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「いいえ、聖女様……ありがとうございます。幼い命をお救いくださいまして……」
赤ちゃんを受け取ると、侍女が頭を下げた。
首を横に振る。
私もあなたも当たり前のことをしただけ。赤ちゃんを守りたいと思っただけ。幼い命に鞭を振る人間をにくいと思っただけ。
「ああそうだ」
当たり前のことといえば。
「お金ください」
黒装束の男に近づき手を出す。
「私に鞭を振り上げたんですよね?慰謝料いただきます。これ、恐喝じゃないですから。単に慰謝料。そうですね、全治2週間くらいの傷になっていたかしらね。病院に2回通って、そのときは仕事を休まないといけないだろうから、2日分の給料と、交通費。保険証はない世界でのことだから……実費で……薬代と。まぁ、ざっと5万円くらいになるかな。プラス精神的苦痛に対する慰謝料で10万。えーっと、こっちの世界でいえば、半月分の生活費?」
ガタガタと震えながらも黒装束の人間は素直にお金を私に出した。というか、お金が入っている巾着袋をそのまま私に差し出した。
「中身足りてる?確認もしてないけど」
と聞くと、激しく首を縦に振る。
「あなたは、私の額を狙って鞭を振ってきましたよね?顔に傷跡が残ったとすれば、半月分の生活費程度じゃ慰謝料足りませんけど。でもまぁ、それで手を打ちます」
黒装束の男が同じように巾着袋を私の手に乗せた。
もう一人。と、黒装束の人を見れば何か言う前に目の前に巾着袋が差し出された。
「あと、手を切ろうとしたあなた……は、なんか手がちぎれかかっててかわいそうだけど、こういうところを情に任せて不公平にする主義じゃないから。慰謝料。手が落ちちゃえば一生の障害を負うことになるわけ。ってことはね、治らないの。これから得るはずだった収入分まで払える?保険なんてない世界だと、もうあなたの人生終わりね。ああ、もうその手じゃ同じ仕事できそうにないからもう終わってしまったかしら。……そうだと、私に支払われる慰謝料も払えないと困るのよね。……そもそも、陛下の命令に一番忠実だったあなた一人が責任を取るなんて不公平かもしれないし。うん、公平にしましょう」
と、周りに立ち並ぶ騎士たちを見まわした。
ガサゴソと、懐をあさって、巾着袋を取り出し始める。
あー、いや、皆でお金を出し合おうっていう仲間意識は立派だけどねぇ。ん?どうもそうじゃない感じの人もいる。青い顔して震えてるし。
「この場にいる騎士全員に転移」
手をかざすと、すぐに「うっ」といううめき声が聞こえてきた。
騎士の傷は、切り傷程度まで回復している。