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第七話 巡礼の聖女 炎の剣を得る

第七話 巡礼の聖女 炎の剣を得る


 魔力纏いからの派生魔術に関しては、『鍵言葉』の発動を必要としないので、舌の無いクラーラでも問題なく実行できる。得物は魔銀短剣を改造した仕込杖であるから、魔力纏いと魔力壁、魔力走査あたりできると、元人魚故の魔力量の多さを生かせるだろうと考えられる。


「クラーラは魔力纏いに専心ね」

『……』

 

 オリヴィの言葉にクラーラは頷く。すでに、魔力纏いによる身体強化でクリスと変わらない……歩幅的にはクリスより広いのでクリス以上に健脚を披露していた。もう、以前のクラーラではない!!


「武具への魔力纏いも覚えましょうか。これを使ってちょうだい」


 オリヴィは白銀色の光沢のある手袋をクラーラに渡す。クリスには……銃の扱いもあるので今のところは無しだという。別にほしくなんてないやい。


『……綺麗……魔銀製の手袋……』


 オリヴィ曰く、これもその昔友人が作らせた『魔装』というものの一つであるという。


「いろいろあるのよ、託されたものが。でも、今はあまり多く用いない方が魔力の遣い方を覚えやすいでしょうし、そもそも、巡礼に相応しい装備でない物が多いからね。王都に戻ってから、色々渡すわ」


 クリスは思い出す。二人にハンス王子が選別としてくれた、フード付きのマント。確か、魔銀糸の布を加工して仕立て直してくれたと言っていたことを。


「このマントにも、同じものが使われているみたい。解いて仕立て直したって言われたの」


 ビルとオリヴィはマントに手を触れながら、「確かに」と声にする。


「これもいいものね。今の時代に良く手に入ったわね。さすが小国とは言え王族というところかしら」


 魔力を通したのだろうか、薄っすらと表面が光っているように見える。昼間であるからわかりにくいが。


「これなら、纏う魔力量を少なくしても剣や銃弾程度なら弾くわね」

「ライフリングされている椎の実弾は微妙です。威力が段違いですから」


 剣と弓、精々マスケット銃の時代とは武器の威力が隔絶している。魔装といえども過信はできない。


 そもそも、手袋やマントに使用されている『魔銀糸』の作成過程は『ロスト・テクノロジー』なのだという。恐らくは、魔力を持つ繰糸使いが紡いだ魔銀と生糸の混合物を用いて織り上げた『魔装布』なのだろうというが、オリヴィは自身でその糸を紡いでいる場所に立ち会った事もなく、友人から聞き知った程度なのだという。


「魔力持ちが珍しくなかった時代の遺物ね。それに、魔力を持つ者自体がほとんどいなくなった今の時代、ただの古布ですもの。私が保管しているものが大多数でしょうね」


 目に付いたものは様々な手段で収集していると言うが、たいして手に入れる事は出来ていないらしい。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 昼食後の時間、少し武器への魔力纏いをクリスはビルから教わることになった。クラーラはオリヴィが教官だ。


「クリス、魔力纏いを武器に行うのは、手の延長に魔力を流し込むイメージです。先ずは、武器を手にする前に魔力を体の中で循環させてみましょう」


 昨日の今日、そして、今朝から半日魔力を纏って移動したが、それなりに効率良く魔力を体の中で循環させられている。脚力や腕力の向上だけでなく、疲労の軽減にもつながっているような気がする。


「あまり魔力に頼り過ぎると、成長期に体が成長できなくなるので、あまり過度に頼らないことも大切です。が、今は十全に使いこなす事を優先にしましょう」


 クリスの魔力纏いに『可』の判断を下したビルは、先日渡した銃剣を手にするように伝える。先ずは、ビルの持つ同じ銃剣を見せながら説明が始まる。


「これは『魔銀鍍金』を施した鋼鉄製の銃剣です。元は、山国歩兵の使う小銃用のものを購入し加工したものです。魔銀は、魔力抵抗が低く、体の外に出た場合、拡散しやすい魔力をそこに留める力があります」


 魔銀で覆った場所に自分の体の端から魔力を流す事で、魔力を武具に纏わせることができるということだ。


「ですので、剣の『刃』がなくとも、魔力を纏わせることで……このように切断することが可能です」


 目の前のクリスの腕ほどもある枝を軽く振った銃剣でバッサリと抵抗もなく斬り落とすビル。


「……とまあこんな感じです。まずは、この枝くらいから切ってみましょうか」


 クリスの親指ほどの太さの枝。ちょっとした手斧や山刀ならスパッと切り落とせる程度だが、刃の無い銃剣なら、本来なら切れる事はないはずだ。が……


「……うそ……」

「中々上達が早いですね。才能在りますよクリス」


 何の抵抗もなく、枝が切り落とされる。二度、三度と繰り返し、やがてビルと同じほどの太さの枝にチャレンジするが。


「いってぇ……」

「はは、頭の上に落ちましたね。背の高さ的に仕方ありませんが、切り口は見事です」


 背の低いクリスは、ビルの目の高さほどの枝は腕を真上に振らなければ断ち切れなかったので、切れた枝が頭上に落ちたというわけである。




 魔銀短剣仕込杖を用いて、薪を作るようにスパスパとクリスの胴ほどの太さの木を切り倒すクリス。既に、魔力を剣に纏わせることに不安はないようだ。


「クリスには、これを覚えてもらいます。あなたの加護を生かす為ですね」


 ビルの銃剣が薄っすらと赤味を帯びる。


「剣に『火』の精霊の加護を用いて、炎を纏わせています」


 ビル曰く、神話の時代、再生能力を持つ多頭竜を英雄が倒した際に、切り落とした傷口を助手の少年が炎で焼いて回り、再生できないようにしたという話がある。


「吸血鬼の再生能力は、失った四股欠損を回復させる事は出来ませんが、斬り落とした手足を繋げることくらいはできます。ですが、傷口を焼いた場合、その能力はかなり制限されます」


 クリスとクラーラが吸血鬼と対峙する場合、想定するのは魔力量豊富なクラーラが魔力纏いと身体強化、『魔力壁』等を用いて近接戦闘を行い、小柄で魔力量の相対的に少ないクリスが銃で支援しつつ、カバーするという戦い方になるだろうと想定される。


「剣と銃を両方使いこなすわけですが、剣はあくまでも従の役割り。それはクリスが倒しきれない時に『炎』を纏わせ傷を焼き、再生を止めるような戦い方が好ましいでしょう」


 魔力を纏って尚、成長期前のクリスに肉弾戦は相当不利である。故に、『炎』の魔剣の使い所は、正攻法より強襲・奇襲の場面で用いるべきだろうとビルは説明する。


「先ず最初は、詠唱を行い、精霊に何をして欲しいか伝えましょう。それで何度か精霊に願いをかなえてもらえたなら、『鍵言葉』だけ、若しくは手信号、最終的には思うだけで発動できるのが望ましいですね」


 そう言いながら、ビルは詠唱をクリスに教えるのである。



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