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第九話 マッチ売りの聖女 第三の道を選ぶ

第九話 マッチ売りの聖女 第三の道を選ぶ


 流石は魔女。何の解決にもならない。


 そもそも、クラーラの勝手な一目惚れで押し掛け人化したわけであり、その条件もクラーラは理解していたはずだ。だから、自分以外とハンス王子が結婚すると自分が泡となって消えるなんて理由で、ハンス王子の心臓に刃物を突き立てて良い理由にはならない。


 少なくとも、クリスにはクラーラの手助けをしハンス王子を死に至らしめる事に協力するつもりも気持ちもない。


 人ではない人魚の姫たちと魔女であるから、勝手な理由でハンス王子を殺す事に躊躇が無いのか、それとも、実の妹の命をみすみす失うくらいならクラーラ自身に選択できるようにしてくれたのか。


 自分が生き残るために王子を殺すか


 自分の命を失っても、王子の人生を尊重し身を引くか


 クリスは姉の気持ちは分からないが、クラーラに選択肢を与えてくれたこと、自らの髪をその為に供してくれたことは有り難い事だと思っている。


「クラーラ。戻りましょう。時間を掛けて、考えた方が良いわ」

『うん、そうね。姉さん、ありがとう。しっかり考えて……答えを出すわ。愛してる、お父さま、お母さまにも伝えてくださいな』

『Клара! Я тоже тебя люблю.』

『『『Я тоже тебя люблю!!』』.』


 姉たちは涙で手を振っている。クラーラも涙である。クリスは、前も見えないほど涙にあふれるクラーラの手を引き、大聖堂へと戻る事にした。


「どちらにしても、大変なことになるわ」

『そうね……そうね……』


 頭が一杯なのか、クラーラはただただ頷き、泣き続けているだけである。


 だが、クリスには第三の選択肢が無いとは思えなかった。一つは巡礼に出て手紙を書き、関係を育みつつ時間を稼ぐ事。今一つには、巡礼の中で解呪をする方法がないかどうか探し続ける事である。


 ハンス王子が独身のまま病か事故で死ぬかもしれない。


 クラーラが泡となり死ぬ条件が、ハンス王子の結婚した翌朝の朝日が登るまでという時間制限がある。結婚しなければどうということはない。


 そう考えれば、何とかなる気がしてきた。気のせいかもしれないが。


 そもそも、ハンス王子は海難事故で死にかかった結果、クラーラに助けられこの状況に至っている。馬車や鉄道、船の事故、強盗や流行病など若くして死に至る可能性だって全然あるのだ。


――― いや、ハンス王子に死んでほしいわけじゃないんだよ。ホントだよ!!




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 クラーラは混乱中であり、自分の死か王子の死かを選択するという判断はどうやらできないのは分かっている。時間を稼ぐという一点において、二人は意思統一することができる。


「ハンス王子と婚約するわ。それで、巡礼の間に時間を稼ぎましょう」


 目が涙を流したために腫れ上がってしまったクラーラは、うつ向いたまま何度も頭を上下させる。


「司教様を通じてハンス王子に連絡するわ。あなたも、婚約の席には……同席して欲しいの」

『……なぜ……みたくないわ……』


 既に王子の保護下を離れ教会に身を寄せたクラーラが、巡礼の旅に出る前に王子と会えるのはこれが最後だろうと考えたクリス。


「自分が、どうして今の状況になったのか、その原因を目に焼き付けなさい。そして、巡礼から戻るまでの間に、人生を切り拓くって意思を固めるのよ。王子も、クラーラも死なず……あたしも王子と結婚せずに済む未来を切り拓くってだけ。もう決めたわ」


 二人とも死なせないためには、クラーラと王子が結ばれるようにしなければならない。その手段・可能性は、今並べられるものは全て並べた。あとは……実行に移すだけだ。


「いいわねクラーラ。あなたも最後まで、諦めないとあたしに誓って」


 おずおずと頷くクラーラ。


「もっと、しっかり、はっきり、心の中で言葉にしなさい」

『あきらめないわ……クリスと……さいごまで……』


 クリスはクラーラの両手を包むように抱えると、ぎゅっと抱きしめた。


「誰も死なせないわ。必ず、解決できるわ」


 クリスは香具師だ。魔女の呪いをごまかす手段くらい、そのうち考え付くだろうと自信を持っている。とは、クラーラには言わないでおく。


「クラーラは死んだら泡になっちゃうのよね」


 例えば、臨死状態にして蘇生させるなんて解呪ができないかと思っていたのだが、死体が残らない人魚ではそうもいかない。残念。


「先ずは時間稼ぎからよ!!」


 クリスはずんずんと勢いよく司教の部屋へと歩いて行った。




 司教とは二つ返事で約束を取り付け、王子との婚約とその前に巡礼の旅にクラーラと出ることが条件であるとハンス王子に伝えてもらうことにした。

条件が飲めなければ、婚約も結婚もなしであると。


「事情があるのは分かるが……本当に結婚するのか?」

「さあ。一年後のことはあたしにはわかりません司教様」


 司教にはクラーラが訳ありであり、王子との間に因縁があるということその為、クリスと共に街を離れ少し転地療法的な考えて巡礼に連れて行くというニュアンスで同行を了承してもらう事にする。


「そうか。君が聖女としての力を高める為にも、巡礼の旅には出したいと思っていた。誰を同行者にするかという事も考えていたのだが、クラーラ嬢はちょうど良い関係やもしれないな」


 司教はハンス王子との婚約、巡礼の旅の準備とその間の孤児院の手伝いに関して、そしてクラーラの身元引受人となることを承諾してくれた。冒険者ギルドで登録する際、身元引受人がいない場合、見習い期間が長くなるのでクリスはクラーラの登録について悩んでいたのである。




 時を置いて、婚約を大聖堂において司教を仲介人として取り結ぶことになり、その準備の間……といっても、するのはハンス王子だけなのだが、クリスは一度、孤児院に戻りクラーラと巡礼に出る準備を進める事にした。


 そして、クラーラ姉から預かった、魔女の授けた魔銀のダガーを冒険者ギルド御用達の武具店で『ショートスピア』に改修してもらう事にした。


 ウイングをつけ、木製の柄に魔力がダガーに通せるように魔銀の糸を巻いてもらい、柄と同じ素材でダガーの部分に鞘をつけてもらう。これに、巡礼用の鈴でもウイング部分に結び付ければ、立派な巡礼用の杖となる

だろう。


 クラーラは流石元人魚であり、魔力は相応にある。また、初歩的な『水』の精霊を使役できるので、飲み水を確保したり、簡単な水球を飛ばす攻撃なども行えるようだ。


 クリスは、人魚が水を魔力で生み出し飛ばせるとは思いもよらなかった。




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