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 食堂の営業は夜だけと言っていたし、宿として宿泊料金を払っているわけではないので、朝食はどこかで取ることになった。ヨリトの朝ご飯は、マチルダさんにお願いしよう。私とリュートさんは、すでに営業している屋台で適当な物を買って食べる。

「マチルダさん、お願いします!」

 ヨリトを預けて、代わりにオムツを受け取る。

「あ、悪いです、元気になりましたし自分で……」

「ついで、ついで。時間の節約!」

 ヨリトのおむつマーサちゃんのおむつを持って洗濯場へ。朝は少し水が冷たいからか、まだ朝食の準備をしているからか、人の姿は少ない。

「おはよう、おや、オムツの洗濯かい?」

「おはようございます」

 40過ぎのおばさんだ。

「こんな早い時間に洗濯に来るのはオムツ洗いか、ゲロ吐き馬鹿亭主の嫁くらいなもんだもんねぇ。がはは」

 なるほど。やはり普通はあんまり朝早くは洗濯に来ないんだ。

「あーったく、懲りもせず飲み過ぎて吐くんだよ、うちの馬鹿亭主。ったく、洗う方の身にもなってほしいよ。かといって、そのままにしておくと匂うし、汚れが落ちにくくなるし……」

 あ、そういえば……。

「これ、使ってみますか?」

 洗濯用にと少し灰をもらってきたのだ。灰を溶かした水で洗濯をすると、不思議とよく落ちる。江戸時代の洗剤。

「……」

 おばさんが私の手元を見る。

「い、いや、遠慮しとくよ」

 そりゃそうか。突然灰を見せられても困るよねぇ……。

 軽く洗って色が残っているうんちのおむつを、灰を溶かした水で洗う。

「水が黒いけど、余計よごれるんじゃないかい?」

 と、おばさんが心配そうに声をかけてくれる。

 洗い終わって汚れの落ちたオムツを見て、おばさんが目を丸くする。

「私の故郷では、洗濯のときにみんな使ってたんですよ」

 江戸時代ですが。嘘は言っていない。

「へー、そうかい。故郷って、日本街かい?あそこはどんな街なんだい?」

 ああ、髪の色を見て日本人街出身だと思われたんだ。どうしよう。知らないんだよね。今思い浮かんだのは時代劇の江戸の町。

「そんなに変わりませんよ、普通です。あ、でも孤児院は街の中にありましたよ。お寺が孤児を引き取って」

 確か江戸時代は孤児は寺が引き取っていたと聞いたことがある。寺と教会……檀家さんと信者の寄付……なんか似てるなと思った記憶が。あ、寺って言っちゃったけど、日本街にあるかもわからないし。失敗したかな。

「ふぅーん、そうなのかい。街中じゃぁ、不便じゃないのかねぇ」

 え?街中にあると不便?

「子供たちばかりじゃ、水くみも一仕事だろう?川の近くじゃないと大変だと思うけれど、井戸が近くにあったのかい?」

 川の近くなら水汲みが楽?……なるほど。そうか。別に孤児院を冷遇して壁の外に建てているわけじゃないのか……。

 ほっと胸をなでおろす。

 孤児に石を投げつけるような差別があるわけじゃないんだ。

「王都の孤児は、近隣の村や町からも集められてるそうだからねぇ。街の空気になじめない子のためでもあるのかもねぇ」

 なるほど。孤児なんか見たくないからと、外に出されたわけではないんだ。いろいろな事情を考えた末なんだね。

 洗濯を終えてマチルダさんのところへ行くと、リュートさんがいなかった。

「ああ、ヨリコさんが熊が美味しいって言ったから、また食べさせてあげたいと言って熊狩りに行ったわよ。愛されてるわね」

 マチルダさんがにやにやとした顔を向ける。

「あ、愛されてるって……っ、そ、そんなんじゃ……」

 リュートさん、いい人だから、きっと、ヨリトの世話をしてくれた私に感謝して何か恩返しがしたいだけだと……。

「ふふっ。だって、熊が食べさせたいからって、危険を冒して狩りに出かけるんだよ?買いに行くのとじゃ全然違うじゃない」

 危険?

「危険なの?」

 さーっと青ざめる。

「そりゃ、熊だから。罠を張って仕留めるんじゃなきゃ、遭遇したらまず逃げたほうがいいような動物よね?」

 大丈夫なのかな、リュートさん。心臓がバクバクとしてきた。もし、リュートさんに何かあったらどうしよう。

 ああ、そうだ、怪我なら、怪我なら私、何とかしてあげられるんだ。

 いや、でもその怪我を誰に肩代わりさせるの?

 そうだ!こんなときは、犯罪者よっ!

「マチルダさん、なんか悪人ってどこにいるかな?」

「悪人?何?突然……」

 はい、突然の質問だよね。

「ほら、人殺しとか、えーっと、盗賊とか、なんかそういう悪人……」

 ふふふと、マチルダさんが笑った。

「大丈夫よ。王都の治安はいいのよ。騎士も警備兵も、それから街の治安を守る警邏も皆優秀だから」

 いや、そうじゃなくて、私が知りたいのは、牢屋や監獄みたいな……って、普通の人がどこにあるのか知るわけないか。警邏の人に聞けばいいのかな。取りあえず、何人かの顔見て覚えておきたい。誰かを助けようと思ったって、私の能力なんて怪我や病気を誰かに移すことだできるだけ。罪のない人に移すことはしたくない。……それが命にかかわるようなものであればなおさら。誰かを助けるために誰かを犠牲になんて……。って思っていたって、親しい人を助けたいと思ったら、誰かに飛ばしちゃうかもしれない。

 それが、何人も罪のない人間を殺した人殺しであれば……自業自得でしょと……。……なんて簡単なことでもないんだけどね。分散して移すこともできるようだから、命にかかわることを、分散して人殺しに飛ばそうと思う。やっぱり、誰かを助けるために誰かの命を奪うなんてとてもできない。日本人だもの。

 突然骨折して痛い思いをするくらいなら、殺された人のことを思えば、大したことではないでしょうと……それくらいは、まぁ、「ざまぁ」と言わせてくださいよ。

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