまず射撃についてレクチャーを受ける。といっても、的に銃口を向け、右手に引金、左手で銃を支えるように構えて狙って撃つだけなのだが。


 PAN!


「ん、いいわね」


 弾丸は的の中心をやや外れたが、人体であれば、胸の周辺に当たればまずは大怪我になる。


「動いているものは難しいですが、10m程度の距離で人の胴体くらいの大きさの的ならまず外しません。手足や頭は難しいのでやめておく方が無難です」


 銃弾の威力よりも、抑止力に重きを置く威力の銃であるから、厚手の外套でも着られると威力はかなり低減する。それでも、鉄の弾が自分めがけて飛んでくる状況を冷静に見られる人間は相当に少ない。


「軍隊経験者でも、実際、前装式の銃なら80mくらいから向き合って撃ちあうような経験だから、目の前で銃を突きつけられたら動きは止まるのよね。リアルに経験があるだけに、恐怖心が無いわけではないの」


 経験者ほど、固まりやすいとオリヴィは言う。戦場では、事前に訓練され廻りに同じような仲間がおり、指揮官の命令に従うだけで、あとは始まって終わるまでは無我夢中で自分自身で判断することはとても少ない。


 だが、目の前で突然銃を出され襲撃されるのは訳が違う。憲兵においても戦場帰りは役に立たないと言われるのは、突発的事態への対応能力が低いことを揶揄されているからである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 クラーラは意外と不器用であることが判明。人魚だから仕方がない。しかしながら、『クウォーターパイク』の模造槍を用いた立会を行ったビルをして「筋が良いですね」と言わしめるものだった。


 曰く『魔力が多い』……だそうだ。


『ねえ、私褒められた?』


 率直に申し上げて、あまり褒められていない。とはいえ、一瞬の出会いがしらに、躊躇せず魔力纏いを発動し相手の腹膜に刺突を決める速度と躊躇の無さはクリスにないものであった。


『まあほら、魚を獲るのは刺叉使うからね☆』


 どうやら、人魚はトライデントのような複数の穂先を持つ槍を用いて魚を捕るらしい。人魚の嗜みだそうだ。


 肘から下をしならせ、良い笑顔で刺突の素振りをするクラーラに、クリスはやや引いている。否、ドン引きである。


「なんで、笑顔で突き刺すの?」

『リラックスして、無駄な力みを無くすには笑顔がいいんだって』


 クリスはなるほどと思う。クラーラに出合い頭微笑まれて、一瞬ポーッとした瞬間、腹を槍で突かれることになるのだろう。刺された相手は何やら不憫である。


「右手で銃、左手で銃剣なんて、うまく扱えるかな」

『大丈夫、クリスならいけるよ』


 クラーラは魔力量的に、常時気配隠蔽、身体強化、魔力纏いを行いつつ、適時『魔力壁』を展開することも可能となっていた。今では、瞬間的な速さにおいて、クリスが身体強化をした状態と遜色がない。魔力量が多いので、心置きなく一二時間なら活動できる。


 つまり、突入して制圧するくらいの時間において、クラーラには心配する要素は殆どない。


 魔力を纏った状態であれば、両腕の『魔装手袋』は金属製のガントレットを超える強度を示す事になり、素手で殴っても、メイスのフルスイングのような威力を発揮する。魔力を纏ったクウォーターパイクの刺突も、金属の扉も厚紙のように斬り裂けるだろう。


 問題は、クリスにある。身体強化を接敵時に使い、瞬間的に魔力纏いを行う程度でなければ、一時間を持たせることができない。それでも、三倍程度に稼働時間は伸びているのだ。弛まぬ努力って大切。


『大丈夫。私が前衛、クリスが後衛を務めればいい』

「でも、気配とか建物の構造とか、あたしの方が理解していると思う」


 いくら孤児とは言え、人間社会で過ごしてきたクリスの方が、城館や工場のレイアウトの勘は今までのほとんどを海の中で過ごしてきた元人魚のクラーラを上回る。


『なら……先導はクリス、突入は私が務めればいいじゃない?』

「そうね。お願いするわ」

『えへへ、まかせとき!!」


 力強く、両腕に力こぶを作るクラーラ。そんな仕草どこで覚えたのだ。





 一週間ほど、クリスとクラーラは兵舎の一角で時にビルやオリヴィと銃剣やクウォーターパイクを使った近接戦の訓練をし、時間を見つけては射撃演習で銃を撃ち、また、銃の分解清掃の仕方を習い、自分たちでできるように練習していた。


 訓練の成果は如実であり、特に、クリスは銃剣を用いた短剣術がかなり上達した。とはいえ、魔力持ちには、相手の魔力を上回る魔力纏いを行わなければ傷をつける事が難しい。ビルも、オリヴィもそういう意味ではクリスの歯の立つ相手ではなかった。


 しかしながら、突入用に『魔装のビスチェ』を貸し出してもらう事ができたのは一つ不安材料を減らす事に繋がった。オリヴィ曰く、これも友人からの預かりものであり、魔装手袋と同様、魔力を通す事によって王国の『胸甲騎兵』の鋼鉄製の胸当て並の防御力を発揮するのだという。


「至近距離のライフル弾だって弾けるわよ」

「胴が一番狙われますからね。そこの傷が致命傷に至らなければ、我々で回復させられますから。一先ず安心できます」


 あと、当然だが頭は自分で守らなきゃだめだそうだ。それならば、ハンス王子に貰った、フード付きの外套を身に着けていこうとクリスは考えていた。



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