第六話 巡礼の聖女 駐屯地を離れる
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第六話 巡礼の聖女 駐屯地を離れる
事件から三日後、駐屯地からはオリヴィの手配で迎えに来た馬車で出る事になった。犯罪組織から逆恨みされ、拉致される可能性もあると考えたからである。
「じゃ、また冒険者ギルドでやりとりしましょう。どこの施療院にいるか、伝言残してね。あ、手紙でね」
冒険者ギルドに協力者がいないとも限らない。なので、手紙で伝えるようにオリヴィは付け加える。
「このシールで留めてね。魔力を込めておけば、剥がしたら魔力が消えるから開けたかどうかわかるからね」
ちょっとした魔導具なのだろうか。
オリヴィが教えてくれたルージュの犯罪組織は、三百人ほどの構成員をもち、元兵士や素行の悪い元官憲も加わっているのだという。また、どうやら市長や市警の幹部も協力しているらしい。
「昔貴族、今市長。金に汚い奴がおおいわね。ここの市長はそこまででは流石にないけれど、見て見ぬふりしている面もあるみたい」
昔からの有力者や自分の支持母体から遠回しに目こぼしを要求され、手心を加えたり、深入りしないように捜査を切り上げたりしているらしい。市警のトップは『市長』であるから、その命令は絶対的なものとなる。
「だから、憲兵が人攫いの捜査をするんじゃなくって、私たちが『たまたま探偵』で、『上司の探偵が憲兵の連絡所』に滞在していると知って、直接知り合いを頼った結果、『その場にいた憲兵が協力を申し出た』という形で市警を追っ払ったわけですね」
「そんなところ。未遂だからとか、宿は関係なかったとか、個人的に好意を持ってなんて適当な筋書きで調書作成されて罰金程度で済ませるつもりだったと思うわ。そんなこと……絶対させないけどね」
一昔前なら、本拠地に乗り込んで、メチャクチャするんだけどなーと不穏なことを口にするオリヴィ。冒険者が地道な捜査をするなんて聞いたことが無い。
「まあまあ、とりあえず市に巣食うダニどもを駆除する仕事ですから」
「市長を駆除しても、別の奴が同じようなことをするからね。なら、今の市長に恐怖を刷り込んで悪いことできないようにする方が良いじゃない?」
犯罪組織に便宜を図っている市警の幹部も所謂市の名士の一員らしい。市の人間に不利益が無ければ、周辺住民が不幸になっても構わないという『中世』の発想を未だにしているレトロな人物。市長も大概だが。
「そういえば、オリヴィさんの知り合いに『ジルベール・ロッシュ』って人いますか? 人攫いに同行してたんですけど……」
掻い摘んで当日の出来事で、ロッシュに関わる部分で調書に乗せていないことを説明する。因みに、クラーラは「言葉が話せない」と伝え、筆談で簡単な調書を作成した。「はい」「いいえ」のような回答を多くした内容だ。
「ああ、ジルの奴でしょ。なよなよした感じの影の薄い」
『髪も薄い』
暗がりであったので、クリスは髪のことまでわからなかったがクラーラはそう思ったらしい。薄毛系主人公である。
オリヴィ曰く、仕事を依頼される『警察局』というのは、市警・憲兵を統括し国内の治安活動・反政府的活動を監視・抑止する部局なのだという。その昔、チビ将軍時代には『警察省』という強力な役所であったが、少々やりすぎであったため、権限を縮小し内務省の部局となったのだという。
その中の『対魔課』は対魔物・魔術対策課のことであり、古くは王政時代の冒険者ギルドの指名依頼を扱う部署と、魔導騎士団、騎士団の魔物・魔術対応をする『魔騎士』たちの流れをくむのだという。
『でも、魔力走査に引っ掛からなかったけど……』
クラーラの疑問を察したか、オリヴィが答える。
「『気配隠蔽』を使うと、直接体外に魔術や魔力を行使しない限り、走査にひっかからないのよ。今時、魔力走査を使うほど魔力が潤沢な魔術師は希少だし、普通は使わないんだけどね」
ロッシュは『気配隠蔽』しかほぼ使えないそうであり、身体強化も多少という程度なのだという。
「隠蔽は魔力が少なければ、魔力の消費も相殺する量が少ないから長持ちするんでしょうね。量が少ないことと、出力が少ないから身体強化も限定的なの。あなた達のほうが腕力だけならずっと上よ」
色々薄くできるロッシュは、潜入捜査には適した人材らしい。既に一年以上この街で活動しており、すっかり犯罪組織のつかいっぱしりとして馴染んでいるのだという。
恐らく、目の前で助けたいと思う事も沢山あっただろうけれど、一網打尽にするためにグッと堪えたのかなとクリスは思う。
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駐屯地を馬車で出る。これは、犯罪組織の監視員が人の出入りを確認しており、クリスとクラーラの存在を把握させたくないという意図がある。オリヴィとビルに関しては『要注意人物』として、街に入った時点でしっかり監視員が終始付きまとっている。
故に、宿泊場所も限られており軍の幹部用宿泊施設を借りざるを得ないという。
「流石に周りが全員軍人さんって、緊張する」
『……制服着ていると、顔の見分けがつかないよ!!』
人魚のクラーラからすれば、ハンス王子以外は若いか歳をとっているかくらいの区別しかつかないようだ。確かに、クリスも犬猫はともかく、牛などは見分けがつかない。クラーラにとって、人間の男なんてのはそんな扱いだ。
『けど、魔力持ちが結構いたね』
魔力走査を常に発しているクラーラは、軍の施設内に数人の魔力保有者を確認したという。兵舎の方にはおらず、士官の集まる集会所やサロンのような場所にいたようだ。
「いるところにはいるんだね」
『街中にはほとんどいない。あとは、教会とかかな』
長く信仰を続けた聖職者には、意識せずとも魔力の鍛錬を行っている結果となる人もいる。その場合、聖職者としては自ずと高位の立場を得ているという。真摯な祈りは魔力の育成と同じなのだろう。そういう意味では、修道女見習である二人が、魔力纏いを常時行い、魔力量を増やすように努める事も立派なお務めであると言える。
ルージュの街において、歴史のある地区の建物は少々特徴的な様式をしている。総木造では耐火性に問題があるため、木材と石材を組み合わせた外装を用いている。オリヴィ曰く、トラスブル周辺の建物も同じような木の枠組みに石材や漆喰で壁を作った建物なのだというが、建築様式も異なるようであり、耐火性ではなく木材の節約と断熱が目的である。
間口は6m程度と狭く、細長い建物が通りに面してピッタリと並んで建っている様子が歴史を感じさせる。王都も似たような古く細長い建物が立ち並ぶ地区があるものの、王都改造計画により、古い景観の街並みは取り壊され、広い街路と石造の統一感ある建築物に取って代わる予定だと聞く。
「この大聖堂が建つ丘って、その昔、先住民が立て籠もって古帝国軍に包囲された場所なんですって」
『帝国?』
元人魚であるクラーラにはピンとこないのであろうが、この大聖堂のある丘は先住民の都であり、その後は古帝国がこの地の中心として整備した都市の跡でもある。二千年も前になるだろうか、その当時の街壁が今も残る。
歴史ある市庁舎、そして『クール宮殿』と呼ばれる救国の聖女が戴冠させた国王の御用商人であった男が建てた豪華な宮殿の跡である裁判所の前を通り、二人は大聖堂へと向かうのである。
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