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第五話 巡礼の聖女 侵入者を懲らしめる

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第五話 巡礼の聖女 侵入者を懲らしめる


『外から開けられる閂ってどうなのかな?』

「まるで役立たずね。金払って人攫いされるために泊まるってどうなのかしらね」


 宿屋に戻る際、通りの幾つかの宿屋に値段を聞いたところ、この宿の倍ほどもするのが当たり前であった。確かに、汚い感じ悪いメシマズいの三拍子そろった安宿だが、よくわかっている旅人や近隣の住人は敢えてこの宿に泊まる者はいないだろうし、泊まっても何も起こらないのだろう。


 そういえば、珍しく宿帳に出身地を書くようにしつこく言われたことをクリスは思い出す。あれが一つの物差しなのかもしれない。一応、仕事で一旦宿を出ると説明したのだが、仕事探しに出たと勘違いされたのかもしれない。


『魔力持ちはいないね』


 クリスは無言だが、クラーラは状況を伝えてくる。魔力走査の結果だろう。入ってきた男は三人。二人はいかにもな筋肉多めの人相の悪い男、その後ろにいるのは、少し毛色の違う優男だ。


「おい、静かにしていろ。誰も助けには来ねぇ」

「おまえら、仕事探してるんだろ? いいところ紹介してやるよ。ふひひひ」


 まあ、碌な場所ではないだろうが、どうやら誘拐して働かせたいらしい。色街か、非合法の工場か何かだとクリスは推測する。


「さっさとすませましょう。宿屋は協力的ですが、宿泊客はそうではありません」

「ばーか、関係ねぇだろ。つかまりゃしない」

「そうだぞ。どんだけボスが金払ってると思ってんだ!」


 優男の苦言に、悪相二人が反論する。クリスは、この街の官憲にこの男たちの組織に協力するものがいるのだろうと推測する。


「おい、起きろ!!」


 煩いと内心思いつつ、身体強化を使ったクリスは、東方の死霊付きのようにピョンと跳ね起きる。なんといったか、キョン……忘れた。ピクシーとか、ネッシーみたいな響きだった気がする。


「煩い!!」


 小さな手で脅す為に突き出していたナイフを持つ手首をとり、肘に空いた手で手刀を入れグイッと相手の胸に突き立てる。


「ぎゃああ!!!」


 毛布を跳ねのけたクラーラは、抱えていた杖を下から上に振り上げる。その石突が、今一人の悪漢の股間を思い切り叩き潰す。


「おごえぇぇぇぇ」


 激痛となにかしら潰れた音が聞こえた男は、蛙が踏みつぶされたような声を上げながら床に沈み込む。


 クリスは足をかけ押し倒すと、胸にナイフのささった男の顔面を無言で淡々と……蹴りつける。歯が何本か折れたのか、口から飛び出している。


「で、てめぇもこうなりたいのか?」


 背後にいる優男にクリスは低いドスの利いた可愛い声で問いかける。腕には双発の銃を素早く構え、動けば撃つと付け加える。


 クラーラはすでに杖を短槍に変え、下段に構える。突き出せば、一瞬で捕まえられる可能性があるからだ。


「ま、待ってください。ぼ、僕は……潜入捜査官です。オリヴィ=ラウス氏の雇用先の出向者で、内偵しているんです!」


 悪漢二人が意識を飛ばしていると判断した男は、オリヴィの名を出したので、二人は若干緊張を解くことにする。


「で、証拠は?」

「……僕は、内務省警察局対魔課の捜査員です。名前はジルベール・ロッシュ。こ、この場は一先ず退散させてください。でないと、色々困るので」


 ロッシュ曰く、仮に二人が悪漢に拉致された場合、隙を作って逃がすために今回は同行しているらしい。


「詳しい事は言えませんが、ラウス氏経由で作戦指示があると思います。この宿は摘発対象なので、この後、憲兵が突入してきます。この二人を預けてください」


 市警には周辺地域からルージュ市を訪れた女性の失踪事件に関して憲兵が協力要請をしており、一部捜査関係者が街の中で待機しているのだという。それが、竜騎兵連隊の駐屯地らしい。


「じゃあ、縛り上げてこのまま監視すればいいのね」

「殺さないでください。あ、ナイフはそのまま。抜くと出血がひどくなる可能性が高いので」


 そういうと、ロッシュは「ではまた」といいつつ、宿から来た道を戻って消えた。どうやら、外側からだけ開けられるように、突き当りの壁全体が扉になっているようであった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





 三十分もしないうちに憲兵の分隊が宿を訪問。クリスの部屋にまっ直ぐに向かい、悪漢二人を逮捕。その上で、クリスとクラーラを保護する。加えて、宿の経営者夫婦である貧相な禿げチビ中年男と、顔に険のある感じの悪い太った中年の女将を事情聴取と称して同行させることになった。


 人攫いの現行犯、加えて、中からは開けられない外へとつながる隠し扉の存在。そして、失踪する若い女性が押収した宿帳に名前が記載されていた形跡の確認。


「あの宿、最悪だったでしょ?」

「はい。臭いし汚いし感じ悪いし」

『おまけにメシマズ』


 憲兵用に宛がわれた宿舎の一角、特級探偵のオリヴィとビルは高級将校用の貴賓室を宛がわれていた。ファンブル大聖堂の司教の私室より豪華なように思える。


「今日明日はこの場所で『保護』することになるわ。まあ、なにがあるわけでも無いけど、調書の作成には協力してもらわないといけないし。表向き被害者だからね」


 端的に言って『囮捜査』であり、宿と人攫いを罠に嵌めたのだが、被害者二人から調書をとり、宿屋の構造・宿帳の記載者の行方の確認・宿の収支と経営者の金の流れ、当然、悪漢たちからの事情聴取と、憲兵たちはやる事が沢山ある。


「人攫いはあの宿だけじゃないからね。これを機会に、市警を使って一斉調査することになるね。だから、数日は市内が騒がしいから、その間は奉仕活動でもしてもらえる?」


 数日、市内の施療院で奉仕活動をしながら、次の仕事まで市内に滞在して欲しいのだという。


「これで終わりではないのですか?」


 オリヴィにクリスが問う。終わりではないらしい。


「本命は、人攫いと『アニス』を製造している犯罪組織の壊滅作戦。まずは、人攫い宿を潰す。次に、販売している酒場を摘発する。違法ではないが、そこで違法な事……例えば闇賭博が行われていたりしたら……できるのよね」


 闇賭博とは、法で定められた以上のレートで高額の賭けを行う場所である。ハイリスク・ローリターン。目を付けられた資産家や若く美しい妻や娘、姉妹を持つ男がそこで嵌められ借金を負わされる。


「奴隷制度はなくなったけど、借金のかたに年季奉公っていう借金奴隷みたいなものまでは防げていないのよね。例え、それが違法な賭けでの損失であったとしてもね」


 大きな金の動くルージュの街においては、犯罪組織も肥え太り、そこには市警の幹部も取り込まれているのだとオリヴィは嫌そうな顔で溢したのである。






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[気になる点] それが違法な賭けでの損失であった/としてもね」 /に改行ミスがあります。
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