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第九話 巡礼の聖女 憲兵に連れていかれる

お読みいただきありがとうございます!

第九話 巡礼の聖女 憲兵に連れていかれる


BASHA !!!


 オリヴィの双発銃の弾丸は散弾であったようだ。それも……銀色に光る弾丸。その弾丸が棺の中身である男の死体に減り込んだのだが、煙をあげ、中の死体が飛び上がるように棺桶から出てきた。


「ビル!!」


 棺桶の蓋を開け飛び出した死体の背後に立つビルが、懐から刃渡り30㎝ほどの長いダガーのような物を取り出し、男の首を後ろから一閃する。


 GOTORI……


 斬り飛ばされた首が前に落ち、切られた首からは少しだけ血が噴き出るように見える。が、先ほど頭を吹き飛ばされた男のように水風船が弾けたような感じではない。


 クリスは目の前で首が斬り落とされた事も驚いたが、それ以前に、弾丸を打ち込んで煙が上がったり、その死体が物理法則を無視して飛び出したことも疑問であった。


「も、もしかして、死体が飛び出したのもお二人の魔法ですか?」


 クリスは、説明が付きそうな妥当な答えを挙げてみた。


「……残念ながら違うわ」

「違います。これは……」


 二人の声が重なるように『吸血鬼』と告げられる。なにそれ、今まで以上におとぎ話の世界なんだけど……とクリスは思うのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 首を刎ね飛ばされた『吸血鬼』の死体は灰となり消え去る。棺桶には蓋を改めて重ね、他の棺桶にも異常がないかどうかを確認してから、三人は一先ず外に出る事にする。


「ヴィ」

「大丈夫よ。床は、しっかり開かないように埋めておくから」


 オリヴィがなにやら言葉を紡ぎ始める。


土壁(barbacane)

(adaman)(teus)


 納骨堂へとつながる階段が埋め立てられ、床と一体になった後、固められたような床へと変化する。


「これで問題ないわね」

「はい」

「……あの……」


 オリヴィ達に委細を聞こうかとクリスが口を開きかけた途端、背後から複数の人の気配がする。


「おい! 無事か!!」

「お、嬢ちゃん……と、その二人は……誰だ」


 憲兵と猟師数人が納骨堂に入ってきたのである。全員がオリヴィとビルに警戒する。


「特級探偵・オリヴィ=ラウスです。こちらは助手のビル。同じく特級探偵です。王都で依頼を受けこの地の調査を行っていました」

「……特級探偵……」


 憲兵の一人の顔色が変わり、敬礼を返す。つられたように、他の憲兵も敬礼を行う。どうやら、クリスが思っていた以上に重要人物のようだ。


「あ、誤解しないでね。特級探偵というのは、依頼の内容によって一時的に官憲の現場指揮をすることがあるの。その場合、階級は憲兵なら『大佐』、市警なら『警視』になるのよ。だから、憲兵の方達からすると上官に見なされるってだけ。今は別行動だから、そこまで畏まられると困るわ。憲兵の隊長さんのところまで連れて行ってもらえますか?」


 お邪魔したようなので、憲兵にご挨拶という事のようだ。




クリスは街から同行した猟師たちに『特級探偵』とどんなことがあったのかを聞かれた。それは直後、憲兵に「射殺した死体の場所」を案内する為に連れ去られて中断となる。


 クリスは射殺した事自体より、オリヴィが確認した異常者……恐らくは黒い犬の飼い主であるだろう存在を指摘したことで案内を命じられたのだと知る。どうやら、オリヴィ達は、地下墳墓での一件は憲兵に伝える気が無いのだとクリスは理解する。


 既に黒い犬は猟師たちによって捉えられており、死体となっていた。激しく抵抗はしなかったものの、危険を考えて『射殺』ということになったらしい。


「けれど、椎の実弾三発喰らってもまだ死ななかったんだ。普通の犬じゃないって思うだろ?」


 死体の場所へ案内する間に、行きがけに馭者台で仲良くなった憲兵とクリスは少し話していた。黒犬は、クリスの説明した特徴を持つ犬であったが、ただの犬にしては強靭すぎたというのだ。


「襲い掛からなかったんですね。私の時もじっと様子を見られていた感じがしたんですけれど」

「ああ。まるで……使い魔みたいだって猟師たちは言っていたな」


『使い魔』というのは、その昔『魔女』と呼ばれていた存在が使役する動物の姿をした『悪魔』であるとされる。なので、見た目通りの存在ではなく、強力な魔術を用いたり、人を迷わせる能力なども持つらしい。


 しかしながら、別のおとぎ話の世界では『精霊』であるとか『悪霊』などとよばれ、時代によっては『魔物』とされる存在である。


 狼が数多かった時代、戦場や略奪にあった村などで無念の死を迎えた人間の魂が『悪霊』となり、その悪霊に狼が侵された場合『魔狼』という魔物になったと言われる。


 王都に現れた人喰い狼や、『マルジュリ山の魔獣』と呼ばれた人喰い狼もその系譜ではないかと囁かれているのだが、公式には当然否定されている。蒸気の機関車が走り、あらゆる場所に人の足跡が残されつつある時代において、『魔物』などというお話は事実ではないとされるのが、この時代の常識ではある。


 けれど、『火』の精霊の存在を身近に感じているクリスにとっては、『精霊』も『人魚』も身近な存在であり、現実なのだと言える。口にするつもりはないのだが。




 礼拝堂の手前を抜け、クリスたちが歩いてきた草の踏み跡を戻ると、やはりそこには、血色の悪い中年男(後頭部破損)の死体が仰向けに倒れたままであった。


「……君がやったのか」

「警告をしましたが無視されたので足に一発当てました。それでも全く動じずに襲い掛かって来たので、ここに一発入れています」


 額の中央に火薬の飛び散った後と弾丸が入ったであろう穴が穿たれている。


「即死か。これ、持って帰るぞ」


 同行した憲兵が担架を広げ、いちにのさんで死体をその上へと移す。


「ここで、さっきの探偵とあったわけだ」

「はい。躊躇していたのを、後ろから声を掛けられて……こうなりました」


 教会で死体は見慣れている。棺を整える手伝いだってしたことがある。しかしながら、自分で死体に変えた存在は、クリスにとって初めての体験であり、心に澱のような物が沈んでいくのを感じていた。



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