第四話 巡礼の聖女 鉄道は新たな火種を招く
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第四話 巡礼の聖女 鉄道は新たな火種を招く
「聖マリの奴ら、俺らの稼ぎで潤ってきたのによぉ」
「生意気なんだよ!!」
「……そうなのですね……では、私はこれで失礼しますね」
『……(ニッコリ)……』
笑顔のクラーラにデレ顔のおっさん二人。二つの街が一つになり、やはり元ライバルということもあり、二つの街の住人の間には対抗心があるのだ。
元は「聖マリ」の街が存在した。古帝国時代の街道沿いの街として発展し、やがて古代の司教区の大司教座にもなる。その為、街の名前は元の『イロロ』から『聖マリ』と教会の名前を街の名前としたのである。
中世において、街や都市は領主から自立し権利を確立しようとする運動が多くみられた。街壁を築き、貴族とその配下の農村の住人である兵士の力を頼らずとも自衛できる戦力を持つことで、領主の支配権から自立しようとしたのである。
古帝国時代からの街・聖マリも同様でった。当時の領主はその為、新しく川の西側に『街』を建設、イロロと名付け、自身の統治の中心地とする事にした。
しかしながら、聖マリ大聖堂自体は当時の領主が建設した物であり、聖マリの街の大聖堂は『聖十字大聖堂』である。こちらが最も古い教区教会であり、司教座都市となった際の大聖堂でもあった。ややこしい。
こうして、旧イロロである聖マリと新しいイロロの街が並立する時代が続いた。川を挟んで二つの街が並び立ったのだが、イロロの街は領主の肝入りで神国との取引、繊維工場を営むなど領主の力を有効に使い、聖マリの街ではできない取り組みを進めていった。
結果として、新しいイロロの経済力に聖マリが従属することになる。
神国との戦争状態が集結し、王国と親族関係となる今の王家が神国の王統となった百年ほど前から、王国神国間の経済交流が活発となり、イロロと聖マリは経済的に恵まれた状況になりつつあったが、経済の中心はイロロ地区にあるのだ。
元祖イロロと新イロロの住民間の軋轢は、経済的な主従関係と共に拗れつつあるのだろう。
『マジで、触らぬ神にってやつだな』
「ええ。無難にお勤めを済ませて、先に進みたいわ」
街が一つになってまだ五年ほど。くすぶり続ける火種がそこかしこにあっておかしくないのである。
『鉄道の駅がどうとかってなんなんだろうね』
『ふむ、そもそも鉄の道とはいかなるものなのじゃ』
「……そこからよね……」
ルージュなどでもそうであったが、鉄道を開通させる場合、駅を街のどの部分に設置するかによりその後の街の発展に大きく影響することが周知の事実である。
鉄道の駅を古い街の中心に置く場合、多くの既存の住民の転居が必要となるため、多くの場合駅は街の周辺部に作られる。その駅の周辺に新しい街の中心地が作られることになる。
古い街の中心の住民は、当然面白くない。人の流れが変わり、したがって金の流れも変わるからだ。
イロロに駅を作るか、聖マリに駅を作るか。街の有力者のみならず、知事や教会関係者に中央の官僚を巻込んだ二つの街の誘致合戦が盛り上がっているらしい。その背後では、利害対立から暴力沙汰迄起こりつつあるのだという。
鉄道の開通予定は凡そ二十年後らしいのだが、それでも、駅の建設場所が確定するまでは、この緊張状態が続くと考えられる。
さっさとこの街を去りたいと、クリスは深く思うのである。
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『ほぅ、人間も中々やるのぉ。火と水を組合せるとは、大精霊でも中々できぬことを考える』
クリスに「蒸気機関車」の仕組みを説明され、大精霊『ディア』はひとしきり感心していた。相性の良くない精霊同士の反発する力を生かした魔導具と理解しているようであるが、当たらずとも遠からずである。
「駅ができれば、外から人がやってきて新しい商売も生まれる。街の新しい中心が生まれるから揉めるのは仕方ないんでしょうね」
『二つの街の真ん中につくれば解決だし!』
『ポンコツ、二つの街の真ん中は川であるぞ』
『……ポンコツ……いわないで……』
川の上に駅は難易度高そうである。
『三日後にはこの街を出て二度と足を運ばねぇだろうから、俺達には関係ないな〛
『ない、全然ない!』
『そうもいきません主』
帰ってきたシュワルツが話に割って入る。
「どういう意味?」
『教会が絡んでおります』
街の名前に教会名が入っていることからも分かるように、旧イロロの街は聖マリ司教座と共に領主から独立し『聖マリ』の街となった住民からなる集団だ。教会勢力を巻込んだ一つの利益集団とも言える。
対する、イロロの中心は旧領主の家系に連なる紡績工場の経営陣とイロロの商工会のメンバー。彼らは、中央の官僚・鉄道会社に関わる産業界をバックに駅の誘致を勧めようとしている。
つまり、これは以前からある『領主』と『教会』の対立の焼き直しであるのだという。教会に滞在するクリス一行も巻き込まれかねない状況なのだ。本来、表立って世俗の利害関係から中立であるはずの教会が、今回はすっかり問題の中心にいるというわけである。
「何も起こらないわよ」
『そういうの、言わん方が良いぞ』
どうやら、二つの街の対立は……八百年にも遡るのだという。聖征の時代以前の出来事であるらしい。
『聖征に異端討伐遠征、百年戦争、神国との戦争に貿易交流と、二つの街は常に対立関係にあったようです。それが一つになったのがたった五年前ですので……』
『どうもなんねぇな。後三世代、四世代はこのままだろうぜ』
『人の寿命は短い。百年もすれば遠い過去の話になるであろう』
人間の寿命は五十年ほど。三世代変わるのに百年とかからないだろうが、この駅の問題がきっかけとなり、また百年いがみ合うのかと思うと逃げ出したくなるのは怠惰のせいではない。
街の紋章は二つの組合せ。青いオクタ十字を上に、下に雄牛が描かれている。別々の紋章を一つにしただけであり、重なってもいない。上と下に水と油のように分かれている。紋章を見ただけでも、二つの街の住人の心情が透けて見える。
お互い、交わりたくないという強い感情が。
巡礼者用の二人部屋で寛いでいると、突然ドアがノックされる。教会であるから、せわしなく激しく叩かれはしないが、その雰囲気から急用である事が察せられた。
嫌な予感しかしないと、クリスは思うのである。
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