第八話 巡礼の聖女 『聖セイア』で奉仕する
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第八話 巡礼の聖女 『聖セイア』で奉仕する
『火の精霊サラマンダーよ我が働きかけに応え、我の求める炎を纏いで顕現せよ―――『炎の剣』
薄っすらと剣の刃の周りにプロミネンスの如き炎が纏わりつく。これで枝を薙ぎ払うと、切り口は炭化する。
「見事です。この炭のようになった切り口のお陰で、吸血鬼の再生能力は大幅に制限されます。魔力の刃で綺麗に斬り落とした場合、直ぐにつなぐ事もできてしまうので難問題なのですが、この能力があれば、かなり優位に戦えるでしょう」
魔力纏いだけで勝利するには、最終的に首を斬り落とさねばならない。手足を切り落とし、動きを制限した後で首を落とすのが流れなのだという。これが、相手が多数の場合、手足を斬りおとした時点で他の吸血鬼の相手をしていた場合、継ぎ直されて反撃されてしまうのだ。
「クラーラが牽制し、クリスが止めを刺す流れになりそうですね」
「手足を斬りおとして再生できないようにすれば、クラーラに止めを譲ることだってできると思うよ」
「まあ、実際、吸血鬼と対峙して経験しましょう。百聞は一見に如かずというではありませんか」
二人はすでに、セイアの街において吸血鬼の存在に気が付いているのだろうか。このまま街に黙って向かうだけなのかとクリスが疑問に思う。
「二人がどの程度優秀な『囮』になるかを試してみましょう」
昼食後の鍛錬が終わる頃、クリスは小さいながらも『魔力壁』を形成できるようになっていた。魔力壁は体の離れた場所に魔力の塊を形成して維持する為、魔力の消費量も少なくない。かなり優秀で魔力量の多い魔術師でなければ使いこなせないのだという。
「クリスは当分無理だし、使わずに済ませる方が良いわ。待ち受けて、受止める戦い方をする為の術だからね」
遮蔽物の無い場所で魔力壁で守りながら、銃弾の再装填をするという場合もあるかも知れないが、クリスとクラーラであれば、クラーラが相手の動きを抑えてクリスが『炎の魔剣』で大きなダメージを与え、止めを刺すと言った感じだろうか。
数が多ければ、クリスの銃撃で一斉に攻撃されないようにけん制することもできるだろう。
「あ、弾丸は『魔銀の散弾』に替えておいたよね」
「一発は。もう一発は椎の実弾」
「上等。どの程度ダメージが入るか確認しておきましょう。吸血鬼って、普通に銃撃でダメージ入るから。その後の回復が尋常じゃないってだけでね。だから、銃撃で足を止めて魔剣で斬るってのは全然ありなのよ。数がニ三匹なら二人で対応できると思うわ」
吸血鬼のニ三匹……簡単に言ってくれるとクリスは思うのである。
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街に近づいた時点で、四人は元の二人組に戻り別行動を行う事になっていた。数日の奉仕活動、その間、オリヴィとビルは街で調べ物があるのだという。当然、片や施療院、片や高級ホテルの最上階である。
「何かあったら冒険者ギルドに伝言を残しましょう」
「安否確認のために、一度は伝言を残すわ。あたしたち、オリヴィの使用人だしね」
「あら、そうじゃないわ。我が探偵社の構成員よ。まあ、役員ではないから従業員って事だけどね。企業なんだから、使用人とは言わないのよ」
ハンス王子の商会では商会頭と使用人であったような気がする。恐らく、経営者・役員と従業員という呼び名・関係の方がモダンなのであろう。
使用人という場合、個人的に仕えているようなニュアンスになるのかもしれない。
身体強化を魔力切れに配慮しながらクリスとクラーラは無事セイアの街の施療院に到着した。そこで、二三日奉仕活動を行い、ルージュに向かうことになる。
施療院は元『聖セイア修道院』であった大聖堂に付属する施設であり、二人は大聖堂で礼拝を行い、これから朝夕に行われる礼拝にも参加することになっている。
独立した施療院と比べ、大聖堂付属の施設はこうした日課に参加できる分大変でもあるが、巡礼の目的に適うものでもある。それに、大聖堂付属施設であるため、幾分寝具や食事内容が良いのもお得である。その分、仕事も大変なのだが。
『まあ、そんな私は魔力を使ってちょちょいのちょいなんだけどね』
オリヴィのトレーニングを受け、クラーラは『水』の精霊の力を借りることで洗濯の効率を良くすることができそうだというのである。
「へぇ、羨ましいね」
『水の精霊に布の間を良く動いて貰って、ジャブジャブしなくても汚れが良く落ちるようにできそうなんだよね!』
鍵言葉や詠唱を用いなくても、簡単なお願いは以心伝心できそうだという。これが進んでいけば、水膜で自分を守ったり、水の塊を叩きつけることもできるようになるかもしれない。
剣で斬ったり、炎で焙るよりは無力化しやすそうだとクリスは考えた。
『あ、でも、一番効率的なのは、顔の周りを水で包んで息できなくすることだと思う。人間は水の中で息できないでしょ?』
確かにその通りだが、吸血鬼には効果が無いかもしれない。けれど、流れる水が苦手なのではなかったか。オリヴィに詳しく聞いてみようかと思う。
三日の奉仕も滞りなく行った。明日、この街を出てルージュへ向かう。
「お勤めご苦労様」
二人に背後から声がかかる。それは、施療院を任されている中年の神父であった。背も高く、聖職者というより軍人のような肉体を持つやや浅黒い肌の持ち主である。もしかすると、退役軍人なのかもしれない。
「こちらこそ、お世話になったお返しになればと、励んでいるだけですわ」
クリスが答え、クラーラはニッコリとほほ笑む。
「明日には出発するとか。巡礼の旅が無事であることを神に祈りましょう」
「お心遣いありがとうございます」
施療院には怪我人よりも病人が多く、中でも『アブサン』の依存症で体を壊したり、せん妄状態となった者も少なくなかった。体の一部を拘束され、暴れる事の無いように地下牢にも似た宿坊に収容されていた。
二人だけで彼らの面倒を見る事は無かったが、介助役として同行することもあり、その辺りの気苦労を神父に労われた。
「あの方たちはどうなるのでしょうか?」
王国に蔓延する『アブサン』、多くの者が辞める事ができずに、社会的にも経済的にも行き詰まり、家族を失い、健康を失い、しかしながら幸せな幻想と禁断症状の間で揺れ動きながら、地獄への片道切符を握りしめて生きている。
神父は瞑目した後、厳かな雰囲気をかもしながら口を開く。
「いずれの道も天へと続いているのでしょう。あの方たちの幸せな旅立ちを私たちは心から神へと祈るだけなのですよ」
聖職者らしい言葉に聞こえるが、クリスは冒険者ギルドで受け取ったオリヴィからの伝言を知り、その裏の顔を考えるのであった。
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