第一話 巡礼の聖女 ヴェゼルにて奉仕する
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第一話 巡礼の聖女 ヴェゼルにて奉仕する
『 親愛なる ハンス・フォン・アンハルト殿下
ご無沙汰しております。巡礼とは一期一会の出会いが多くあります。巡礼街道の起点であるヴェゼルにようやくたどり着きましたが、今までも多くの人との出会いがございました。
巡礼とは、こうした人との出会いを経験することで、人生を深く考えさせる為のものであるのかもしれません。これから片道千数百キロの旅となりますが、無事にファンブルに戻りつけるよう殿下もお祈りください。
貴方様との再会を胸に。
その日までご壮健で。
――― Cより ―――』
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オリヴィとは巡礼街道の起点である『ヴェゼル』の街での再会を約束し、先に二人は去っていった。クリスとクラーラはヴェゼル迄行商人の助手をする事が依頼であるからだ。日当は二人で銀貨十枚だが、食事は支給されるので、さほど安いという事はない。宿代は自腹だが、野営も多いので、さほど負担でもない。
王都から一月掛かり、ようやくヴェゼルへと到着する。行商人はこの後、東に向かいブルグントに行くことになるので、ここでお別れである。
「二人とも元気でな!」
「お世話になりました」
一緒に黙って会釈するクラーラ。二人は、巡礼を始めるに当たり、この地を有名にしている教会へと足を向ける。その後、冒険者ギルドに向かい依頼達成の報告をした後、施療院に向かい数日を看護に務めることになる。
巡礼街道には施療院のある教会が整備されている。聖征の時代、東への巡礼・カナンの地に向かう巡礼者を守るため警備を担った『修道騎士団』、巡礼先でケガや病気になった者を救うための施療院を開いた『聖母騎士団』とが存在したのだが、今は後者だけがほそぼそと続いている。
神国内の巡礼路には、その名も聖人の名を冠した『聖ヤコブ騎士団』が現在も活動しており、先の聖征時代の二騎士団と同じ役割を担っているという。が、王国内においては、教会の施療院がその役割を果たし、俗世の憲兵が街道の治安を担う事になっている。
王都から離れるほど治安は良くなくなる傾向があり、神国に近い地域では、武装強盗も増えるので無理をせず街で休む事にこれからはなるだろう。
『この後の予定は?』
聖女マリア修道院のある巡礼街道『リ・ムザン』の起点。ブルグント地方にある古帝国時代からの歴史ある街。ブルグントと王都の中間に位置する交通の要衝『アバン』の西に位置する。
「施療院で奉仕活動をしつつ、オリヴィさんたちが来るのを待つ感じ。その後、巡礼街道を進む事にするわ」
オリヴィから『魔術』の手ほどきを受け、ビルからは『魔銀』の剣の扱い方を学ぶつもりでいるからだ。使いこなすには時間がかかるだろうけれども、今、銃剣を振り回しても刃もまともについていないのだから、小さな女の子に過ぎないクリスが使いこなせるわけがない。
それと、銃の撃ち方は教わったけれども、実際人と対峙した時に、どう動けばいいのかはさっぱりわからなかった。あの時、後ろから声を掛けられなければ、クリスは引き金を引けなかったかもしれない。
「ファンブルの大聖堂とは随分と違うのね。なんだかすっきりしていてモダンだわ」
クリスは建築様式のことなど知らないが、古い時代の修道院は石工の技術の問題で細かな立体的装飾を行う事ができなかった。新しい時代、といっても五百年程前になるだろうが、聖征の後で随分と石工の技術が向上しているのだ。その都市の顔である大聖堂の装飾に都市の住民が大いに手を掛けたいのは理解できる。時代が下るほど、大聖堂の装飾が細かくなるのは、ようは見栄の問題でもある。
二人は大聖堂での礼拝を終わらせると、一先ず冒険者ギルドへと足を向ける。依頼の達成と伝言が無いかどうかを確認する為だ。この地を出る時、ファンブルの大聖堂宛にクリスは手紙を出す。その時には、ハンス王子に向けてクラーラの手紙も同封し、司教経由で殿下に渡すつもりである。
「手紙の内容、今から考えておいてね」
『し、下書きしたら、読んで添削してね』
クラーラは文字はかなり覚えてきているが、言い回しなどがおかしい事もある。書き言葉と話し言葉は異なるし、王子殿下に失礼のない程度に丁寧な書き方を心掛けねばならない。
とは言え、数行の簡単な手紙であり、消息確認的なものだから気負う必要はないだろう。
冒険者ギルドに向かい依頼達成の報告を済ませ、『特級探偵』オリヴィ=ラウスに街の教会の救護院で奉仕活動をして待つとの伝言を受付に残すと、二人は目的の救護院へと向かった。
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救護院での仕事はクリスにとっては慣れた作業であり、クラーラも孤児院で覚えた作業の繰り返しだ。水汲みや掃除に洗濯、食事は担当の料理人がいるので修道女はする必要はない。それと、病人・怪我人の世話が加わる。
三日ほど救護院で奉仕をしていると、来客を告げる声が聞こえる。
「待たせたわね」
訪れたのはオリヴィとビルである。次の巡礼地に向け出発することは問題ないのだが、その前に、色々とオリヴィ達に聞いておきたいこともある。
「今日は、私たちの泊まっている宿に招待するわ。食事でもしながら、ゆっくり話しましょう。勿論、お連れの女性もね」
クリスはクラーラと夕方まで奉仕活動を続け、今日は別に宿に泊まる事、明日朝にはここを発つのでこれにて辞去する旨を院長に伝える。一宿一飯であるので、手伝いは一日程度で問題ないのだが、三日も手伝ってくれた二人に特に救護院は思うところはないので、快く送り出してくれた。
オリヴィに指定された宿は、この街では鉄道の敷設に合わせるように開業されることになるホテルであるという。鉄道の旅が早くなったとはいえ、一日で目的地に到着するわけではない。鉄道の駅舎は元々ある街から離れた場所に建設されることがほとんどであり、それに合わせて新しい『市街』が建設されることになる。
今まで街の中心地として栄えてきた大聖堂周辺の歴史ある場所が、鉄道駅のある新市街の中心地へと街の中心が移っていくことになるのだろう。
もっとも、機関車は相応に音も煩く、煙も相当に出る。見知らぬ人間が出入りする場所よりも、落ち着いて過ごせるもとからある街の方が良いという面もあるだろう。
とは言え、時代は新しいものをどんどん運んでくる。巡礼のような古い歴史あるものの中にもだ。
『立派なお屋敷……』
王都の中にあるホテルは、貴族の屋敷や教会などを改修した建物も少なく無いと言うが、ここのホテルに関してはコンクリート煉瓦造の新築の建物のように見て取れる。今進んでいる、王都の新市街の建物に似ていなくもないとクリスは感じていた。
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