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第一話 巡礼の聖女 『アニス』の秘密を知る

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第一話 巡礼の聖女 『アニス』の秘密を知る


『 親愛なる ハンス・フォン・アンハルト殿下


 ご無沙汰しております。王国は華やかな場所の多い国であり、驚くほどの発展・近代化が進んでいる大国です。靴や鞄、様々な衣料素材の工場が各地に新たに建設され、鉄道により結ばれております。


 人々の生活は豊かに、華やかになり、工場を中心に民は大いに潤っているようにみてとれます。しかしながら、その光が強ければ強いほど影も色濃くなっているようでございます。誰もが幸せになれるとは限らないのです。


 貴方様との再会を胸に。

 その日までご壮健で。

                        ――― Cより ―――』



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「ロシナンテ、良い子にしてなさいね」


 ロシナンテではなく『クリッパ』である。吸血鬼に襲われた際、犠牲になる可能性もあるため、クリッパはオリヴィたちが連れて、後から追いかけてきた形であった。


 頭陀袋に吸血神父(達磨仕様)を入れ、兎馬の背に乗せて移動する。


「この吸血鬼どうするんですか?」


 吸血鬼には情報提供をさせるつもりだとオリヴィは答える。とはいえ、この場で色々話すのはあまり好ましくない。


「次の街ではちょっと仕事があるのよ。二人にも手伝ってもらうつもり」


 オリヴィの今回の活動の第一目標は、ルージュの街に向かう事であるのだという。そこで何かしらの用事を済ませるつもりなのだという。


 話を変えるようにオリヴィが『初めての吸血鬼討伐』について、二人にその感想を聞く。勿論、クラーラはクリスから伝聞として伝える形になるのだが。


「遅かった。思っていたより動きも何もかも。それと、クラーラが倒した二体がゾンビ?」

「そう。哀れなアブサン中毒患者の成れの果て。実際は、アブサンに似た『アニス』の中毒症状……思考を奪われ使役される存在になり果てる薬の影響ね」


 どうやら、ルージュには『アニス』についての調査を進めるために向かうつもりなのだという。


 クリスの孤児院のある街、ファンブルの街にも昼間から酒を飲んで正体を失っている大人を見かけたことがある。顔色は悪く、歯も抜けて髪もくすんで独特の臭いがした。体を洗っていないというような臭いだけでなく、死にかけている人特有の臭い。


 時折、孤児院から手伝いに行く施療院でも、亡くなりそうな人は臭いで分かるくらいにクリスはなっていた。『死』の臭い。


 確かに、あのオリヴィ達と出会った修道院で初めて遭遇した何かも、そして、ヴェゼルの施療院で世話をした何人か……先ほどクラーラが首を刎ねた二人……二体もそんな臭いが体からしていた。


 というよりも、あの施療院自体が、クリスの知るどの施療院よりも『死』の臭いが濃厚であった気がする。


「さあ、行きましょう。今日は途中で野宿かもしれないわね」

「はは、偶にはいいですね。最近はホテル暮らしが多いですから。懐かしいですよ」


 オリヴィはクリッパに括りつけた頭陀袋吸血鬼に一発入れたあと「騒ぐと今すぐ殺す」と一言呟き、先頭に立って歩き始めた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 案の定、野営することになった。とはいえ、簡素ながらどこからともなく「コーチ」のような所謂駅馬車サイズの堅牢な馬車を持ち出した。クラーラとクリスは大いに驚く。


「魔術師なら、この程度の道具も持っているのよ。魔力を継続して引き出すからクラーラはともかくクリスにはまだ無理ね」


『魔法袋』と呼ばれる魔導具の中に、様々なものを収納しているのだという。この先、探偵助手として探偵社で活動する間、小さめのものを貸与してくれるという。未だ、見極め期間という事なのだろうか。


「そういうわけじゃないんだけどね」

「ヴィは慎重なんですよ。それに、二人は巡礼に行く目的があるではありませんか。その妨げになる話は、巡礼の後でも構わないと判断したんですよ」


 ビルのフォローに納得する。夕食を軽く済ませ、オリヴィとビルはキャビンで、クラーラとクリスは馬車の屋根の上の荷台で寝る事になるようだ。地面よりは幾分ましだろう。




 夕食後、魔術の練習をしながら、オリヴィは簡単に吸血鬼について説明をしてくれる。


「吸血鬼は、文字通り血を吸う『鬼』ということ。いろいろ巷では吸血鬼の弱点みたいなことが言われるけれど、鏡に映らないとか、流れる水を渡れないとか、ニンニクが嫌いとか……人間だって好き嫌いってあるじゃない? その程度の事に過ぎないわ」


 吸血鬼が日中太陽の光を浴びるのが苦手というのも、人間で言えば、吹雪の中を歩く程度の問題であるのだという。しっかり太陽を遮るような衣服を着用し、短い時間であれば問題なく活動できるという。


 人間だって、吹雪の中で長い時間活動すれば、疲労と低温で凍死に至るだろう。同じ事だという。


「あと、吸血鬼だけじゃなく、下僕の『喰死鬼(グール)』も影響下にある『ゾンビ』も失血死や痛覚に関してはかなり鈍いから、生き物のように傷を付けても効果が低いの。だから、魔力を通した斬撃で斬り落とすという対応が一番効果的。その次が、魔力を込めた『魔銀弾』を叩き込む事になるわね」


 そもそも、既に死んでいるか死人に近いのが『吸血鬼』『喰死鬼』『ゾンビ』なのだという。とくに、前の二つは死人が自我を残している、若しくはやや残しているという存在で、痛みや出血によるダメージがほぼなく、人間の力を大幅に上回る腕力体力を有しているのだという。


「対応するには、魔力纏いで体を強化し、魔力で斬る・叩く・撃つと言った形で粉砕するのが一番ね。吸血鬼は「再生」もするから、綺麗に切断すると、直ぐに付け直されるので、傷口を焼くか潰す方が良いわね。斬り落とした部位を破壊するのも手だと思うわ」

『魔力で潰す方が良いかも』


 クラーラは斬り落とした後の処理を考えているようである。


「それと、ゾンビを人間に戻す事はほとんど不可能だから、基本的には止めを刺してしまって欲しいわね。半ば自我や記憶、感情、意識すら希薄になって吸血鬼の命令を聞くだけの傀儡にすぎないのだから」


 吸血鬼に操られているとはいえ、生きている人間を自分の手で殺す事に未だに躊躇する気持ちが残るクリスとしては、オリヴィの言葉に素直に従うことができない部分がある。


「自分の意思でか騙されてかは分からないけど、『アニス』を飲んだ時点で元には戻れないのよ」


 オリヴィはその理由を簡単に説明する。


「『アニス』には、おおもとの吸血鬼である『真祖』もしくは、この辺りの吸血鬼の親玉である『貴種』の血が混ぜられているの。そんなもの飲んでしまったら、もう生身の人間ではいられないのよ」


『アブサン』と『アニス』の違い。それは、僅かなものではあるが、大きなものでもあった。






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