第六話 巡礼の聖女 エリクサーを知る
第六話 巡礼の聖女 エリクサーを知る
『エリクサー』とは錬金術における究極の薬。エリキシル、エリクシールともいう。飲めば不老不死となることができるという。主に治療薬の一種として扱われ、『賢者の石』その物とも言われる。
おとぎ話の世界ではないのだろうかとクリスは思う。
「レシピの在りかは分かっているわ。昔、友人がそれを記した記録のある場所を発見したの。今でも残っていると思うわ」
「……それならクラーラの舌は治せるかもしれない?」
「そうね。錬金術師としての究極の治療薬ですもの、可能性は高いと思う」
素材と作り方が分かれば、素材を集めればオリヴィが作れるだろうという。
「なら、エリクサーができれば、二人は私に協力してくれるということでもいいかしら?」
「……そうなれば……協力します」
『いいの? 私の為にクリスが縛られても』
何をいまさらとクリスは思う。ハンス王子と婚約しているのだから、ファンブルに戻れば婚約解消するか結婚しなければならない。巡礼から戻ればそうなるだろう。十二歳のクリスには……勢いで婚約したものの、ロリコン王子と結婚する気はない。
そもそも、戻った時に成長していれば婚約解消もしくは破棄してもらえるのではないだろうか。成長していれば!!
「クラーラの為だけではなく、あたしの為でもあるからね。そもそも王子の奥さんとか、孤児のあたしには無理だもの」
「「王子の奥さん……」」
「ああ、勢いで。巡礼に出る前に婚約して、この銃や路銀を出してもらっているんです」
オリヴィはなるほどといった顔をする。
「そんなもの、利子をつけて返してあげるわ。それに、連邦でそれなりに顔が利くのよ私たち」
高位の冒険者であり、王国の特級探偵にして『錬金術師』でもあるのだろう。連邦に数多いる王族に貴族、都市の支配階級に高位宗教指導者……力を借りたことのある者はそれなりにいるのだろう。
『クリスがやりたいように。私のことは考えないでいいわ』
クラーラがクリスに話しかける。だが、クリスは欲張りなのだ。
「いいわ。あたしが、クラーラの呪いの解呪も舌の再生も、巡礼の果てに成し遂げてみせるわ。それに、魔力が高まればクラーラ自身の力で再生できるかもしれないし。魔力もガンガン増やしてオリヴィのところで吸血鬼をバッサバッサと斬り倒して、王国でタンマリ稼いで孤児院に仕送りする。ついでに、ハンス王子との婚約も踏倒す」
『……それで……』
「あたしらしく、自由に生きるわ。王国は……自由の国でしょ?」
クリスは、手に入れたいものすべてを手に入れる為に全力を尽くすと決めた。友達も、育った孤児院も、吸血鬼討伐も、それで手に入れるお金も、婚約も自分の望む通りにすると。オリヴィが大きく手を叩く。
「それ、共和国のテーゼね。自由・平等・友愛。おかげで、貴族は民を守る義務を民自身に押し付ける事ができたわ。その結果、大陸戦争に突入して百万単位で人が死んだ。まあ、自分の意思で戦ったから百万単位で死ねるんだけどね。考えたのは天才だと思う」
どうやら、『自由・平等・友愛』というのは共和国のスローガンの一つであって、国是ではないらしい。まあ、それはそうだ。貴族の特権が無くなったとしても、蓄えた富を元に今は資本家や大地主として名前を変えて存在するのだから。本質的に、自由も平等も友愛も、与えられるものではなく、自ら望んで手に入れるものだとクリスは理解している。
つまり、オリヴィの元でそれを目指すということだ。魔力を高め、この状況を打破するのだ。
「では、話を進めるわよ」
オリヴィはお昼の休憩をしながら、この先の話をしようと提案した。
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魔力を高める訓練に始まりはあっても終わりはない。それはそうなのだが、どのような段階を経て吸血鬼狩りに参加することになるのか、クリスはオリヴィに問うてみた。
「ん? 実戦あるのみ。近々に四人で討伐しましょう」
思ったよりも早かった。どうやら、次のセイアの街でそれなりの仕事が発生しそうだというのである。
「巡礼者って登録しているわけではないから、旅の途中で失踪してもわからないのよね。街の外からやってきて、しばらくすればいなくなる。吸血鬼にとっては美味しい存在なのよね」
街の住人が失踪すれば事件になるが、巡礼の行方など誰も気にしない。吸血鬼は、街の住人の中にある程度協力者とも言える存在を手にしている。これは、魅了した異性であったり、対価を与えて血を提供させる者である。商売女の場合もあれば、手下の場合もあるという。
とはいえ、吸血衝動は殺人衝動にも似て押さえ続けることが難しい。それで、以前は戦争に参加し異教徒を殺したり、異端審問にかこつけて拷問・処刑の過程で吸血をしたのだという。
「異端審問? 異端審問官の中にも吸血鬼が混ざっていたの……」
「聖騎士団とかにもね。異教徒と戦う為という大義名分があれば、吸血鬼になることも是とする風潮。その上、異教徒の魔力持ちの戦士を倒して血と魂を手に入れれば、自身の吸血鬼としての能力も高めることができる。だから、いたのだし、いるのよ」
今は聖騎士団という組織は存在しても、実際に異教徒と戦っているわけではない。いまは、国軍の士官や下士官の中に『優秀な部隊』として存在すると思われる。他国の軍の内部にまで『特級探偵』は手が出せない。
「戦場での殺し合いのなかで吸血鬼が活躍するのも、いまの時代目立つし、そもそも、魔力持ちの力を得る為に戦場に出る事もないのよ今時」
銃と大砲で戦争を行う時代において、魔力持ちを探すのに戦場に出る必要性はあまりない。血を吸いたいのなら、街に出れば幾らでもチャンスはあるのだから。
軍や宗教組織の中に潜んでいた吸血鬼は、今日、王都や大都市の資本家などといった姿で潜んでいるのだとオリヴィは言う。
「魔力持ちを捕らえてパワーアップしにくくなっているから、魔力持ちの若い女性である二人は、すっごく吸血鬼を引き寄せるわよ」
「……え……」
「魔力持ちは魔力が分かるから、自衛手段を持たなければ二人きりの巡礼なんて、御馳走があるいてくるようなものだもの。今までは運が良かっただけでしょうね」
魔力持ちは魔力持ちが分かる。どうやって知るのか、クリスは教わりたいと考えた。口に出す前に、オリヴィが話し始める。
「これは、その昔、私の友人が教えていたやり方の真似。魔力を持っているけど、使い方が分からない子に教える手順ね」
まずは、『魔力操作』を行い、体に魔力が流れていることを認識させ、『魔力纏い』による身体強化で、体と魔力に負荷をかけ魔力量を増やしていく。
さらに、『魔銀製』の武器を持って、魔力纏いを武器・武具に纏わせ吸血鬼と戦う術を手に入れる。さらに、魔力を放射線状に投射する事で、魔力を有する存在を知ることができる『魔力走査』を用いる。
その他に、魔力纏いの応用で『気配隠蔽』や『魔力壁』を形成することを覚えていくのだという。
魔力には様々な遣い方があるとしり、これは前途多難であるとクリスは感じていた。
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