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第三話 巡礼の聖女 ルージュに到着する

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第三話 巡礼の聖女 ルージュに到着する


 小さな街にそれぞれ別に宿をとり、四人は一泊し、明日はルージュへと到着する最後の晩を過ごす事になる。街は別々に出る事になり、また、この街で憲兵経由でルージュの街に先に『達磨吸血鬼神父』を送りつけてもらうことになっていた。


 憲兵隊長とオリヴィーの間で話はついたようで、どうやら木箱にぶち込まれ、駅馬車でルージュの竜騎兵連隊本営に移送されるという。


 ルージュの治安維持は『ルージュ警察』が取締っており、憲兵は国軍の一部として活動しているため、ルージュ市内で活動することができない。大きな町にある警察と憲兵は役割は同じだが、縄張りがことなるということになるのだ。


『今日はベッドで寝れる』


 明日ルージュで、また何日か奉仕活動をする事になる。王都から聖地まで距離は千数百キロ、四十日程度で到着できるのだというのだが、それは、ただ歩いて向かえばという事に過ぎない。


 各地で奉仕活動をし、聖堂で礼拝を行えばその数倍の時間がかかる。まして、二人は吸血鬼の案件にも巻き込まれつつある。一抜けするには、時すでに遅しであり、また、クリス自身には協力したいという気持ちもある。


『アニス』を騙されて飲まされ、人生を棒に振る人達、その元凶を野放しにしたくないという気持ちもある。また、高位の冒険者であり薬剤師・錬金術師であるオリヴィ=ラウスとの関係から、クラーラの呪いを解く切っ掛けかヒントでも手に入れられるのではないかという欲もある。


「急ぐ旅でもないから……いいかな」

『急がなくていいよ。クリスといるのは楽しいし、奉仕活動も楽しいよ』


 ニコニコと笑うクラーラ。最初の頃とは随分と印象が変わった。恐らく、これが素のクラーラなのだろう。


「でも、呪いのこととかあるじゃない」

『はは、クリス考えすぎ。だって、私のことなんだから、そんなに気にしないでいいんだよ。責任は私にあるんだし』


 足の痛みも消え、魔術も使えるようになったクラーラは、いまが十分楽しいのかもしれない。人間らしく生きられるようになった今が。


「このまま帰らなかったら大丈夫かもしれないじゃない?」

『駄目だよ。婚約者を放置したら。それに、ハンス王子が誰かと結婚したら翌朝、私が泡になるのは決定事項なんだから。呪いを解くか、私がハンス王子と結婚するかしなきゃ、何も変わらないからね』


 魔女の呪いを解くための何か。伝説の『エリクサー』だか『賢者の石』でもあれば、なんとかなるのか。それとも、巡礼の果てに神の奇蹟に期待することになるのか。それは、わからないけれど。


『時間はあるんだから。泣いても笑っても同じなら、笑って生きよう!』


 どちらが元気づけられているのか分からないような状態なのだが、クリスは、また一つ、紙薬莢を作りながらクラーラと会話をし続けるのであった。


『これ、便利だよね』

「そうだね。散弾とか……作れるからね」


 生身の人間なら、多少の手傷を負わせただけでも戦力としては激減してしまう。痛みに声を上げ、怪我人を救助する人間も必要となる。それに、自分が撃たれるかもしれないと思えば、動きも固くなる。


 とはいっても、36口径では5㎜程度の鉛弾を十発ほど広がるように射ち放つことができる。牽制用にはなるが、それ以上ではないだろう。


『何をやらされるか分からないけれど、準備は大事だよ』


 準備もなしに、王子に会うために魔女の言いなりになったクラーラに言われるのは釈然としないクリスなのであった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




ルージュ(Rges)古帝国以前の先住民の時代から都市として成立していたとされる。『バル川のほとりの街』という名称からの変化した名前。

 

 その後、古帝国時代の都市として再建され、さらに旧王国時代においてはルージュ子爵・伯爵領として長く存続していた。聖征の時代、領主は王家に街を売却、聖征の資金として提供した。


 尊厳王の治世、王都と同様に王はこの地に新たな城壁を建設した。また、王都に倣った大聖堂を建立する。


 その後、王族である『ベリー公領』の公都として百年戦争の時代を過ごすことになる。王国の西部の入口であり、ヌーベ公爵領をけん制する位置にもある重要な王家の拠点と考えられた。


 ボリデュは連合王国王家の領地であり、西部の貴族は独立心が強い。そういう意味でも、『ルージュ』は大切な都市であった。地域の政治的中心地であることから、大学が設置される。


 大学は、中小貴族が大貴族を通さず直接王家と結びつく機会を提供する機関であり、王家の官僚・大法院などで活動することで、土地と軍事力に起因しない権力を手にする事が可能となる。


 現在、ルージュには『王立ルージュ大学』が存在するが、これは元御神子修道会の修道士教育機関が王家に接収されたもので、今日では王国において王都大学に次ぐ優秀な大学となっている。


 また、近年では工業が発展著しく、都市の拡大の必要性から街壁は撤去され、製鉄所を中心にこの十年で大きく経済的に成長しているとされる。これは、ルージュの市長と王国政府の間で産業の誘致・育成で連携が密であることによる。


 また、水運が発達していることによる運送コストに優位性があることも都市の発展理由であり、王国の軍事拠点として竜騎兵連隊・砲兵旅団の駐屯地であることも関係していると言われる。




「すごい煙ね……」

『すすけた街だよ』


 その昔は、川沿いにある商人の街と大聖堂を中心とした街塞と分かれていたらしいのだが、チビ将軍の時代、王国の中心にある都市という事でさまざまな軍関係の施設が移された。


 例えば砲兵学校、例えば兵器工廠、砲兵連隊の駐屯地。五十年程前に運河が開通し水運で石炭が運び込まれるようになった。そして、もともと、先住民の時代からこの地にある鉄鉱石の鉱山と後背地である中央山地から切り出した木材を用いた鉄製武器の製造の素地が組み合わさり、多くの鉄工所・製鉄所が建設された。


 高炉の数は三十に近く、延べ五千人もの労働者が働いている。さらに、二十年程前にはいち早く王都からの鉄道が敷設され、国内の鉄路を利用した砲兵の移動も視野に入れた運用がなされ始めているという。


「全部オリヴィから聞いた話」

『へぇ。だから鉄をつくる塔が沢山建っていて、石炭の煤だらけなんだ』


 その昔は織物で有名であったルージュだが、戦乱や大火の影響で南都へと職人は逃げてしまい、一時は産業が空洞化したという。


 大聖堂とその付属の神学校から派生した大学が多く、一昔前は学術都市、また、陶器の製造などから派生する芸術の街としても知られていた。


 それが、この五十年ほどで、すっかり街は鄙びた古都の趣を失い、煤けた工業の街の面が拡大してきている。景気が良くなる半面、様々な種類の新しい人間が増えている。


 各地から集まる労働者、労働者とその家族相手に商売をするもの。そして、軍隊とそこに関わる人間。沢山の金が動き、沢山の人が集まれば、その場所には悪いものも集まって来る。


 つまり、ルージュは新たに生まれた王都の悪所のような場所なのである。






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