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第十話 巡礼の聖女 吸血鬼を討伐す

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第十話 巡礼の聖女 


「クラーラ。ゾンビ二体、任せる」

『軽く、首ちょんぱでいいかな?』


 既に、動く死体である『ゾンビ』と化した者たちを、まともな状態に治す方法をクリスもクラーラも知らない。オリヴィからも『不可能』と知らされている。ここで、天の国に送ってやるもの慈悲かもしれない。


 そういえば、そういう名前の短剣があったなと、クリスは昔読んでもらった騎士物語を思い出し頷く。


悪しき者から(libera) 私たちを(nos) お守りください(a malo)アーメン(Amen.)』」


 クリスとクラーラに、二体のゾンビが向かってくる。吸血鬼は自信ありげに背後でこちらの様子を伺っている。ムカつく。


『先に行って!!』


クラーラが杖の石突を前にし、槍のように構える。二体のゾンビの間を、姿勢を低くしたクリスが魔力を纏い、身体強化を行って擦り抜ける。


 ただでさえ小柄なクリスが、地を這うほどの前傾姿勢を保ち高速で二体の中間を擦り抜けたのだ、突っ立った二人が振り下ろす手と手の間を楽々と。


「何をやってる!!」


 薬で頭が壊れたゾンビに、機敏な反応を求めるなんておかしいだろとクリスは思いつつ、吸血鬼を攻撃するための動作に入る。


主よ(Erhalt)御言葉もて(uns, Herr,) 我らを(bei deinem) 守り賜え( Wort)


 魔力量が一段上がる。火の精霊の加護を纏い、クリスは攻撃姿勢に入る。銃は使わない。遣うまでもない。


 一瞬左右に大きくステップし、神父の視界から逃れるよう機動する。街道の幅一杯に左右に動いたクリスの姿を神父が一瞬見失う。それで十分だった。


燃え上がれ(Burn)


 一本の黄燐マッチを引き抜いた銃剣の腹でこすり炎を剣に灯す。クリスの場合、鍵言葉や詠唱より、この動作が最も簡単で、最も威力を高めることができる作法であった。


 そして、摺り上げたマッチも無駄にはしない。


 懐に踏み込んで、すれ違いざまに膝下を銃剣で切裂く。バッと燃え上がる熱い空気が流れ、肉の焦げる臭いと骨を削るかすかな衝撃。


『GAAAA!!!』


 人ならぬ叫び声を上げた神父の顔は、耳の横まで口が大きく切り開かれ、鮫のような歯が口腔内にびっしりと生えているのが見える。


「まじきめぇ!!」


 燃え尽きる前のマッチの軸を神父の後頭部辺りに見当をつけ放り投げる。


爆ぜろ(Explode)!!』


BAAAAANNNNN!!


 マグネシウムの激しい燃焼反応のような爆発が、吸血鬼の後頭部に炸裂

する。衝撃で地面に頭から叩きつけられる吸血鬼。


『GUUUU……殺す!!』

「殺されるのは、テメェだ!!」


 振り返り、銃剣に魔力を纏わせ、首を刎ねにいくクリス。だがしかし、その切っ先は首に届くことはなかった。


「大変すばらしいですクリス。ですが、この醜い化け物はもう少し生かしておく必要があります」


 止めたのは、ビルであり、顔を上げるとすでに倒されている首を斬り落とされたゾンビ二体を、オリヴィが魔術で地面に穿った穴に放り込んでいる姿が見てとれた。


「なかなかやるじゃない二人とも。駆け出しの探偵としては及第点ね」


 クラーラと共に地面に倒れた吸血鬼のいるこちらへと向かってくる。さて、この後、二人は何をするつもりなのだろうかと少し冷静になったクリスは考えを巡らせるのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「な、なんで再生しない!!」

「そんなの、クリスの火の精霊の加護で作った『聖なる炎』を纏った剣で傷口を焼きながら切断したからに決まってるじゃない。神話の時代の化け物だって傷口焼いたら再生しないんだもの。あんたみたいな木っ端吸血鬼が再生できるわけないじゃない。クリス、いらないから、手足斬り落として。そうそう、その炎の剣でね」


 絶望的な表情を浮かべた吸血鬼の顎を思い切り魔力を纏ったつま先で蹴り上げたクリスは、ダンダンダンダンと手足を斬りおとした。


「それは私が焼却しておきましょう。『燃えろ(ardeat)』」


 胴体と頭だけになった吸血鬼。傷口が焼かれたので、止血兼再生防止の処理となって、吸血鬼故に簡単には死ねなくなったとオリヴィが説明する。


「こいつ、色々謳っていたわよね」

「はい。『アニス』とかいう、『アブサン』に似たゾンビを作り出す『霊薬』で悩みを相談に来た信徒を、あんな風に変えて従えていたみたいです」

「はい、有罪。まあ、処刑は免れないけれど、過程が長くなったわね。まずは、『アニス』の入手先と、製造場所、それと、誰があんたの上なのか素直に話せば……」

『素直ニハナセバ……』


 オリヴィは良い笑顔で答えた。


「普通に処刑して終わりにしてあげるわ。嫌なら……」


 なにやら、血液のような物が入ったポーションの瓶を取り出し蓋を開ける。


「これを死ぬまで……飲ませるわ」


 ポタポタと血を垂らすと、シュウシュウと溶け焦げるような音がする。そして、肌が焼け肉が焦げる臭いが立ち込める。


『臭い』

「ヴィ、そろそろ他の旅人がこちらに到着しますので、場所を変えましょう」


 吸血鬼の首を摘まみ上げるように掴んだオリヴィが先頭に立って街道から外れた木立の間の野原に向かっていく。街道からは、人がいるのは分かるかもしれないが、なにをやっているかまでは分からない距離だと言えるだろうか。


「オリヴィ……それはなんですか?」


 吸血鬼は声にならない絶叫を上げ、のたうち回っていて正直気持ち悪い。


「内緒……といいたいことろだけれど、助手見極を終了した二人には説明しておくわね」


 今回の神父吸血鬼討伐が、試用試験であったということを初めて知る。それは横に置いておいて、オリヴィが説明したことは興味深かった。


 吸血鬼は普通に食事をする事で生きていくことができないわけではないのだが、不老長寿を維持する為には、若い異性の血、出来れば処女・童貞の血が良いらしいが、加えて、吸血鬼の能力を高めるには「魔力持の血」を吸い、魂を手に入れる事が有効なのだという。そういう意味で、クリスはとても魅力的な標的であるし、クラーラもその範疇であるという。


「けど、毒になる血もあるの。半吸血鬼……ヴァンピールの血。それが、この瓶の中身」


 ヴァンピールとは、吸血鬼と人間のハーフであり、めったに生まれない存在であるのだが、吸血鬼を殺す唯一の天敵といえる存在なのだという。その血が吸血鬼にとって猛毒であり、今一つは、死んだ人間から採取した血も同様に毒の効果があるのだという。


 では、その血はどこから手に入れたのか……という疑問が起こらないでもなかったが、それを知る必要はないかとクリスは思い直し口をつぐむ事にした。


【第三章 了】



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