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第九話 巡礼の聖女 ルードに到着する

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第九話 巡礼の聖女 ルードに到着する


 赤長靴の魔術師に関しては「美男子」とする意見と、「美女」であるとする意見が両方ある。直接話をしたクリスからすると……多分男装女子ではないかと考えている。


 胸は胴衣で抑えれば目立たなくできる。形が崩れるかもしれないが、そもそもスッキリ系かもしれない。歩き方が女性的だと思ったのだ。

理由は……わかるね!


『あ、ないから』

『ポンコツ、巫女様がぼかしているではないか。察しろポンコツ』

『うう、二回もポンコツいわれた……』


 言葉の話せないクラーラに、不思議な十字架のロザリオを渡し、クリスは増援の憲兵指揮官に話を聞かれている最中であった。護衛の指揮官は命はとりとめたものの、話を聞ける状態ではなく、他の憲兵も同様であったからだ。

 

 勿論、ツルハシやスコップで撲殺された憲兵もいる。


「……以上です」

「わかった。あー 君は……」

「オリヴィ=ラウス探偵社の探偵でクリスと申しますわ」


 ヤッベ!! と一瞬表情にでた指揮官は、一瞬で顔色を元に戻すと何事もなかったかのように協力に対する感謝の言葉を述べた。


『本省は関わってねぇっぽいな』


 ジルバの言う通り、もし仮に憲兵全体の意思ならば国策的に隣国の武装集団を支援しているという事になり、王国が神国の中央政府に対して工作活動をしているという事になる。しかしながら、相手の装備を見るに連合王国からの武器支援を受けているか購入をしており、王国と直接コンタクトがとれているわけではなさそうである。


 ビスケ人勢力と地元の有力者の結びつきに、ご当地の憲兵の一部が協力しているということだろう。護送した「トロザ」の憲兵と、増援で来た憲兵は所属が異なるようだ。『バイヨ』と呼ばれる西大山脈の東麓にある王国の港湾都市は王国内でもビスケ人が多い地域である。増援はそこの管轄の憲兵であり、つまりは……そういうことなのだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 後から着た憲兵に救助を委ね、巡礼馬車一行は先の街へと移動することになる。今日はルードの手前、山の登口の街で泊まり、明日の昼過ぎにはルードに到着する予定となる。


「大丈夫だったかい? ケガはなかったかい?」

「お陰様で。憲兵の皆さんが一生懸命戦ってくれたからです」

「おお、それと、あの青天の霹靂は……やっぱクリスチャンのことを神様が守ってくれたからだろうな」


 確かにそう見えなくもないが、あれはクリスの『雷』の精霊魔術である。なんだか、似非聖者みたいでいやなのだが。


「巡礼の旅をしてよかった。これで故郷のみなに、奇蹟の話ができる」

「そうだな。修道女をまもった神様の雷で、あっちゅー間に魔物や悪者が打ち倒された。奇蹟だて」


 奇蹟奇蹟と奇跡の大安売りが巡礼宿で始まってしまった……


『むふぅ。世が世であれば、巫女様が教祖にもなりえたであろう』

『なにそれ、おもしろそう』


 面白くない。確かに、旧聖典には神様が起こした奇蹟で、選ばれし民が救われたり、敵が滅ぼされたりする話が散見される。けれど、クリスの奇蹟にはタネも仕掛けもある。


『まあ、いいんじゃねぇの? 自分で言い出せば『異端』だ、『魔女』だって言われかねぇえが、他人が言う分にはそこまでじゃねぇ。どうせ、旅の思い出ってやつだろ』

「それもそうね。明日で皆さんとはお別れだし」


 この十日ほど、巡礼宿でいろいろ世話をし世話になったおじいさんおばあさんたちとは明日でお別れである。二人は、洞窟の『聖母』を見極めて報告をしたのち、西の大山脈を越える。他は、それぞれの期間巡礼の為滞在するか、逗留し病気快癒を願うのであろう。


 その日の宿は明日の別れを惜しんでか、いつもより遅くまで騒がしかった。魔力切れになりかけのクリスは、気絶するように寝たのだが。





「無理しちゃだめだよ……クリス様」

「雷霆の聖女クリス様。まだ、お力が戻られておりませんでしょう。羅馬にお乗りくださいませ」

「ささ、クラーラ殿が轡を採られて。よろしくお頼み申しますぞ!!」

「「「「ありがたや、聖女様、ありがたや……」」」」


 昨日の夜の時点で、クリスが気絶するように寝ている間に、巡礼の一行から広まった『雷霆の聖女』の噂話は、生き残った護送任務を担った憲兵たちが救護を受けていた病院の看護人たち経由でも街に広まっていた。


 つまり、馬車に乗らずクリッパの背に乗せられ、ゆるゆると巡礼馬車の後ろを追うクリスの姿を……多くの人が手を合わせ拝むのである。嫌だ!!


『マッチ売りの聖女よりいいだろ?』

「え、普通にこっちが嫌だけど」

『なんで?』


 クリスはマッチを沢山売る事ができるのであれば、聖女だろうが何だろうが呼ばれる事が気にならない性質であった。だがしかし、雷霆? 雷は売れないだろ? と思うのである。世知辛聖女である。




 予定通り、ルードには昼過ぎごろ到着する。が、さびれた山村をイメージしていたクリスは、山麓に広がる新しい『街』に大いに驚きを感じた。


「……なにこの賑わい……」

『なんか立派な建物が建てられているねー』

『おお、これは礼拝堂……いや大聖堂ですな巫女様』


 『闇』の精霊であるヴァイスが何故か詳しい。どうやら、この一角だけでなく、まるで王都やトロザの街の新開発地区のように石造・煉瓦造の都会的な建物が次々に建築中となっている。


 噂には聞いていた。泉で見かけた『白い貴婦人』と称される不思議な存在を幾度か目撃した村の少女が、教会から『聖母』を見たと解釈され、やがて、王国中に喧伝され参拝者が大いに集まっていると。


 そして、泉の水を飲んだものに奇蹟が訪れたという噂が、さらに人を集めているというのであった。訪れる者の数は少なくないが、それ以上に滞在を続けているものが少なくないのだろう。


 クリス達の同行した巡礼者は二十名ほどだが、これはトロザから来たものだけである。他にもバイヨやらボルデュを経由してくる者たちも少なくない。


 巡礼街道を神国の西端まで行くものは今は大いに減っている。そして、同じくらい、聖ミカエル山修道院に参拝する者もいなくなっている。少なくなり過ぎた結果、大陸戦争前には『刑務所』として使用され、今では随分と朽ちてしまっているという。


「ここで王国内の巡礼を回復させたいという教会の思惑ね」

『だけじゃねぇだろう。大陸戦争で負け、傷ついた愛国心を御神子教の巡礼を復活させることで癒そうって政治的配慮もあるだろうな』

「世知辛いわね」


 宗教の政治利用というものは歴史的に見ても珍しくはない。このような王国の西の果てにまで多くの人が集まり、街のようになっていることを考えれば、その考えはこの時代にも変わらず通用するのだろう。


「だから、見定めろって事なのね」

『ん、泉の女神様がいるかどうかってこと?』

『この場所に……精霊はいそうです。人が多ければ……気配も希薄になっておりますが』


 シュワルツ曰く、夜の方が良さそうだという。確かに、この祭りのような賑わいの中で、『聖母』か『精霊』に出会うのは難しそうだとクリスも感じていた。




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