表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/156

第四話 巡礼の聖女 捜索隊に加わる

第四話 巡礼の聖女 捜索隊に加わる


 野営地から黒い犬が去った後、クリスは全員の安否確認をした。馬車の荷台で寝ていたこともあり、人の命は無事であった。しかし、残念ながら荷馬車を引く馬の一頭が首の骨を折られ死んでいた。


「す、すまなかった」

「気にしないで。あたしも銃がこれじゃなかったら、同じだから」


 ハンス王子から贈られた雷管式双銃身銃を右手で掲げ、クリスは行商人たちに気にしていないと告げる。


「戻ってくることはないと思うけれど、どうする?」

「……馬が足らん。この先の街までとりあえず報告に向かって、警邏にしらせたり、馬を借りたりしてこねぇとな」


 まだ明るくなるまで時間があるが、騎乗で街道を移動する分には問題ないだろう。幸い、月が明るく夜道を照らしている。


 二人は念のため天幕を片付け、馬車の荷台に乗せてもらい仮眠をとることにした。というよりも、クリスの銃がそばにあることを行商人たちが望んだという事もある。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 暗いうちに野営地を出た行商人の一人が街に到着するころ、夜は白々と明けていたらしい。憲兵隊の詰所に足を運び、昨夜の事件の報告を行いながら、替えの馬を用意してもらった。


 行商人として顔見知りの者もおり、憲兵も替えの馬を揃えて戻る行商人に帯同し現場へと戻ることになった。


 朝食を簡単に済ませ、馬の到着を待っている間、クリスは犬の足跡を確認していた。野営地の奥まった場所から始まっており、足跡を消さないように、他の人間には馬車の周りから動き回らないように伝えている。


 天幕の付近からもと来た場所に戻る経路に足跡と並行し、血痕が何箇所か落ちており、この分で行けば、今日のうちであれば犬の痕跡を追えるのではないかとクリスは考えていた。


『どう? 追いかけるの』

「いいえ。行商に同行することが仕事だもの、官憲を連れてくるでしょうから、その時にさっさと説明して、私たちは行商人の馬車と一緒に街へ行くの。その為の確認よ」


 不安そうにするクラーラに、クリスは簡単に答えた。何が悲しくて、犬の痕跡を追いかけねばならないのかと。出来れば今日は、屋根とベッドのある場所でゆっくり寝たいのだ。




 日が樹上に見える頃、二人の憲兵を連れた行商人が戻ってきた。馬具を整え出発するまでの間、犬に銃を発したクリスが中心となって昨夜の出来事を説明していく。一人が質問し、一人がメモを取る。


「それで、シスター・クリスは個々に天幕を張って寝ていたと。一人で?」

「いいえ、シスター・クラーラと共にです」

「シスター・クラーラ。あなたは何か見ましたか?」

『……』


 クラーラは黙って首を横に振る。


「騒ぎ立てられても困るので、熟睡していたままにしておきましたので、何も見ていないと思いますわ」

「……そうか。それは賢明かもしれないな」


 クラーラは『起きてましたぁー』と心の声で主張するが、話せるわけではないので、それは寝ていると言った方が面倒がない。


 クリスは朝のうちに調べておいた足跡と血痕、そして森の奥へと続く獣道に足跡が消えていくのを憲兵に伝える。跡を追ったかと聞かれ、途中までと答える。憲兵が警備に使う事もある犬なのだという。


「深追いして、かえって危険でしょうから」

「賢明だ。それで、犬の特徴は……」


 クリスは牛追いに使う『メッツガーフンド』という犬種に近い大型犬であると伝えるが、犬の姿かたちが伝わらないようで「マスチフを大きくした犬」と伝えると、「あれか」と言われる。


「街に戻って犬を連れて山狩りか」

「手負いの獣であるし、飼主に悪意がある可能性もある。放置は出来ないだろうな」


 地方警察は各地の知事が警察長官を兼ねている為、地元民の安全を考えない場合、いろいろ評判やその後の政治生命に悪影響が出る。上司の上司のそのまた上司なのであるが、末端の憲兵としては報告を上げて、先ずは街の憲兵隊長の指示を仰がねばならない。


「一先ず、街に行ってもらう。居場所をはっきりさせて、あとで事情を詳しく聞いて調書を作成するかもしれない。よろしく」


 憲兵はそうクリスに伝えると、血痕が他にないかなど調べ始めた。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 街に到着し、行商人はそこで三日ほど店開きをするというので、クリスとクラーラは街の冒険者ギルドに向かう事にする。小さな依頼でも受けて路銀の足しにでもしようと考えたからだ。


 見かけない顔の冒険者二人に、受付が声を掛けたのだが、「行商人の同行で」と軽く説明すると「昨日は大変だったわね」とねぎらわれた。既に、大きな犬が野営中の行商人たちを襲ったという話は街で話題になっていたようだ。


「それで、クリスは犬を見たの」

「ええ。それだけじゃありません。あたしのこの銃を一発お見舞いしてやりました」

「へぇ、それで無事だったわけね。よかったわ」


 生まれも育ちもこの街だという受付嬢とそんな会話をしながら、良い依頼がないかとクリスが掲示板を見ていると、背後に憲兵が現れる。


「シスター・クリス。調査に同行してもらいたい」

「は? 構いませんけれど、依頼でしょうか。依頼であればお受けします」

「……日当は出るぞ」


 憲兵は面倒だと言いながら、ギルドの受付嬢に依頼票を記入させてもらい、その場でクリスが依頼を受ける形で完了する。


「これはギルドからも報奨金が出せる案件だから、日当とは別に用意して置くわね」


 街の治安に関わる害獣駆除や警備の仕事に関しては、街の予算から冒険者ギルドに資金が提供されるのだという。街の住人ならともかく、余所者の冒険者に無料で協力させるというのはおかしな話だからだ。




 クラーラは街に残ってもらう事にし、クリスは街の猟師や憲兵の一団と共に、馬車に乗りもと来た道を引き返していく。憲兵は腰にはサーベル、手には銃剣をつけた歩兵銃を持っている。とても重そうだとクリスは思う。


 猟師も、銃剣こそないものの、単発式の銃であるが、ライフリングを施した銃だという。弾丸も椎の実型の物を使っており、連射は出来ないが射程・一撃の威力は官憲の歩兵銃を上回るという。


 憲兵の作戦は、黒い犬を見つけ、憲兵で取り囲み猟師が止めを刺すということのようだ。クリスは、自分のところに犬が来なければいいなと考えていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ