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第九話 巡礼の聖女 一先ず大暴れする

第九話 巡礼の聖女 一先ず大暴れする


「今日はここよ」

『ふふ、だんだん慣れてきたね』


 古い市街地にあるどこにでもあるような半木造の細長い建物。この家の二階に用があるのだ。


 二階に出前があると断りを入れ、一階から階段を上がっていく。きしきしと木造の床が音を立てる。


 目の前の扉は、床と比べると随分としっかりしたものだ。鍵は二箇所、その上、木製の板ではあるが金属の板でリベット止めして補強がなされている。もしかすると、中心には薄い鋼板でも挟んでいるかもしれない。


 ドアノッカーを強めに叩き、食事の配達だと告げる。暫くして中で人が動く気配がする。やがてドア越しにくぐもった声がする。


『誰だ』

「食事とお酒の配達です。ジルベールさんから依頼されてきました」


 中で部屋の奥の誰かと確認するような声がする。


「あの、もし面倒なら、扉の前に置いておきますので、受け取っておいてください。あとで文句を言われるのも困るので」


 キイィと小さく音が鳴り、外を伺いみるような視線でドアが少しだけ開く。


「お前だけか」

「いえ、姉と一緒です」


 背後でクラーラがニッコリとほほ笑む。クリスはお子様然とした少女だが、クラーラはすっかり大人びた美少女でもある。


「……入れ」

「い、いえ。食事とお酒をお渡ししたら、私たちは失礼……」

「いいから、入れ」


 いつのも修道衣ではなく、食堂で働くような地味なワンピースを着ているものの、二人ともひと目でわかる美少女姉妹に見える。下心満載、もしくは二人のデリバリー込であると判断したのだろう。如何にも、チンピラ然とした二十歳を少し過ぎたであろう、目の下の隈の濃い褐色の髪と肌の男が扉を開けて、顎をしゃくり上げるように二人を中へと入れる。


「兄貴、どうやらジルさんが気を聞かせてくれたみたいッス」


 兄貴と呼ばれる男は最初の男より何歳か年上だと思われる。手元には鉈のような剣もどきを置き、雷管式であろうか、単発の銃を横に置いている。


 一室は奥に扉があり、どうやらそこが寝室か秘密の倉庫なのだろうと当たりをつける。


「そこにおいてくれ」


 乱雑に物が置かれたテーブルの上に配達のワインボトルと食べ物を並べる。ポテトのフライ、サンドイッチ、チーズに豚肉のコレット。


「おお、豪華じゃねぇか。そんじゃ、お姉さんは俺の隣、妹はそいつの隣でな」


 ニヤリと笑う兄貴。だがしかし、クリスもそうは応じない。この二人の失敗は、入室時に二人に上掛けを脱がさせなかったこと、ボディチェックをしなかったこと、何より、スケベ根性を出して中にクリスたちを入れてしまった事である。


『二人とも魔力無。奥の部屋も反応なし』


 クリスは頷き、二人に話しかける。


「お二人だけですか?」

「ああ。ここは二人きりだ。邪魔は入らない」


 クリスとクラーラは目を合わせニッコリとほほ笑む。コートに隠していた銃を取り出す。


「手を挙げろ」

「……おい、冗談はよせ」

『冗談じゃないよ☆』


 クラーラは、クリスの魔銀鍍金銃剣をスラリと抜く。


「マジかよ」

「じゃ、一歩下がってもらおう」


 手を挙げたまま、腰をゆっくりあげようとする刹那、テーブルの上の銃に手を伸ばしクリスに銃口を向けようとするが、クラーラが一瞬で踏み込むと手首を剣で突き刺す。


「があぁぁぁ!」


 空いた左手で鉈剣を取り上げ、バッサリと兄貴の首筋に鉈剣を叩きつける。首の半ばほどまで食い込んだのは、身体強化の影響と剣筋がよかったことの両方であろうか。


 グフッと空気の抜けるようなうめき声を上げ、兄貴分は首から血を流しつつ倒れ込む。


 クリスは兄貴の手元から銃を奪い、チンピラに銃を突きつけ入り口側に向かうように銃口で指示をする。


「い、やめろ。う、撃つな!!」

「そうはいかない。これも仕事だから。いいから、黙ってそっち側に立って。立たなくても撃つけどね」


 両手を上げた男が兄貴分と正対する位置に立ったところで、クリスが引き金を引く。ドンと鈍い音と、白煙が室内に立ちこめ、目が痛い。


『げほげほ、狭い部屋の中で銃を撃つのはよろしくないね』

「クラーラ。その鉈剣をそいつの手に握らせて。下から人が上がって来るよ」


 銃を兄貴に握らせると、クリスは魔銀剣をクラーラから預かり、自分の銃をしまって衣服を整えつつ、出口に向かって走り出す。


 階段をドドドと駈け上がってくる音がする。


「た、助けてぇ!! い、いきなり銃を撃ったの!!」


 それはお前だ! と思われないように、クリスは顔面蒼白の態で階段の上り口までよろよろと這い出るように歩く。これは、クラーラの為の時間稼ぎでもある。




 下から上がってきた家主と思わしき中年の固太りの男が、ドアの中を指さすクリスの姿を見て何かを察し、下に大声を上げる。


「おい! 面倒だが警察呼んでくれ。あ? 駄目だ。これ以上あいつらに付き合うメリットがねぇ。だから、最近警察があっちこっちに手入れしてんだろ! ここらが潮時だ。俺らは部屋を貸してただけ。あいつらが何をしていたのかは知らぬ存ぜぬで通すんだよ!!」


 三階四階建ての建物の地下階や小屋裏、中層階を貸し出し下宿人を入れるのは古い都市では珍しくない。家賃の実入りが良ければ、この部屋のように二階だって貸す事になる。この家は一階と三階を家主が使い、四階と二階に下宿人を入れ、地下は倉庫にでもしているようである。


 クリスを横眼に扉の中に入る。クラーラが心配とばかりによろよろと歩く演技をしながらクリスが家主の男の跡に続く。


「な、何か急に口論し始めて、若い方が剣を持って襲い掛かったんです。そしたら、座っていた男が銃で反撃して……」


 部屋の隅で蹲り固まっている……演技をしているクラーラが目に入り、家主は「大丈夫か」と声を掛けるが、部屋の真ん中が血の海になっていることを見て、目を塞ぐように手を顔に当て、中空を見るように頭を上げる。


「なんてこった。次の貸主に、この説明をしないといけねぇし、家賃だって安くしなきゃ借り手も付かねぇぞ。大損だ!!」


 どうやら人死によりも、事故物件扱いにされ家賃を下げざるを得ないことを嘆いているようだ。本当に世知辛い世の中である。



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