第二話 巡礼の聖女 紙薬莢を作る
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第二話 巡礼の聖女 紙薬莢を作る
「そうそう、良い感じで作れたわね。面倒だけれど、一々弾込めするよりも、紙薬莢を作って装填した方が良いと思うわよ」
ルージュの街では、再び別行動となるオリヴィは、この機会にクリスに『紙製薬莢』の作り方を教えてくれることになっていた。幸い、36口径の似た双発雷管式銃を使う二人である。道具も同じもので済むのだという。
「金属薬莢は便利ですけどね」
「それは言えるけれど、これにもいいところがあるのよ。薬莢が燃えちゃうから楽だったり、軽いしね。水濡れには弱いけど、散弾だって作れるしね」
銃身と同じ太さの木の筒の周りに薬莢の大きさに加工した特殊な紙をクルクルと巻き糊で留める。これは発射時に燃え尽きるように酸化剤である硝酸カリウム溶液に浸して乾かしたものを使う。
クルクル巻いたなら、それを今度は銃身の内側と同じ径の穴を持つ筒の中に底となる丸い紙を付け、筒の中に丸めた紙を押し込み、底の部分と紙筒を糊付けする。そして、計量された火薬を筒に落とし込み、慣らしたのちに弾丸を乗せグリスで固定する。
「まあ、こんな感じね。一組あげるわ。先ずは自分で作ってみて、後は、何度か練習してみればいいわ。サイズさえ分かっていれば、冒険者ギルドか街の武具屋でも揃えられるから。金属だと、治具がもう少し必要になるけれど、紙薬莢はその辺も楽でいいわね」
銃というと、工芸品のように思われるが武器でもある。自分で扱える範囲で整備ができるという事も大事な事だろう。雷管と弾丸・弾薬がセットになった金属薬莢を用いた弾丸もあると言うが、早々使うものでもないクリスにとっては、こうした手作業のある銃の方が親しみが持てるかもしれない。
「そのうち、クラーラも銃が使えるようになる必要があるかも知れないわね」
『バーンってなるの、好きじゃない……』
『火』の精霊の加護を持つクリスと火薬の相性は良いのだが、クラーラとの相性は恐らく最悪だろう。
「クラーラに向いている銃は、少し前までビルが使っていた銃なの。大きさはこの銃と変わらないけれど、八連発銃よ。弾丸がちょっと特殊なんだけどね」
『「八連発」』
「はは、ヴィが手配している銃は十六連発じゃありませんか。確かに、同じ製作者の兄弟分の銃ですけれどね」
今回の依頼には間に合わなかったようだが、州国製の装備を幾つか手配しているのだという。州国の内戦も終わりに近づき、ようやく王国にもその銃が届けられそうだという事だ。
「ほら、相手が多いときには沢山撃てる方が状況的にいいしね」
「……じゃあ、いままではどうしてたの?」
クリスの疑問にオリヴィが答える。
「今日のあなたと同じよ。撃つ前に斬るのよ。でも、吸血鬼って群れることはないから、喰死鬼やゾンビ、あとは魅了されたり利害関係で協力している犯罪組織なんかを討伐するなら、銃の方が効果があるのよね。ほら、普通の人間なら、腕斬り落としたら失血死するから」
なるほど。吸血鬼には思いのほか犯罪者のような生身の人間が協力している事を考えると、銃もそれなりに効果があるという事だろう。
『剣で斬るより銃で撃つ方が優しいっておかしい……』
クラーラの呟きに、クリスも内心同意する。
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今日は途中の街の宿で一泊することになる。あまり早く移動すると、昼過ぎに到着してしまうので、野営地で昼頃までまとまった時間、銃を用いた戦いの訓練をクリスは付けてもらう事になる。
クラーラはビルと『槍』の扱い方のトレーニングをするという。所謂、スタッフと呼ばれるスピア程度の長さの杖を使う武術を嗜んでいることから、クラーラの杖での戦いの教官に相応しいということである。
「で、今日は私が銃の扱い方について教えるんだけど。二発しか弾丸がない銃を使ってどう戦うかって話と、吸血鬼相手の場合と、ゾンビ・グール相手の場合、それに生身の人間の場合で組み立て方を変えていかないといけないわけね」
生身の人間なら、銃を向けられればひるむし固まる場合もある。また、相手が銃を持っている場合すらある。
「だから、銃を向けた反応だけで、相手を識別できるわけ。魔力走査をつかわなくてもね」
そういって、自分の双発銃を前に向け構える。
「吸血鬼はたいてい身なりの良い恰好をしているわ。実際、金を持っているし、そういったところで見栄を張るような性格の奴が吸血鬼になりたがるからね」
吸血鬼というのは、それなりの数がいるのだが、横のつながりが無いのだという。魔力を持つ者から魂を得て力を蓄え、能力を高めると同時に、その魂の力を分け与える事で下僕となる吸血鬼を作り上げる。つまり、いくらでも吸血鬼が吸血鬼を生み出せるわけではないのだ。
「普通は、吸血鬼に血を吸われただけでは喰死鬼にしかなれない」
喰死鬼=グールは、人間の時よりも幾分知能が低下しているものの、吸血鬼に似た腕力と生者に対する憎悪を持っているのだという。
「王国には『蘇死人』って、死んだ人間の体に魂が戻ってきて一時的に生前の生活を行う場合があるんだけど、これは、死霊術師が施した術でもなければ、自然に魂が天に召されて、その体に悪霊が居座って生前の人格とは似ても似つかない人になるのね。グールはそれに近いわね」
悪霊というのは、悪魔に近いものかとクリスは考えたが、どうやら、生前に未練を残したり恨みつらみを持った人の魂が天の国へと向かえずに彷徨った結果、『悪霊』になるとオリヴィは伝える。
「昔は、理不尽に殺されたりする村人や徴用された兵士がいたんだけどね、今はほら、だれでも戦争に行って『英雄』扱いされるでしょ? 意外と『悪霊』が生まれないみたいね」
王国を貴族が支配していた時代、貴族は死なずとも徴用された兵士はただの農民であったり職の無い都市に住む貧しい者たちであったという。塵芥のように戦場で踏みにじられ命を落としたものは、この世に恨みを残したとしても不思議ではない。
また、戦場で戦う傭兵は、戦争が終わった後、強盗団に早変わりし村や町を襲い、また、戦争中は相手の領地だけでなく、雇い主の支払いが悪ければ味方であるはずの村落も襲い、物を奪い、家に火をつけ女を犯し、人を殺し家畜を奪った。当然そこでは、悪霊が生まれる土壌が育ちやすかった。
今の時代、そのようなことは……あまりおこらない。
加えて、天の国を信じるものが昔ほど多くなくなっているという事もあるだろう。いや、正確に言えば、あると思うがそれに縋ったり頼ったりするよりも、毎日自分の生活が豊かになるために務める意識が高まった結果かもしれない。
「まあ、『新体制』になってから、それ以前からだけれど人間の気持ちが変わってしまったというのもあるでしょうね。魔術が使える人がどんどん減ったのも、精霊の存在を感じなくなったのも、『公明主義』の影響があるのよね」
科学の発展の背景には、不思議なものを『神の御業』と考えずに、何らかの仕組みがあると考え研究することが進んだことにある。『公明主義』というのは、人間の理性という『明かり』の元に不可思議なことを『公』として調べ上げ人間自身の力・可能性を促すといった思想である。
超自然的なもの……精霊の力や魔力といった、感じ取ることができる能力が限られた存在を敢えて否定することで、未開な民を導くといった知識を持った人間の自負が反映されている。
「目に見えなくても大切なものがあるって考えが持てない、可哀そうな人たちの発想なんだけどね。それが多数派になったから、こんな世の中になってしまっているのよ」
人の数が増え、魔力も魔術も加護も感じない、知らない人間が大多数となったことで、『不思議なものはないもの』とされてしまったのだとオリヴィはクリスに説明した。不幸と気付かなければ、その人は不幸ではないのと似た発想かもしれないと、クリスは思うのである。
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