梅雨旅行 【月夜譚No.38】
傘を差す旅行も、風情があって良いものだ。知らない街を、傘を打つ雨音に耳を傾けながら歩くと、このまま延々と歩いていられるような気さえしてくる。
道端に咲いた紫陽花が雨粒に彩られ、時折お辞儀をしては水滴を散らす。紫陽花は土の性質によって花の色を変えると聞くが、ここの花弁は鮮やかな青色だ。雨の中で小さな青空を見つけたような気がして、ふっと笑みが零れ落ちる。
近くで鳴き声がして足下に視線を落とすと、拳ほどの大きさの蛙が雨宿りをしていた。しかしゲコゲコと二度ほど鳴くと、傘の下には何の未練もなく雨の中に飛び出ていった。得意の後ろ足で跳ねながら道を横断し、雑草の生い茂った花壇に身を隠した。
手の中で傘の柄をくるりと回し、再び向かっていた方向に足を向ける。さて次は一体何に出会えるのだろうか。雨の旅行は、まだまだ始まったばかりだ。