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第四話 巡礼の聖女 『探偵』登録をする

第四話 巡礼の聖女 『探偵』登録をする


「魔力を体に巡らせる練習から始めましょう。おそらく、加護を受けることだけで止まっていると思うのね。ビルが『火』の精霊の加護持ちだから、クリスはビルと組んで。私は、『風』『土』の精霊の加護持ちなの。だから、クラーラは私とね」


 『火』の精霊の加護持ち同士の方が、魔力の流れを掴みやすいのだろう。金髪碧眼の美男子に教えを受けるのは緊張するなとクリスは思う。


「まず、お互いの手を向かい合って握り合うの」

「へっ!!」


 ビルの手を握れと言われ、クリスは思わず変な声が出る。ハンス王子は線の細い美男子だが、ビルは迫力のある美形なので戸惑いが大きくなる。とはいえ、十二歳のロリータにどうにか思うビルではないのだが。


「魔力の循環を体験するのが目的です。私からクリスに魔力を流すので、まずはそれを感じ取ってみてください。感じたら、自分の中でその流れを作り出すようにして、私に魔力を戻すように動かしてみてくださいね」


 隣では、長椅子に並んで座ったクラーラとオリヴィが同じように手を取り合っている。クラーラは目を閉じて集中力を増しているように見える。目の前に美男子がいると思うと緊張するので、クリスも真似をして目を閉じる事にする。


「良い工夫です。五感を制限することで、魔力を感じやすくなります。慣れるまでは目を閉じるのも良いでしょう。右手から魔力を入れて、体の中を魔力が廻り、心臓を通って左手から私の手に戻す……そう、良い流れです。その調子」

 

 今までは手足がぽかぽかするか、のぼせたような感じとなっていた精霊にお願いする時の感覚が、そのポカポカがグルグルと体を巡る感覚に変わる。


「今、体全体に魔力が流れています。この状態で、腕力や脚力、体の表面を守る力が強化されています。この状態を『身体強化』といいます。最初は全身でこれを行いましょう。慣れてくれば、足だけ、腕だけ、といった部分的に魔力を巡らせる練習も良いと思いますよ」


 魔力量が増えれば力の増加も増えるらしい。魔力を巡らせる部位を制限することで、魔力の消費量を減らし継続できる時間を延長することもできるのだという。


「最初は魔力切れになる可能性もあるから、部屋で寝る前に使うとかね。時間が読めるようになれば、夕方だけ、午後からといった感じで少しずつ時間を延長して行って、最後は朝から寝るまで巡らせられるのが理想ね」

「『ええぇぇぇ……』」


 クリスは口から、クラーラは内心声が漏れる。


 そんな形で、クリスは三十分ほどで魔力切れの兆候に見舞われたが、クラーラはケロッとしてまだまだ問題なさそうである。


「クラーラは思っていた以上に魔力量が多いみたいね。これは楽しみだわ」

「気にしないでくださいクリス。あなたはまだまだ伸ばす余地があります。継続は力なりですよ」

「……は、はい……」


 横眼でちらりと見たときに、クラーラの得意げな顔がむかついたのは内緒だ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 翌朝、四人で朝食をとりながらこの先の予定をすり合わせる。


「先ずは、冒険者ギルドで二人には王国の『普通探偵』登録をしてもらいたいの」


 オリヴィ曰く、探偵は自身が持つ『探偵社』を設立することができるのだという。つまり、冒険者ギルドから直接仕事を受ける冒険者・探偵もいれば、『探偵社』に所属し、ギルドから探偵社が受けた依頼を社員として受けることもできるようになっているのだという。


 この場合、メリットは探偵社が雇用した探偵ならば、探偵社が給料を支払い雇用することができる為、出来高払いの冒険者よりも生活が安定するという事もある。小さな探偵社であれば「冒険者パーティー」と似たような機能となるが、大きな探偵社の場合、複数パーティが所属する『クラン』や『傭兵会社』のような規模となるため、ギルドも依頼の失敗リスクを低下させることができると考えている。


 そして、依頼の内容が『護衛』『警備』『捜査』といった、官憲の仕事の代行や私的な運用となる事もあり、ある程度の規模が必要となってきていることもある。


「冒険者が数人で受けるような依頼は減っていて、今は工場や鉄道会社に雇われて労働者を監視したり、工場を警備したりという仕事が多いのよね。だから、探偵社に所属する冒険者を『探偵』として改めて登録して、どこの所属か明らかにするようにしているの」


 探偵社に所属する冒険者を『探偵』として王国においては登録するのが今の流れらしいとクリスは理解する。


「……オリヴィ達の探偵社に所属しろというのですか」

「そうそう。私たちこれでも有名なのよ。だから、『ラウス探偵社所属』ということで王国の中での信用度は上がるでしょうね。神国や連邦の冒険者ギルドでもある程度効果があると思うわ」

「些少ですが、毎週給料も払いましょう。その代わり、連絡が取れるようにしてもらい、巡礼が終わった時にもう一度考えてください。そういう意味ですよねオリヴィ」


 オリヴィは笑顔でうなずく。要は、青田買いの類である。希少な魔力持ちが所属探偵として育つ可能性を考えて多少の援助をするという事だ。


「二人にそれぞれ毎週、銀貨二十枚……くらいかしらね」

「……多くありませんか?」


 何もしないのに、普通の依頼の三日分くらいは手当が出る感じだ。


「遠慮しないでいいわよ。それで路銀に余裕ができて安全な宿に泊まれたり、余計な依頼を受けて遠回りする必要もなくなるなら意味があるもの」

「ヴィにとっては気にする金額ではありませんから、遠慮なく受け取ってくれてかまいませんよ。本来はもっと出したいのですけれど、負担になっては意味がありませんので、この金額です」


 施療院を泊まり歩く予定の二人からすれば、余り手伝う必要のない街は飛ばせるかもしれない。神国内は聖ヤコブ騎士団運営の施療院が充実していると聞くので、神国に入れば巡礼用の宿を渡り歩くことも良いだろう。




 そして、巡礼路はヴェゼルからヌベル(Nuvers)に向かうか、ルージュ(Rges)に向かうか巡礼街道がここから分岐している。


「ルージュがお勧めよ。私たちもそこにまず向かうつもりだから」


 王国竜騎兵連隊も駐屯する、発展著しい街なのだという。巡礼の目的と乖離している気がするのだが。


「ヌベルは我々も調査対象の街なのです」

「……調査対象?」

「『吸血鬼』よ」


 つまり、巡礼路ではあるがトラブルを回避するためには、避けた方が良いというのだ。


「人口が急速に増えて街が荒れている王都はかなり入り込まれているみたいなんだけれど、そっちは私たちの管轄じゃないの」

「王都は専門家が別にいるんです。それに、今はスラムの取り壊しなどを進めて近代化していますから。潜んでいる場所が無くなれば、隠れてやり過ごす事も難しくなるでしょう」


 王都では古い木造の建物を取り壊し、コンクリートと煉瓦の高層建築に切り替えつつ、街路を拡張し世界最大の都市にふさわしい姿を整備しつつあるのだという。その背後には、旧時代の街区に潜む様々な悪徳を排除するという政府の意思が存在する。


「今のところ私たちの仕事は、この前みたいな王都の外で活動している吸血鬼を狩る事なのね。それで、私たちが足を運べない場所で妙な噂や事件が発生していたら、ギルド経由で探偵社に報告してもらいたいの。その仕事分が週銀貨二十枚の報酬分という事ね」


 クリスは、美味しい話には裏があると思いつつも、巡礼ついでに気になる事件事故の情報をギルドで報告するだけで報酬が得られるなら、割りの良い仕事だとこの場では思ったのである。




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