第二部 プロローグ
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『 ビスケ人に伝わる伝承の研究(抄訳)
王国の西部から神国東部、西大山脈一帯に古くから住む『ビスケ人』は古帝国以前からの先住民であると知られる。独自の言語・宗教を持ち、長らく御神子教の信徒となる事は無かったが、神国の聖征の過程において、徐々に信徒となる者が増えていった。
ビスケ州・ナバロン州は、聖征の時代においてはそれぞれ独立した王国を為しており、ナバロン州は『ナバロン王国』としてビスケ人の王国であった。また、ある時期まで現在、王国領となっている港湾都市『バイヨ』周辺も領域に含まれていた。
ビスケ人の住む領域において、泉に棲む竜と泉の乙女・精霊の『番』の存在が伝承として多く残されている。この泉の乙女は、近隣に住む乙女が何らかの理由で山中に逃避し、その山中の泉に潜む竜に見初められ匿われ、やがて泉の女神『精霊』となったという定型的な伝承として各地に残されている。
また、女神を祀り、巫女をその仲介者として自然の精霊を崇拝する文化をもっていたが、御神子教の浸透とともに、巫女は『魔女』とみなされ、山中の霊場であった泉と竜も神の眷属から『魔物』と見なされるようになった。
ビスケ人の住まう地域において、多くの修道院が建設され、新世界への布教活動を熱心に行った『宣教師』を多く輩出している。その中には、『御神子修道会』の創設者の一人として名高い『聖ファビエル』がいる。
また、『御神子修道会』の初代総長『聖イグニス』もビスケ人であった。新世界に多くのビスケ人が宗教家・探検家・船乗りとして旅立っていったとされるが、その民族性により精霊の導き・加護を得ているものが多く、大いに活躍する事となったとされる。
但し、御神子教においてはその事は公には否定されており、『天使』や『神』の導きがあったとされる。
しかしながら、ビスケ人の間においては現在も『精霊』は認識されており、加護・祝福と言ったものは脈々と伝えられているという。
――― 外務省神国大使館 イルニア領事 』
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ビスケ人が住む地域は、西の大山脈の中央部から来たの両山麓、神国と王国にまたがって広く住んでいる。いまでは、神国にすむ者は神国語を、王国にすむ者は王国語を解し、また日常に使う者も少なくないが、本来は独自の言語『ビスケ語』を使用している。
ビスケ語は、古帝国語由来の神国語・王国語・帝国語・法国語などとは全く別の言語体系を持ち、共有するものはほぼない。また、王国に古帝国時代に住んでいた先住民(今日では古帝国以降に同化して王国人となっている)の文化・言語・風習ともことなっている。
とはいえ、精霊の存在を信じ、竜と共に暮らす乙女の伝承が残るなど、今では歴史の彼方に『魔女狩り』とともに消えてしまった、御神子教以前の自然崇拝・精霊との交流の文化を色濃く残す民族でもある。
表向きは御神子教徒だが、御神子教と精霊の存在が共存していると考えればよいだろう。
「つまり、その某って女の子はビスケ人だったってわけ」
『見たわけではありませんが。その少女の証言を、御神子の司祭たちが『聖母』であるとしたのではないかと言われております』
ベルナはビスケ人の持つ素直な精霊の存在を示す話を語っただけなのだが、その噂が広まる過程で御神子教会の司祭たちが『奇蹟』のタネとして取り込み利用したのであろうというのだ。
粉ひき屋として本来はそれなりの生活ができる家系であったはずなのだが、父は粉ひき機の事故で目を怪我し、自分も病気がちであり幸せとは言い難い状態であった。
その中で、自分たちの幸福を願い、精霊にちょっとした願い事を伝えたのではないかというのだ。
そう考えると、少女ベルナ以外がその姿を見ることができなかったにも関わらず、奇蹟の効果が持続している理由も理解できる。
基本的に精霊は期待されたり頼られたりすると、頑張ってしまうのだ。お人よしであり、自己を鑑みない存在でもある。自然の恵みというのは、えてしてそういうものでもある。
『反対に考えりゃよ……』
『いつまでもつづくわけじゃないよね。精霊の力だって限界あるわけだし』
奇蹟と教会が認定した物だけでも数十、そして、効果があったと証言されたものだけでもこのニ三年でその百倍の数千件にのぼるらしい。どれだけ頑張りゃいいの。
「まずは、その精霊がいるかどうか、確かめなきゃね」
『いぎなーし』
『……主、おりますが……』
シュワルツは既にケット・シーとして話をしてきているらしい。精霊同士話が通じて何より。
『できれば夜遅くか早朝、人気のない時間でお願いしたいと』
少女ベルナが教会に拉致……保護され修道院で生活するようになり、その精霊はかなり心配しているという。
『自らの巫女が姿を見せなくなったのですから、心配なのは当然であるな』
だが、それだけではないらしい。精霊自信を直接認識する人間との交流であれば、その中で魔力を得ることも、自らの認知を得ることでその存在を活性化することもできるのだという。
『ですが、認識の無いままですと、自分の与える力が一方的に流れ出ている状態なので、そう長く存在を維持できないだろうというのです』
「なら、どうすればいいの?」
その精霊曰く、引っ越しがしたい……というのである。
『どっちかというと……家出じゃない?』
『いや、逃散だな』
逃散というのは、そこを統治する領主を見限り、住民が町や村を捨て他領に逃げ出す行為を示す。領主と領民の関係と参拝者と精霊の関係に重ね合わせれば、似たようなことになるだろう。税を払うだけで何もしない無能な領主に愛想を尽かせるというのは、おかしなことではない。
「なら、どのようにすれば引っ越せるの?」
今同行しているヴァイス・シュワルツ・ジルバはそれぞれ、実体を持っている。『白蜥蜴』『黒猫』『魔銀剣』である。しかしながら、おそらく『水』の精霊であるそれは、何に宿れば良いのかという問題もある。依り代が必要なのだ。
「ジルバはどうしてそうなったの?」
『ん、寿命が終わる前に、この依代に転移できるように術を施した。けど、魔力が消えそうな精霊じゃ、無理だろ?』
触媒もなければ、自らを移すために用いる魔力も余り残っていないのであるから、ジルバの行った方法では時間も魔力も足らない。
『巫女様、そのポンコツの『水』の精霊の加護を用いて、魔水晶を作り上げればよろしゅうございます』
『ポンコツいうな!!』
餞別に預かった幾つかの魔水晶。魔力を込めることができる素材なのだが、『水』の精霊の加護を持つクラーラの魔力を充填し、本来自力で賄う依代への転移コストを賄おうというのである。
「ヴァイスの案で行きましょう」
他に良案があるわけではなし、一先ず夜が更けるまでクラーラは魔水晶に自分の魔力を込める事にしたのである。
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