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第三話 巡礼の聖女 吸血鬼狩りに誘われる

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第三話 巡礼の聖女 吸血鬼狩りに誘われる


 吸血鬼退治が生きがい(ライフワーク)と言われ、クリスは少々困っていた。そんな事よりも、クラーラの気持ちをハンス王子に伝え、できれば魔女の呪いを解いて直接言葉で告白させたいとクリスは考えていた。


 巡礼の行く末に、奇跡が起こってクラーラの呪いが解けてくれないだろうかと考えていないでもない。現実的には、舌の再生……所謂『エリクサー』と呼ばれる万能回復薬が手に入れば……可能かもしれない。


 だが、そんな伝説の……おとぎ話の薬が存在するわけがない。一度失った部位は再生するという事は聞いたことが無い。だから、神様の力で奇蹟を起すしかないのだろう。


「巡礼が終わったら、一緒に仕事しない?」

「……難しいですね。あたし、孤児院出身の修道女見習なんです。ファンブルに戻って、子供たちの世話をしないといけませんから」

「ふーん。そうなんだ」


 ワイングラスをクルクルと廻しながら、ワインの香りをかぐような素振りをするオリヴィ。


 ファンブルに戻って修道女見習として今までと同じように孤児院で子供たちの世話をする。それ以上の先の未来を考える事は、クリスには考えられなかった。ハンス王子との婚約も何年かすればうやむやになるかも知れない。そもそも、外国語がいくつか余計に話せる程度の孤児なんて、商会を経営する王族からすれば、代わりは幾らでもいる。


 戯れに孤児相手に話をしただけの可能性だってある。とはいえ、クラーラの事はなんとかしたい。呪いを解呪するか、王子と結婚させるか。結婚した後、失踪すればいい気もする。これで解呪にならないだろうか。


「孤児の世話をする人間は他にもいるでしょう? それなら、孤児たちに資金援助する人になる方がよっぽど価値があると思うよ」

「……なんで、そこまであたしを買ってくれるんですか?」

「簡単。クリスも……クラーラも精霊の加護を持つ魔力持ちだから。魔力持ちじゃないと、吸血鬼には立ち向かえない」


 オリヴィが吸血鬼を狩る側の魔術師であるとすれば、魔力持ちでなければ手助けすらできないということなのだろう。


「ビルさんは……」

「ビルはクリスと同じ『火』の精霊の加護持ち。加護を持ったうえで、魔力の操作ができるようになると、武器に魔力を纏わせることができるようになる。吸血鬼は普通の武器で傷つけたとしても、再生してしまうから、銃で撃ったり剣で斬りつけても大したことが無いのよ」


『吸血鬼』を倒すには、魔銀の武具に魔力を纏わせて斬りつけるなり撃ち殺すか、首を切り落とさなければ死なないのだという。


「魔力を纏わせるには魔力持ちじゃないとだめなのね。今時、魔力持ちは精霊の加護持ちじゃないといないの」


 教会が人の心のよりどころではなくなり、多くの人が生まれ故郷の村や街を離れ都会に住むようになると、身近に神様を感じることができなくなっている人が増えたのだという。


「神様だ天使だって言っても、元々はその土地に住む精霊だったりするの。それを、御神子教会が取り込んで『聖人』だ『精霊』だ『天使』だって言い始めたわけね。でも、原神子信徒が増えて、教会の神父たちが御神子教の名を借りてその土地に住む精霊たちとのつながりを保たせていたものを断ち切る行動に出たわけ。だから、教会に行ったり聖典を読んでも、神様とのつながりだって絶たれちゃっているわけ。クリスは、何か神様に熱心にお願いして加護が付いたんじゃないの?」


 確かに、クリスは孤児院で凍えそうな冬を過ごす中で、神様にお願いした記憶がある。今よりもずっと小さかったクリスは、ちっとも暖かくならない体を摩りながら、『温かくなれ』と何度も神様にお願いしたのだ。


「口では神様への感謝や願いを唱えるけれど、心の底から思っている人はさほど多くないのよ。体の中に魔力を持つ人自体が減っていることもあるしね」

「……なんでですか?」


 魔力を持っている人間が減るというのはなぜなのだろうかと、クリスは疑問を口にする。


「貴族って、魔力を持って平民を守るための血統だったのよね。でも、今は大軍を率いる必要があるから、魔力の無い平民に銃を持たせて戦わせることになったのよね。騎士がいた時代なら、魔力持ちは甲冑や重い武具をもって戦場で活躍できたけど、今はそうじゃなくなったからね。魔術も魔力も貴族が失われれば、消えてしまうものなのよ」


 魔力を持ってそれを生かす貴族が絶え、精霊の力を借りる気持ちが絶え結果として魔力や魔術を使わない者ばかりになった。そして、このままでは吸血鬼に知らぬ間に人間が蹂躙される事になるということのようである。


「でも、なんで、王国の人の中で探さないんですか? 私たちは連邦の人間ですよ?」

「私もトラスブルの後は、メインツで活動していたし、王国人って感覚はあんまりないのよ。探して見つかるならそうするんだけどね。とりあえず、この仕事は儲かるよ! 最初は見習の『普通探偵』から始まるけれど、単独で吸血鬼が狩れれば『上級探偵』に昇格するしね。冒険者で言えば星二とか星三に相当するかな」


 星二は冒険者として一人前で、護衛任務に就くことができる等級。星三は一流と見なされる等級で、指名依頼を受けることができる。『特級探偵』は星四以上という事なんだろうとクリスは判断した。


「クリスは何歳?」

「十二です」

「そう。今から訓練をしながら巡礼の旅を続ければ、加護持ちだから飛躍的に魔力量も増えるし、魔術で出来る事も増やせると思う。それと……クラーラだって? あなたは、『風』の加護か祝福があると思う」


 人魚のクラーラは『水』の精霊の加護があるのは知っているが、『風』とはどういうことなのだろうとクリスは思う。


『人魚は死ぬと泡になる。泡になって、風の精霊となり海を渡る風になるらしいわ』


 クラーラが答える。


「それに、クラーラは普通の人間じゃないんでしょ?」

「警戒しないでくださいね。私たちは、精霊やそれに近しい存在を判別する能力がある……というだけです。私たちも、普通の人間ではありませんから」


 ビルがオリヴィの問いかけに続けて話をする。普通の人間ではないというのはどういう意味なのだろうか。クリスは判断できないでいた。


「ん……どう思うビル?」

「魔術師の資質がある最近では稀有な存在です」

「本人たちに気が無ければ迷惑でしょ?」


 オリヴィはクリスとクラーラを吸血鬼狩りの戦力に引き込みたいのだろう。しかしながら、二人の目的は巡礼にある。そして、クラーラの魔女の呪いを解くための旅でもある。ここでいくら誘われても、それを曲げることはない。


「そうね。先の約束はしないけれど、一先ず、ここで知り合ったという事で私たちから幾つかのレクチャーをするというのはどう?」

「……どのようなことですか?」


 オリヴィは見返りを求めずとも、クリスたちにプレゼントを与えると提案した。


「精霊の加護を使いこなすための基本的な魔力の遣い方ね。あとは、魔力を増やす方法とか、効率よく精霊にお願いする方法なんかもね」


 オリヴィの提案にビルが付け加える。


「それと、魔力を通して武具を扱う方法もお教えしますよ。差し上げた銃剣も魔力を通さなければ鈍らですけれど、魔力が扱えれば岩でも切裂くことができますから。吸血鬼はもちろん、それ以外の敵にも有効です。魔力を体に纏わせることができれば、身体能力も格段に向上しますよ」

「それこそ、生身の人間が吸血鬼を上回る力を発揮するわ。巡礼の旅で危険な目にあったとしても、脱出して生き残れる可能性も格段に改善するでしょうね」


 巡礼行において、歩くのが楽になる……というのは巡礼の趣旨に反する気もするのだが、魔力を常に身に纏う修行であると考えれば、巡礼の目的に合致する。足元がおぼつかないクラーラの助けになるかも知れないと考え、クリスはオリヴィの提案をありがたく受け入れる事にした。




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― 新着の感想 ―
[良い点] エリクサー… 300年前にノーブルでレシピを手に入れた男爵閣下が居ましたね。 [気になる点] 神様とのつながり/だって絶たれちゃっているわけ。 ……クラーラ/だって? 『風』とは/どういう…
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