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第五話 巡礼の聖女 火中の栗を拾わない

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第五話 巡礼の聖女 火中の栗を拾わない


『つまり、幹部の移送は囮か』


 ジルバが推測だと断りながらも持論を述べる。


『そのようです。ルードには元国境要塞で現在は刑務所として利用されている石造の建築物が存在します。そこに敢えて移送することで、収監される前に幹部を奪還する行動に出る武装勢力を釣り出そうということなのだと思われます』


 わずか十人の憲兵で、それなりの数の武装した民兵・犯罪組織の兵隊を迎え撃つのはどうなのだろうか。五十人百人現れてもおかしくないのではないか。


『いざとなったら、我が皆を隠そうぞ!!』

「……昼間から、黒い霧で自分が覆われたら、全員パニックになるわよ」

『むぅ。なら、その武装した者どもを黒い霧で覆うのではどうだろうか』


 ヴァイスの案も一理ある。


 できれば、依頼を断りたい気もするのだが、お世話をしている間に知り合いになったルード行の巡礼者の皆の安全を考えると、別行動をとるのは心苦しい。それに、受けた依頼を断るのも気が引ける。


 武装勢力と呼ばれる存在がどのようなものなのかは、シュワルツが今少し詳しく調べるという。


「慎重に、少し距離を開けて護送馬車の後を同行させるというのではどうかしら」

『悪くない。奪還したい幹部以外にちょっかい出して利益のあるようには巡礼馬車は見えないだろうからな』

『うんうん、焼いたウニは拾うなって奴だね!!』


 多分、『火中の栗を拾う』と真逆の意味だろう。人魚的表現だろうか。


 護衛馬車と距離を開けて巡礼馬車は背後を進むということ、シュワルツは先行して襲撃場所を特定した後、クリス達に位置を知らせ、その場所に着く前に、巡礼馬車の足を遅くするような工夫をするということに案は落ち着いた。


「あとは、銃撃なんかあれば、クラーラの魔法壁でみんなを守って欲しい」

『もちろん! 巡礼のおじさんおばさんが怪我しないようにするからね!!』


 ルードに向かう巡礼者のおじさんおばさんに、言葉の話せない『行』の最中としているクラーラは随分と可愛がられたのだ。主に餌付け方面でだが。一生懸命ポンコツなクラーラは、年上ながらクリスよりも面倒をみられる

側であった。


 孤児院やギルドの依頼で卒なく仕事をこなす事を覚えたクリスは、ここでも年相応には扱われていない。損な役回りだと思うが、性分なので仕方がない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「では、出発!!」


 巡礼馬車は護衛馬車の出発を確認すると、ゴロゴロと進み始める。収監されていた警察署は巡礼宿などの多い長閑な西岸にあるので、護送馬車の準備は良く見えていた。


 護送馬車は六頭立てで、見世物のような檻ではなく鉄の箱のような重厚な箱馬車であった。おそらく、乗り込むところを武装組織の関係者が確認していることだろう。


 ルードまでの距離は150㎞ほど。おそらく、四泊五日となるだろう。街道はロンヌ川と並行しており、川を遡るのでなければ船にでも乗るほうが良いと思われる。犯罪者の護送でなければ、それも同様だろう。





 ガラガラと川の流れに沿って馬車が進んでいく。巡礼馬車に乗るものは、乗車賃を払えるものか病人くらいのものである。


「なんでも、泉の水を飲むと病気が治るらしいからね」

「へぇ……さすが聖母様の泉ですね」

『クリス、全然信じてないでしょ?』


 クラーラに言われる迄もなく、クリスは奇蹟を信じていない。それは、見えない力が存在するから治るのであり、何もない所で奇蹟は生まれないと考えているのである。


 おそらく、泉には……


『まあ、皆迄言うな。それを確認しに行くってことだろ?』


 ジルバが意を組んだかのように口を挟む。奇跡の種は恐らく『泉の女神』のような地に住む精霊の類だろう。『土』か『水』、泉にまつわるなら後者でまず間違いない。


 水の精霊は女性の姿をしていることが多い。『ウィンディネ』『オンディーヌ』等と呼ばれる乙女の姿だ。因みに、聖母様が『処女』であったというのは、翻訳ミスであり『若い女性』『乙女』をそのまま『処女』とイコールにした聖書の古代語訳に問題があるらしい。元は、カナン語もしくは、議国語であったとされる聖典を古代語に翻訳する際に意味が変わったのだと。


 それはそうなのだが、処女受胎が奇蹟でなくなってしまうのは大問題なので、スルーされているらしい。修道女嘘つかない。


 つまり、白い女性を見たという証言を『聖母』であると認めたのは教会であり、クリスはそれは怪しいなと思っていたりする。口にはしてはならぬが。




 

 三日ほどは川に沿い比較的開けた場所をゆるゆると歩いてきたのだが、ルードに近づくにつれ、山間が迫って来る。おそらく、襲撃しやすく逃走もしやすい山肌の迫った場所で襲撃が行われるだろうとクリス達は予想していた。


 出発から三日、襲撃を予想して緊張していた護送馬車の憲兵達もそろそろ気が緩んでくる様子が見て取れる。


『襲撃場所くらい予想できるだろうがな』

「指揮官がポンコツなんでしょうね」


 護送中の囚人奪還の想定がなされて増員された憲兵だ。そのあたり、きちんと隊員の精神的なフォロー迄考えてこその指揮官だろう。もしかすると、意図的に不適格な人材を敢えて当てたのかもしれない。


『誰か呼んだ?』

『クラーラ殿のことではございませんぞ。巫女様は、口にしてよいこと悪い事の見極めができるお方故』

『それ、じっさいわたしがポンコツって言ってるよね!!』

『然り』


 ヴァイスとクラーラも仲良しのようで何よりである。因みに、クラーラは交代で巡礼者を乗せているクリッパ(Klepper)の轡を握っている。歩き疲れたお年寄りからはとても好評の様である。クリッパも騎乗慣れさせたいので丁度良い。


 ケット・シーのシュワルツが『黒猫』の姿で街道を逆走してくる。恐らく、襲撃場所が特定できたのであろう。


『この先の谷あいを少し入った場所です。恐らく、明日の夕方ごろを想定しているようです』

「人数は?」

『凡そ三十ほどですが、魔物が混ざっています』

『「……は?」』


 シュワルツ曰く、どうやら使役する『コボルド』と呼ばれる十歳くらいの子どもサイズの狼頭の小鬼であるという。その数が凡そ……二十。人間は十人ほどだが、全員が銃とサーベルで武装しているという。


『銃撃で足止めをし、コボルドが突撃、乱戦の最中に人間が突入して囚人を奪還するようです』


 このまま様子を見るか、護衛の憲兵に伝えるかどうかクリスは悩みどころであると考えた。



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