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第五話 巡礼の聖女 聖騎士団について知る

第五話 巡礼の聖女 聖騎士団について知る


 ギルドで『普通探偵』の登録をしたクリスとクラーラは、『ラウス探偵社』所属の探偵と記録された。ギルド経由で週給銀貨二十枚が暫く支給される。


「巡礼から戻ったら、王都のギルドに伝言を残してもらえればいいわ。こちらも、確認次第伝言を返すから」

「その間は、二人で王都見物でもしています」

「良い宿を紹介するようにギルドには話を通しておきます。ヴィの驕りで好きなだけ泊まると良いですよ」

「……お気持ちだけ頂いておきます……」


 王都滞在中は、ギルドに近い孤児院か救護院で奉仕活動をするつもりだ。その方が気分が楽だからである。





 ヴェゼルを出て、先ずはセイア(Seyr)の街を目指す。この街は、古帝国時代から修道院があったのだが、入江の民の襲撃で廃墟となる。その後、 八百年前の『聖セイア修道院』と二つの教会の設立から街の発展がはじまる。大聖堂は当時、王国一の規模であったという。当時の教皇にも大切にされてる。


 往時はこの修道院を中心に四十五以上の修道院が参加に加わり、四百以上の荘園を有するようになるのは、聖征の影響もあったとされる。


 ブルグントとベリー公領を繋ぐ戦略的要衝でもあるため、幾度か戦禍に見舞われている。


 百年戦争の時代、幾度か連合王国軍に包囲され、また城塞を破壊され、ついに占領されるに至る。救国の聖女が奪還のために軍を進めたが、戦争中奪還される事は無かった。


「けど、もうその修道院は解散しちゃって大聖堂だけしか残ってないのよね」

「今では、敷地の大部分が工場になっているようですね。靴とか鞄を作っているらしいです」


 ヌベルとは目と鼻の先であり、二人はルージュまで同行した後、そこで情報収集をしてから再びセイアを経由してヌベルへ入る予定なのだという。


「何かでそうですか?」

「出ないわよ。でも、『お前のことは見ているぞ』という示威行動は必要なのよね」


 なにやら、いわくありげな場所である。


「修道院は多いのよ。でも、巡礼に立ち寄るような場所じゃないの。修道騎士団って知ってる?」


 聖征の時代、巡礼者を守るためにカナンの地で修道士となった騎士達が見回りをしたことから始まった騎士団であったとかクリスは聞いたことがあった。


「内海の島に本部がある?」

「それは聖母騎士団ね。既に解散して、聖母騎士団に吸収統合されたから間違いではないけどね。当時、王国においては王家をしのぐ大領主だったのよ」


 王国を縦断する街道を管理し、聖征の為の物資や兵士を送り出す為に巨大な存在となっていたのだという。聖征が失敗に終わり聖王国がカナンから追い出された後、修道騎士団はその存在を維持できなくなり、王家から『異端』として摘発され解散に至ったらしい。


「王国に王家をしのぐ、それも教皇以外に従わない集団が跋扈していたら、それは危険視されるでしょうね。本人たちは、聖征が失敗に終わってもなお今まで通り過ごせると思っていたのでしょうけれど、残す意味がないじゃない?」


 国王に多額の金を貸し付ける等……王家をしのぐ権勢を見せていたことが裏目に出たのだろうか。その修道騎士団の影響の大きな土地がヌベルなのだという。


「でも、聖騎士団ですよね。吸血鬼とは敵対しそうですけれど」

「……異端とされた理由が悪魔崇拝だとしてもそう言えるかしらね」

「悪魔崇拝……御神子教の聖騎士団ですよね」


 言いがかりであったかもしれない。とは言え、長らくカナンの地でサラセンと戦ってきた聖騎士達は、異教の神の影響を全く受けていなかったかといえば完全に否定は出来ない。守護聖人というものが存在するが、厳密にいえば『異教の神』のような存在であるとも言える。


「まあ、もう何百年も前の話だから何とも言えないけれど、吸血鬼の力を手に入れる事に意義を見出すとしたら、異教徒を殺す為という大義名分を得て、不老不死の『鬼』の力を手に入れたとするなら、あなたの疑問に答えることができるのではないかしら」


 吸血鬼となって、不老不死の肉体と人を越える力を得たのであれば、聖騎士として吸血鬼になるという決断は正当化されるかもしれない。


「戦場で魔力持ちを殺せば殺す程、吸血鬼の力が増すということも、その問題を加速させるでしょうね」

「王都で処刑された総長と王都管区本部長は、吸血鬼であった可能性もあるわよね……証拠は何もないけれど。生きたまま火あぶりって……殺せなかったという事かもしれないじゃない?」


 吸血鬼は首を斬り落とさねば死なない。とは言え、十字架に縛り付けて生きたまま焼き殺したというのであるから、吸血鬼であったかどうかは疑問であるのだが。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 魔力操作は順調に習得できているようであり、昨日の今日ではあるが、かなり魔力による身体強化ができるようになっていた。


「クリスもクラーラも優秀ね」

『歩くの楽ぅー』


 クラーラは元気よく腕をブンブンと振りながら歩いている。旅の初めの頃は行き倒れ寸前のような姿で歩いていたのだが、今では、兎馬のクリッパをグイグイと引っ張るように先頭をズンズンと歩いていく。夕方まで持てばいいけど。


「クラーラは魔力量が豊富なんでしょうね」


 流石元人魚、身体強化を十全に纏う事ができれば、足の痛みに耐えつつ人間らしく生きる事もできるかもしれない。あとは、ハンス王子と結婚すれば呪いの半分は消える。


「オリヴィ、例えば……体の一部欠損を直す霊薬のようなものって実際あるのかな」


 薬剤師であり、特級探偵でもあるオリヴィならクラーラの失った舌を元に戻す奇跡の薬を知っているかもしれない。そんな気持ちから、クリスは聞いてみたのである。


「……そうね。欠損部位の再生、指一本程度なら可能なものがあるわね。でも、今は伝説の存在よ」


 やなりそうなのだ。流石に、失った舌を再び生えさせることは容易ではない。


「それって、クラーラが話せない事と関係あるのかしら?」


 既に、クラーラが普通の人間ではないとオリヴィ達には認識されつつある。いや、既にそう思われているだろう。


 だからといって、何もかも話す必要もない。話せないのは舌が無いからだ。それだけを説明すればいい。


「クラーラは舌が欠損しています。なので、言葉が話せないの」

「生まれつき?」

「いいえ。ここ一年程のことで、舌を切り取られたみたい」

『舌の代わりに足が生えたんだけどね』


 クラーラの言葉をスルーして、クリスはオリヴィの横顔を目にする。


「可能かどうかは分からないけれど、思い当たる事があるわ」


 オリヴィの口から出た言葉は「エリクサー」という万能薬の名前であった。


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