表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/156

第九話 巡礼の聖女 神父に襲われる

お読みいただきありがとうございます!

第九話 巡礼の聖女 神父に襲われる


 翌朝、礼拝を済ませると二人は街を出てルージュへと向かう巡礼街道を歩いていた。


『変な施療院だったね』


 クラーラが言いたいことはよくわかる。施療院は身寄りのない年寄りが最後の時を過ごすという収容者が多いのが普通だ。ところが、あの施療院には『アブサン』中毒者が圧倒的に多かった。それこそ、個室で管理するくらいに。


「特殊な施設……じゃないと思うんだ。あれは、施療院の方針なのか、それとも街の意思なのか。その辺は聞かなかったけどね」


『アブサン』自体は、それなりに多くの酒造メーカーから出されている安価な酒であり、それを愛飲し、時に中毒になる者もそれなりにいる。とはいえ、確率的な問題もあるのだ。


 普通は、若い女性や子供が中毒になるほど飲んでいることはない。医者が安価な痛み止め代わりに勧め、元々体を痛めたり弱かった人が依存することになる。


 それでも中年以降の人が圧倒的に多いのだ。


『若い女の人が多かったよね』

「そう、明らかにおかしい。まるで、誰かに騙されて勧められて中毒になったみたいな感じだよ」


 身体強化のために魔力を纏った二人は、一方的にクリスが話しているように

見えるだろうが、クラーラも心の中で返事をしている。だが、若い巡礼者が

急ぎ足で街道を驀進するのは目立つのではないだろうか。




 街から進む事一時間ほど、既に背後にセイアの街は見えなくなり、道行く人の数も早朝であることからか、少なくなっている。前を行く人たちを追い抜いてしまったため、朝、セイアの街を出た人たちの先頭を進んでいるからだ。


『クリス、魔力を確認。前方の街道の脇に隠れているわ』


 魔力量の多いクラーラは、魔力纏い・魔力走査・魔力壁まで既にマスターしている。というより、人魚として元々用いることができていた力を、人間の体になって正常に使えるように回復したというところだ。


 でなければ、水中を高速で泳ぐ人魚同士の位置関係の把握など、肉眼だけで出来るはずもない。人魚の目が真横に魚のようについているわけではないのだから、魔力による周囲の状況確認が行えているのが前提なのだ。


 また、深い場所に潜る場合も、魔力纏いを用いて体を守る事が必須であるし、水面から飛び上がる際も、身体強化や魔力壁の応用で跳ね上がらねば、イルカのように飛び上がる事も出来ない。


 痛みと慣れない二足に戸惑っていたクラーラだが、オリヴィの指導で問題なく扱えるようになったということなのである。


『止まって!』


 クラーラがクリスを立ち止まらせる。


『右側の木立の影。三体いるわ』

「出て来なさい。話くらいは聞いてあげるわ」


 クラーラが杖指す場所に向かい、クリスが声を掛ける。すると、出てきたのは見覚えのある顔。セイアの施療院の神父と、独房に収監されていた二人の『アブサン』中毒と思われる顔色の悪い男たちである。


「良く気が付きましたね。中々の才能を持っているようです」


 別れた時と同じようなつくり笑顔で答える神父。三人とも揃いのフード付きの黒いローブを纏っており、背後の二人は顔を半ばまでフードで隠している為,

表情はうかがえない。が、神父は歪んだ笑みを浮かべている。


「それで何の用。私たちは先を急いでいるんだけど」

「何も急ぐ必要はありません。巡礼に奇蹟を求めるくらいなら、今目の前にある奇蹟を手にする方が良い」


 神父は懐から緑色がかったポーションを二つ取り出す。


「これを飲めば、あなた達の悩みは解決します。さあ、どうぞ」


 アブサンに似せた別の何か。背後に佇む二人と同じようなものを作りだす薬。そんなものに手を出すつもりはない。


「必要ないわ。それに……あんた吸血鬼なんでしょ?」


 ギルド経由で残されたオリヴィからの伝言。


――― 施療院の神父をおびき出して討伐すること。奴は吸血鬼。


 その為に、わざわざ朝っぱらから急ぎ街道を進んできたのだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 素性を隠す必要もなくなった吸血鬼が神父の仮面をとり、牙を剥く。


「気づいていたんですか」

「まあね。だって、あんた臭いんだもの。神父がそんなアブサンの臭いを纏っていたらおかしいでしょ」

『ついでに、息も生臭かった。鼻は悪くないのよ人魚も』


 水中では臭いも大切な要素である。とくに血の臭いには敏感。


「だからどうした」


 吸血鬼は開き直ったようだ。


「吸血鬼には聖なる標が効く? 否、別に触れてもなんともない。流石に、聖魔銀は触れられないがな」

「聖水は?」

「はは、今どきの聖水には聖なる力など籠っていないから効くわけがない」


 吸血鬼に聖別された魔力が効果的であるという事実は揺るがない。但し、それが「本物」であればだ。紛い物のガワだけでは効果が無い。


 吸血鬼となった神父、いや元々吸血鬼であった男が神父として施療院に潜み、自分の為に患者を募っていた……ということになるだろう。


「悩みは尽きない。美しく生まれようが、金持ちに生まれようが、恵まれていれば恵まれているほど、ぜいたくな悩みを持つようになる。放っておけば、風に飛ばされるような悩みでも本人にとっては重大なんだろうさ」


 そこで、悩みを相談しに来た気に入った信徒に、神父は『霊水』だと言って『アブサン』ならぬ『アニス』を与えた。受け入れた信徒も、「方便だ」と思っていたのだろう。酒で解決するわけではない。


 ところが、飲めば明らかに精神が安定しスッキリする。市販のアブサンでは同じ効果が無いので、何度も神父の元を訪れ『アニス』を受け取る。市販のアブサンも自分で購入して多少飲むのだが、やがて立派な中毒患者のできあがりだ。


「おかしなのは、患者の家族だな。自分たちを責めたりしてお門違いもはなはだしい。私の元を頻繁に訪れていたことを知ってはいるものの、それだけ深く悩んでいたのに、寄り添えなかったなどと懺悔したりする。滑稽だな」


 狂乱する信徒は自分たち家族の元においておく事も出来ず、やがて施療院に預ける事になる。こうして、中毒患者だらけの施療院が出来上がる事になる。『アニス』欲しさに、余計なことも言わず、神父の言うがままに振舞う従順な『ゾンビ』の群れの出来上がりだ。


「気に入らない。たかが、蛭の成りそこないが、人間の心に寄生しやがって」


 クリスは心底、吸血鬼が気持ち悪い存在であり、無性に討伐したくなってきた。だが、初めての相手。心を落ち着かせ、ビルに習ったことを着実に実行しなければならない。それは、クラーラも同じであった。




先をお読みになりたい方はブックマークをお願いします!!


【作者からのお願い】


「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。


よろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ