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ドラムに羽を付けて置き、てこで、その羽を跳ね上げると回転する。反対側から跳ね上げると反対周りになる。んーなんか、できそうな感じがする。……賢者さんに考えてもらえばこれも作れるんじゃないかな?いや、その前に作って試してみることはできないかな。
「そうだ、ハルヤさんっ!」
ハルヤさんの旦那さんが道具を作る人だって言ってた。鍋など金属を使った品も売っていたから、作って見てもらおう。ドラム式手動洗濯機。
洗濯機は全体が回るんじゃなくて、そういえば中の羽がぐるぐる回って水流を作るんだよね。
覚えている限りの洗濯機のことをハルヤさんの旦那さんに伝えると、5日後には洗濯機っぽい物が出来上がった。
白ちゃんと一緒に荷車に乗せて孤児院まで運ぶ。
孤児院では、すでに集まった古い布を使ってオムツづくりがスタートしている。もともと裁縫の訓練の時間があったため、その時間を当てている。
そして、洗濯は、掃除の時間に組み込むことにした。いつもは掃除の練習ということで、特に汚れてもいない床や壁を全員で掃除していたのだ。
掃除の時間は減らしても問題ないと判断。
オムツ洗いに必要なタライやバケツや桶を買い込む。
普段の洗濯も、川の水を使ってしていたため、特に洗濯の方法を新しく教える必要はなかったんだけれど。
「試しに使ってみましょう」
荷車に乗せて運んだ洗濯機もどき。
実際に汚れが落ちるかまだ実験していない。
分かりやすいように目立つ汚れのついた洗濯ものと、水と灰を入れてハンドルを回す。ぐるぐる。力は多少いるけれど、洗濯物と水を入れ過ぎなければ大丈夫そうだ。だいたい、家庭用の洗濯機の洗浄時間の設定が10~15分くらいなので、それを目安にぐるぐる回し続ける。
すすぎ作業は、手作業ですることにする。力を入れげごしごししなくてもいいからだ。
「落ちてる!すごい!」
洗濯係の子供たちのはしゃぎ声が聞こえた。
洗濯物を見ると、確かに汚れは落ちていた。
「成功ね。じゃぁ、次はこれ。洗濯ものの端をこうして、ハンドルを回すと水が絞れるから。指を挟むといけないから、必ず一人で行って。二人でするとタイミングがずれたりとかで指を挟みやすくなるからね?」
と、注意してローラー式脱水機を使って見せる。
洗濯物を入れてぐるぐる。水が絞られた洗濯ものが入れた方と反対側から出てきて、たらいに落ちる。
「すごぉーい!」
「あとは、干してね。できそう?」
「うん、できそう!」
孤児院に顔を出すようになって3日後には、子供たちと打ち解けることができた。
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院長先生の代理という私と白ちゃんをはじめは警戒していたものの、いつもと違うことが起きるというワクワク感で子供たちの目は次第にきらめきだした。それからヨリトの力が大きい。ヨリトの面倒を見てもらうことで交流ができたのだ。
「ねぇ、なんでヨリトちゃんはこんなに太っているの?」
ヨリトを見て5歳くらいの子が首をかしげることがあった。
私も白ちゃんも、答えることができなかった。
ヨリトは決して太っていない。あなたたちが痩せすぎているのだと……真実を伝える勇気はなかった。
10日目には、オムツレンタル屋をスタートさせることができた。
スタート時から、20名もの利用者がいた。
もちろん、ハルヤさんや、それから孤児院出身者たちが協力してくれたおかげもある。
おむつの回収と金銭の徴収はドアに立つ兵がしてくれることになった。まぁ、許可は私が事後報告で宰相たちにとってあるので問題はない。
それから街のいくつかのお店の人も、オムツレンタルに協力してくれることになった。
「オムツレンタルを利用するために足を運ぶついでに飲み食いしてくれるからなぁ。集客に役立つからね。それに、旦那たちもオムツをもらいに行ってくると家を出やすい。また飲み歩いてって小言を言われることも少なくなって喜んでるんだよ」
飲み屋で使用済みオムツと試用前おむつを交換できるようにした利点……か。おかしなものだ。赤ちゃんの泣き声がうるさいと文句を言う者もいれば、赤ちゃんのオムツが山になってる飲み屋に喜んで通う者もいるんだから。
だけれど、それ以上に……オムツ洗いから解放されたいという人が多かったんだと思う。
灰と手動式洗濯機を使って洗ったオムツは、匂い残りもなくきれいで評判はいい。評判が評判を呼び、利用者はすぐに30名を超えた。
2週間が経つころには、安定した収入源になると判断。……一時だけの収入で終わるならば……一時だけ食べ物が増えるだけならば、また元の食事に戻すのは辛いかもしれない。けれど、これが続くのであれば、院長先生も文句はないだろう。
実際……オムツレンタルだけではなく、他のものも洗濯してもらえると助かるという声がたくさん上がっている。
水車が使えるようになれば水汲みが楽になる。
手動洗濯機も、賢者さんに聞いて改良すればもっと楽にたくさん洗えるようになるかもしれない。
子供たちの食事が増えて体力がつけば、もう少し洗濯に時間を使えるようになるかもしれない。
衣類は貴重品だ。洗濯にと預かって、もし紛失などの問題があれば困ったことになる。言いがかりをつける者も出てくるかもしれない。そのあたりの問題も……オムツレンタルに兵が動いているということで解決できるかもしれない。さすがに兵に向かって言いがかりをつける勇気のある者はそういないだろう。
だけれど、やっぱり、まだ管理体制など簡単に整うとは思えないので個人からの洗濯の依頼を受けることはできない。けれど受けることができるようになれば孤児院の収入は上がる。
そうだ、まずは宿のシーツとか、美容院のタオル……と、美容院は無いかな。何があるかな、仕事で大量に洗濯が必要なところに声をかけるのがいいかもしれない。この世界にはギルドとかあるのだろうか。もし、冒険者ギルドみたいな組織があれば、仲介を頼むのもありかもしれない。




