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「ありがとう、マチルダさん」

 ヨリトにげっぷをさせる。

「こちらこそありがとう」

「また後で」

 洗ったおむつは、ヨリトの分も干させてもらった。もう、どれが誰のおむつなのかよくわからない状態だ。だけれど、この世界の人はあまり気にしないようだ。お古もおさがりも当たり前で。使い古した布からもおむつを作るし、もともと腹帯にする布すら白とは限らないので、真っ白で汚れていないおむつが良いという感覚も小さいのかもしれない。

「あ、見つけた!」

 外に出ると、3件先の家の影にキラキラな人間がいた。

 隠れているつもりなのかもしれないが、女性たちのため息の視線の先を追えばすぐに見つかる。

 目が合うと、慌てて背を向けて走り出す。

 また、転ぶぞと思って見ていたら、ごつんと、ぶら下がっていた看板に頭をぶつけて、しりもちをついた。

 ……あーあ。

「大丈夫、白ちゃん」

 近づいて声をかける。

「え?なんで、ばれて……」

 くふっ。

 ふふふ。

「ビーンゴ。そこで白ちゃんって何のことかってとぼければいいのに。返事をしちゃったんだから、今更否定はできないよね。白ちゃん。私の見張り?」

 白ちゃんがすくっと立ち上がって、ぶんぶんと大きく頭を横に振った。

「見張りじゃないですっ、えっと、心配で、その……知らない世界に……僕たちの勝手で連れてきてしまったのに……」

 しゅんっと白ちゃんが頭を垂れた。

 ああ、白ちゃんはいい人だなぁ。そうか。私を心配して周りをちょろちょろしてたのか。だよねぇ。見張り役にしては、目立ってるし、隠れるのへたくそだし、よく転ぶし……。

「あー、いー」

 ヨリトがご機嫌よく舐めまくってべたべたになった指を白ちゃんに伸ばした。

 べちょ。

 白ちゃんのほっぺにヨリトがよだれ攻撃をかました。

 白ちゃんはダメージゼロ。白ちゃんの攻撃ターン。手を伸ばしてヨリトの頭をなでなでした。

「だー、だ!」

 ヨリトがにこっと微笑み攻撃を返す。

 白ちゃんに10のダメージ。

「かわいいですね」

 白ちゃんの骨が何本か抜かれた。

「でしょ……っと、そんな当たり前の話をしている場合じゃなくて、教えてほしいことがあるの」

 白ちゃんが首を傾げた。

「教えてほしいことですか?僕にこたえられることならば……あ、あの、まだその召還に関しては何も情報はつかめていなくて」

 さすがに1日2日で召還方法が見つかるとは思ってないですよ。……ちょっと城で暴れすぎたかな?

「犯罪者がどこにいるのか知りたいの」

「え?まさか、聖女様、あの力で犯罪者を捕まえてくれるのですか?」

 はぁ?

「この世界って、犯罪者を捕まえる仕事してる人いるよね?私がすることなのかな?」

 まさか、治安が悪いから悪い人をやっつけてとかいうくっだらない理由でこの世界に召喚されたなんてことはないよね?

 ……治安が悪いのは、悪い人を捕まえられないせいどころか、大本は政治が……つまり、王様とか、そいつらのせいでしょうっ。

 衣食足りて礼節を知るっていうし。

「い、いえ、あのそういうことでなく、聖女様が犯罪者に用があるとはとても思えなくて……」

「白ちゃん、聖女じゃなくて、頼子。頼子って呼んでもらえる?周りに知られたくないし、それに……」

 反逆の聖女だから。聖女じゃないから。

「はい。ヨリコ……さん」

 照れた。

 なぜ、そこで照れる。キラキライケメン、いい男が、恥じらう顔って、何なの、すんごく得した気分に……って、ドキドキしそうになって、頬っぺたにヨリトのよだれついてるのが見えて、思わずふっと笑いに代わる。

 くふふ。キラキライケメンが恥じらいながらほっぺによだれ……。ふふふ。ふふ。

「え?あれ?なんか、発音おかしかったですか?ヨリーコさん?ヨーリコさん?ヨッリコさん?」

 うん、悪化してる。

「ヨリコ。ヨリコで大丈夫。で、私が知りたいのは、つかまった犯罪者たちがどこにいるかってこと」

「何か盗まれましたか?歩いていると時々盗まれちゃいますよね。で、つかまっていれば戻ってくることもありますがつかまってないことも多いですよ」

 ……白ちゃん、あなた、何度か盗まれたことがあるみたいな口ぶりだけど……。

「私が知りたいのは、どちらかといえば、重犯罪者。人殺しとか、えーっと、そういう人ってどうなるのかな?死刑……とか、故郷だとあったけど、もしかして危険なところで強制労働させるとかそういう感じ?」

 白ちゃんの顔から表情が消えた。

「わが国でも死刑はあります。殺人者、盗賊、山賊、海賊……それから……えーっと」

「で、その人たちはどこ?」

 すぐに処刑されるのなら、顔を覚えていても役に立たないという可能性が……むしろ、強制労働とかさせられるレベルの犯罪者の顔を覚えておいた方がいいのかな。

「王都からおよそ2日ほど行った場所に牢屋があります。そこで最低でも3か月、じっくり肉体を改造したのち、刑が執行されます」

「肉体改造?」

 何それ。

 強制労働のことかな?筋肉ムキムキになるくらい重労働させるとか?

「2日移動しないと顔が見られないのか……」

 白ちゃんが、私の手を取った。

「移送される前の者たちがいるかもしれません。こちらです」

 と、手を引かれて移動。

 何やら兵たちが厳重に警備している石作りの建物が見えてきた。……小さいな、と思っていたら、建物の中には地下牢へと通じる入り口があるだけだった。

「あーと、ちょっと待ってね」

 建物の前に立っていた兵たちには、白ちゃんは何か見せて入れてもらっていた。小さな部屋には誰もいなくて、白ちゃんは鞄から白装束と白マスクを取りだして装着。

 完全に私には正体隠す気ゼロですね。


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