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「へー、そりゃいいねぇ。雨が続くと困るんだよねぇ。温かい時期ならそのままオムツなしで過ごさせてもいいんだけど、寒いとそうもいかないし。オムツなしであちこちに用を足されても掃除が大変になるからねぇ。しかも、寒いと水が冷たくて洗濯は億劫になる。お湯を使って洗いたいが、そんな贅沢も毎日はしていられないからねぇ」

 火を起こすには薪がいる。暖を取るにも、料理するにも、火は欠かせない。毎日洗濯のために大量にお湯を沸かすだけの余裕などないのだ。金銭的にではない。森のめぐみ……薪は有限なのだから当然だろう。ああもちろん、森から薪が取れなくなれば薪の値段が高騰して、結局は金銭の問題にもなるのだろうけれど……。

「大人の物なら洗濯なんて2,3日しなくって平気だけどねぇ。オムツは。……うん、いいアイデアだと思うよ。体を壊して洗えない母親だって世の中にはいるんだからね。助け合って誰かが洗ってやれるとも限らないし、もちろん困ったときはお互いさまだけどね、頼む方も毎日のようにとなると頼みにくくなるもんだからね」

 話を聞いたハルヤさんの反応はいい感じだ。

「分かったよ。協力するよ。オムツになりそうな布を集めればいいんだね。この新しい布と交換といえば、きっと集まるさ。それと一緒に、赤ちゃんのいる人にオムツレンタルの話は広めておくよ」

「ありがとうございます!」

 深々と頭を下げる。

「今度、何かお礼を持ってきます!」

「ふ、ふふ、いいってことよ。困ったときはお互いさまって言ったろ。それに、新しい布が手に入るんだ。しかも、私が一番に選んでいいんだろう?こちらがお礼を言いたいくらいだよ」

 ハルヤさんが明るい笑顔を見せた。

 いい人。こちらが気に病まないようにしてくれてるんだ。

「そうだね、明日には少しは集まってると思うよ。店に来る客にも声をかけておくからね」

「ありがとうございます!」

 もう一度深く頭を下げてマチルダさんの元に戻る。

 ああそうだ。マチルダさんにもヨリトにおっぱいもらってるお礼をしないと。……お礼は、でも明日集まったオムツを渡した方が嬉しいかな。日本でも出産祝いにオムツケーキとか送ったりするもんね。オムツもらうと嬉しいは、世界共通。いや、異世界でも共通?

 お昼ご飯を食べて、戻ると、ドアのまえに白ちゃんが白魔導士の格好をして立っていた。

 ……しまった。中身も注目を浴びるけれど、白魔導士の姿はより注目を浴びている。壁の外で待ち合わせにすればよかった。まぁいいや。

 とりあえず、兵に話をしてさっさと外にでる。

 白ちゃんは私の後ろをちゃんとついてきてくれた。

 ドアが閉まれば壁の外に目はない。

「それで、一体僕は何をすれば?」

 歩きながら白ちゃんと打ち合わせ。あ、地面にも注意払わないと……。

 白ちゃんがつんのめった。

 ……うん、中身が誰かと入れ替わってる心配はこれでありませんね。まぁ、声で分かりますが、声以上に動きが白ちゃんだ。

「えっと、白魔導士の言うことなら信じるというか強制力があるんだよね。だから、院長先生を1か月交代してほしいの」

「は?え?誰と交代を?」

「私が、孤児院の運営したいから、私を代理の院長に……と言いたいところなんだけど、突然ポッと出てきた私が院長とか怪しいので、白ちゃんが院長をするということで。実質運営は私がするから」

 白ちゃんの顔がこちらに向いた。

 マスクの下の顔にはきっと疑問符が浮いているのだろう。

「新しいことを孤児院で始めたいのだけど、院長先生の許可が下りないので。強引に進めさせてもらおうと思って。目標は2週間で軌道に乗せる。結果を見せれば、院長先生だって認めざるを得ないと思うから……」

 ちょうど門の前にたどり着いた。紐を引いて鈴を鳴らすのは3回目だ。

 ……また、あの子供たちの姿を見るのかと思うと胸が痛む。だけど、今回は違う。助けてあげられるという希望が胸の中にあるから。

「新しいこととは何ですか?」

 白ちゃんの言葉に返事をする前に、迎えに来た子供の姿が見えた。

 隣で、息をのむ音が聞こえる。

「あの子たちに、もっとご飯を食べさせてあげたい」

 小さな声でそういうと、白ちゃんが顔を上げた。

「分かりました」

 いつもより、男らしい声で返事が返ってきた。

「私の姿は姿を見せない方がいいと思う。ここまで案内しただけということにしてくれる?それから、院長先生には今までの労をねぎらって保養地にでも行ってもらうことにして、それから、事後承諾になるけど、孤児院の1か月院長交代は”私”からの命ということで、宰相や陛下には伝えておいて。そうすれば誰も罪に問われないはずだから」

 案内係の子供が来る前に早口でそれだけ白ちゃんに伝える。

「白、魔導士様?」

 案内係の子供が私を見た後に隣にいる白ちゃんを見て驚いた顔をしている。

「孤児院の場所を尋ねられたので、案内してきました。院長先生に用事があるそうです」

 それだけ子供に伝えると、すぐに背を向けて孤児院を後にする。

 王都を囲む塀の外で、白ちゃんの帰りを待つ。

「むーすーんーで、ひーらーいーて」

「だーだ」

「別の歌がいい?じゃぁね、ぞーうさん、ぞーうさん、おーはながながいのね」

「うーあー」

「ぞーうさん、ぞーうさん、だーれがすきなぁの、あーのねかぁさんがすーきなのよ」

「うーう」

「ヨーリト、ヨーリト、だぁーれがすきなぁの、あーのねかぁさんがすーきなのよ」

「きゃあきゃっ」

 ヨリトが飛び切りの笑顔を見せる。

「私も、ヨリトが大好きだよー!ほーら、たかいたかぁい、飛行機ぶぅーん」

「飛行機ってなんですか?」

 ほえっ。

 気がつけばいつの間にか白ちゃんが戻ってきていた。

 そうか、飛行機……ないんだ。もしかして、象って動物もいない?気を付けないと。あっという間にこの世界の人間じゃないってばれちゃうかもしれない。

 子供をあやしてるときって、もう無意識レベルで歌ったりしちゃうから……。気を付けないと。


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