第六話 巡礼の聖女 憲兵と組織の罠を考える
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第六話 巡礼の聖女 憲兵と組織の罠を考える
結論からすれば、様子伺いをしてそれとなく注意喚起する程度に留めることにした。詳しく知れば、「内通者か」などと嫌疑を受ける可能性があると考えていたからでもある。
幸い、護衛の人数がこの先の街に滞在する憲兵六人が追加となり、先行する騎乗憲兵として警戒を行うとのこと。流石に、この先の狭隘な地形での襲撃を予想していたようだ。
「であるから、巡礼者どもは少々距離を置いて追従するように。巻き込まれても知らんぞ」
「は、承知いたしました。巡礼馬車の馭者にその様に伝えます」
ということで、憲兵の指揮官は巡礼者に配慮を伝え、クリスは憲兵が対応出来ることを祈りつつそれなりの距離を保って後詰することにした。
『さて、どうなるかな』
「大丈夫でしょ? コボルドってゴブリンくらいだって聞いているわ」
『帝国ではでねぇのか』
「はは、ファンブルは海に近い都会だからね。メイン川の上流の森深い場所とか、デンヌの森ならまだ出るんじゃないかなって聞いたことがあるくらい」
『そうか……魔力持ちが減ってるってことは、魔物も減ってるんだろうな』
魔力持ちや精霊の加護持ちが『原神子信徒』の増加とともに減っていると言われているが、聖典以外の奇蹟や聖人の行いを否定する考えが増えれば、精霊も感じられなくなる。精霊の力に依拠する魔力持ちや魔物が減るというのは当然なのであろう。
それにしても、コボルドの二十匹というのは壮観ではないか。クリスは遠目でゴブリンを一二度見かけたことがあるくらいだが、ささっと逃げてしまい、怖ろしさで言えば猪の方が余程恐ろしく感じる。
「猪の方が危険だと思う」
『まあな。魔猪ってのもいる。それは象くらいでかいぞ』
「マジで」
『じゃあ、鯨より大きい?』
鯨も小型は人間と変わらないくらいので、一概には言えません。
クリスとクラーラは狭隘部に近づくに従い、少しずつ巡礼馬車の足を遅め、先行する護送馬車と距離をとるように仕向けようと打合せをする。
『けどよ、コボルドを使役する魔術師か魔物使いがいるってことだよな。どんなレベルか分かればいいけどな』
『……そうですね。夜にでも今一度偵察して参ります』
『ふむ、こちらを襲う必要もないのであれば、あまり気にせずとも良かろう。護衛の数が増えると考えれば、こちらにちょっかいをかけている余裕はないと思うがな』
「それもそうね。でも、探ってもらえると有難いわね」
『承知いたしました』
そして、クリス達は三泊目の街へと到着する。
憲兵は街で待機していた騎乗憲兵と合流。この先の状況確認の情報交換を行っているようだ。クリス達は巡礼宿へと向かうのだが、憲兵の会話の内容が知りたいと思い、シュワルツに探りを入れてもらう。
しばらくするとシュワルツが戻って来る。
『やはり囮役を兼ねているようです。追加の憲兵が隣町で一個小隊ほど待機しているようですね』
凡そ四十名ほどだろうか。そちらに、今回の計画の責任者がいるのだろう。憲兵の計画としては、襲撃場所は凡そ特定できているので、時間を見計らい襲撃場所に時間差で到着し、馬車を襲っている武装組織を二重包囲して殲滅することを予定しているのだという。
こちらには憲兵十に騎乗憲兵六、騎乗憲兵は騎兵銃を装備しているようで、王国製のゴツいリボルバーも装備している重装備だ。実際、重量の割に弾丸が小さく、装填もしにくい銃なのでオリヴィからは「はずれ」と呼ばれていた記憶がある。
内務省警察局としては、オリヴィ=ラウスに扱ってもらいたい装備であるようだったが、本人はアンリ銃を選らんでいた。魔術師であるから、銃は示威行為に必要に過ぎないのだろうが。
「一先ず安心ね。タイミングさえ間違えなければ挟撃は問題なさそうだし」
『まあな。けど、ひっかかる』
『……主、私もです』
恐らく、武装組織は密輸商人が『転職』した結果である。未だに王国内には取引先が残っており、武装して王国や神国の憲兵あたりにつっかかるのは、政治的な立場を示すポーズに過ぎない。本業は密輸で儲けることにある。
恐らく、こちらの仕掛けも分かった上で敢えて受けて立つ。返り討ちにするつもりなのだろうとジルバとシュワルツはいう。
『じゃあ、こっちも受けて立つ!!』
元気よくクラーラが答える。だがしかし。
『そうはいくまいポンコツ。例えば、二重包囲をするつもりの増援に足止めが用意されているとすれば……どうなる』
『どうなる?』
さあ、どうなるのでしょう。そこは自分で考えような!!
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護送馬車を襲う集団に変更はなかった。但し、増援を阻止するための別動隊が武装集団側にいるという事が判明する。
『武装勢力とつながっている憲兵側の幹部がいるようです。その指示で、足止めを受けたなら、そこそこ戦って損害をお互い与えずに引き上げるような申し合わせができている……と話しておりました』
翌朝、戻ってきたシュワルツの言を聞き、どうしたものかとクリスは悩まざるを得なくなる。要は、護送中の武装勢力の幹部?を表向きはともかく、実際は逃がす算段をしているという事だろう。
「その場合……どうなるんだろう」
『こっちの護衛にはしらされてなさそうだな』
『ん? どういうこと』
憲兵の上層部と武装勢力の間では手打ちがなされている。通報されて王国内を犯罪者がうろついているのは放置できない。しかしながら、捕まえてしまうと取引先からダメ出しを喰らう事になる。貸しを作れることにもなるのだから、ここは抵抗するふりをしておいて素直に引き渡す。しかし、当然襲撃され取り逃がす事になる護衛任務に就いた憲兵は相応のペナルティとなるので頷くはずもない。護衛の集団には巡礼者の馬車が後続することが決まっているから、目撃情報だって偽装しなければならなくなる。
「と考えると、とばっちりの襲撃は真剣に行われるってことか」
『恐らく』
『こっちも手加減しなくていいってことだろ? けどよ、忘れんな。その武装している奴ら、峠の両側で影響力が相当あるぞ。峠を無事に越える気があるなら、やり過ぎると恨まれる』
「『……あ!』」
コボルドはともかく、武装集団の兵士たちを皆殺しにする……などすればクリス達が峠で襲われる事になるだろう。それはそれで面倒だ。帰りもあることであるし。
『ど、どうするの?』
「手加減するしかないでしょ。まず、巡礼一行を守るのが優先。それに……」
護送馬車を襲撃したコボルドが、より襲いやすい後続の巡礼者たちを見つけて大人しくしているとも思えない。護衛の憲兵を退け等なら、こちらに向かってくることが予想される。
『コボルドは討伐して問題ないと思うぞ』
「そうだよね」
人間相手ならともかく、コボルドにまで手加減できないよとクリスは思うのである。
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