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「もう、関わらないでください。あの子たちをこれ以上苦しめないでっ」
何を言っているの?
「私は子供たちのことを思って、苦しめてなんかいませんっ」
院長先生の涙は止まっていた。
「これからまた、食事の量を減らします。もっと食べたい、お腹がすいたと、苦しむことになるでしょう」
「どうしてそんなことを!お金の問題なら解決すると、その方法を……机上の空論ではなく、すでに実施しています。この先の展望も、協力者も、それから」
院長先生に、説明のためにと用意した書類を差し出す。白ちゃんに協力してまとめたものだ。
「あなたは何も分かっていない。あなたも、苦しみたくなければ……これ以上かかわらないで」
院長先生は、書類を受け取るとすぐに破り捨てた。
「あっ何をするんですかっ!」
院長先生が悲しそうな目を私に向ける。
なぜ、悲しむの?
「あなたも、苦しむだけです……心優しいあなたが、傷つく必要はありません……お願いです、あの子たちにはかかわらないで……」
私が、苦しむ?
ますます意味が分からない。
白魔導士姿の白ちゃんが、黒服の女性とともに院長室に駆け込んできた。またもやノックも何もなく、いきなりドアが開く。
「院長先生、空を……」
空?
言われて、窓から空を見る。
「あああ、何てこと……」
院長先生が、窓に張り付いて驚愕している。
空には、オーロラのようなものが立ち上っていた。
横に広がるのではない。地面から空に向けてオーロラが突き立っているように見える。
昼間なのに、ゆらゆらと揺れるそれははっきりと見えた。
「まさか、あれは……」
白ちゃんも空を見て驚きの声を上げている。
「鬼の子が生まれた……」
白ちゃんのつぶやきに、院長先生が再び涙を落とす。
「ああ、あああ、何てこと、何てこと。あの子たちは大人になれなかった。ファルーカ、ナルゴ、チャーダ、タエナを……特別室に移動させてちょうだい」
黒服の女性に院長が命じる。
院長が名前を挙げたのは、14歳の子供たちだ。あと少しで成人して孤児院を出ていく予定の子供たち。
「大人になれなかったって、どういうことなのですかっ!」
あと少しで成人する。大人になるのに、なれないってどういうこと?
「知らない方がいいと、言ったでしょう。帰りなさい……」
帰れと言われても、空に立ち上がるあのオーロラのように揺らめく影は……きれいだなんてとても思えない不穏さを感じさせるし、鬼とか大人になれないとか……不吉な予感しかなくて。
知らない方がいいって言われたって、知らないままでは逆に……。
「教えてください!教えてくれるまで帰りませんっ!」
と、食い下がると、院長先生の何かが切れた。




