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「そうだなー。ここの料理はなんだってうまいぞ。そうそう、今日はいい熊肉が売っていたとか言ってたぞ。熊肉なんて、そうそう食べられるもんじゃないからな、食べてみるといい」

 く、熊?

 そりゃ、日本でも熊の手とかは美味とか言いますけど。

「俺が狩ってきたやつかな」

 へ?

 リュートさんの言葉に唖然とする。

「食べてみよう、気に入ったなら、また熊を狩るだけだ。頼子が望めば毎日だって食べられるよ」

 えっと、あれ?

 おじさんたちは、熊はめったに食べられないっていうし、リュートさんは毎日だって食べられるっていうし、どっちが正しいの?

 じゃぁ、そうしようかな……。と、席を立ちカウンターからご主人に声をかける。

「熊肉の料理と、スープ系の物を」

「俺も同じ物と、あとは酒……」

 リュートさんが私に抱かれているヨリトを見た。

「……は、やめて果実水を」

 すぐに果実水と鍋からよそったスープが出てきた。それをリュートさんがテーブルに運ぶ。

 何も言わなくても、ヨリトを抱っこしているのを見て気を使ってくれる。リュートさんすごいな。できる男だな。冴えないおじさんじゃないよ。気づかいのできる男性ですよ。

 テーブルに座って、食事を始める。器はヨリトの手が届かない遠くに置く。

 肉ができたと言われればリュートさんが取ってきてくれて、ステーキのように焼かれている肉を、食べやすいサイズにカットしてくれた。両手が使えない私のために。まじ、気遣いありがとうございます。

「うわ、おいしい……」

 熊肉は臭いって話も聞いたことがあったけど、全然そんなことはない。牛肉に近いけれど、牛肉よりももっとうまみがあるし、臭みも少ない。

「そうか。今は臭みも少なくて美味しい時期だしよかった。気に入ったんなら、熊狩りもっとしないとな」

 時期によって味も違うんだ。そりゃそうか。魚だって、産卵前がどうとかいろいろあるもんね。

 っていうか、釣りをするくらいの気安さで熊狩りをするとか言ってますけど……。熊って倒すの大変じゃないの?日本だと猟銃がないと相手ができないイメージがあるんだけど……。あ、でも時々、熊殺しの○○みたいな異名がある人もいるといえばいるけど……。

「あの噂聞いたか?聖女召喚の話」

 え?

 隣の席のおじちゃんたちの会話が耳に入ってきてびくりと緊張する。

 聖女召喚の噂……?

「そうか!今年は召喚の年か!勇者が召喚されてから10年たつんだ。早いなぁ」

 勇者召喚から10年?

「10年前の勇者召喚は成功してるだろう、20年前の賢者召喚と30年前の聖女召喚は失敗だが、確かまだ50年前に成功した賢者が生きてたよな?」

 話の内容からすると、召喚は10年ごとに行っているってこと?

 賢者、勇者、聖女、賢者、勇者、聖女と、ローテーション?それぞれが30年に1度召喚されるってこと?失敗もよくある?

「おお、召喚されたときが10代後半だったから、今は60代後半のはずだな。そうか、聖女の召喚が成功すれば」

「そうだ、初めて、賢者と勇者と聖女が揃う!」

 おじさん4人組のうち、3人が目を輝かせた。

 初めて、3人そろう?

「3人そろえば、ついに、その時が来るのか?」

「そういわれてるよな。安心して暮らせる世の中になるんだろう?」

 ……なに、私が呼ばれたのは、聖女だけが必要だったわけじゃなくて、聖女も必要だったからってこと?

 ああ、もうちょっと聖女の役割みたいな話を聞いてから切れればよかった。さすがに私も、こんな状況……突然異世界に召喚されて訳が分からなくてパニックというか、精神的に追い詰められていたから、頭が回っていなかった。

 ただただ、急に自分の意思とは関係なく連れてこられたことに理不尽さしか感じず……。

 まぁ、でも、私が帰っても、30年後次の聖女を呼ぶんだよね。今までだって、3人そろうなんてなかったってことは、もう何年どころか、何百年単位で今の状態が続いてるなら、別にあと何十年か続いても大丈夫だよね。

 たった1日だけど、この世界の人たちの生活を見る限り、悲壮感はあまりない。

 食べ物がおいしい、それだけでいろいろ充実しているんだろうということがうかがいしれる。

 ……まぁ、王都だから特別なのかもしれないけど。王都を出てほかの町の様子もちゃんと見たほうがいいよね。あとは別の国はどうなってるのか。

「それがなぁ、どうも……」

 おじさんの一人が声を潜めた。

「聖女の召喚、失敗したらしい」

 小さな声だったけれど、隣のテーブルの私の耳には届いた。

 コツンッ。

「あ、ああ、すまん」

 隣の会話に気を取られていた私は、何かがぶつかるような音で意識を戻された。

「スプーンを落としてしまった」

 リュートさんが動揺して慌てて床に落ちたスプーンを拾い上げる。

「あ、そうだ、スープ、ヨリトも飲めるんじゃないか?ヨリトのスプーンももらってくるよ」

 と、席を立ちリュートさんが調理場へと足を運ぶ。

 後ろ姿は元気がないというか覇気がないように見えた。

 スプーンを落としたのがそんなにショックだった?っていうことはないよね。ということは……スープに嫌いな野菜でも入っていびっくりしてスプーンを落とした?なんてことはないか。

「なぁ、おい、それ、本当か?」

 どうやら、声を潜めたけれどしっかり聞こえていたのは私だけじゃなかったようで、別の2人組の客がおじさんに尋ねている。

「ああ。嫁の従妹が、城に野菜を届けているんだが、野菜を受け取る料理人見習いの男が親しくしている侍女に聞いたと教えてくれたらしい」

 それ、いくつ間に人を介在しているんだろうか……。友達の友達が友達から聞いた話レベルの信ぴょう性がない話じゃない?

 まぁ、実際はビンゴで。

 聖女召喚は失敗。召喚したのは「反逆の聖女」だったわけで。回復魔法も使えないわけで。

「侍女から聞いた話なら間違いないな、それで」

 あっさり信じちゃうのか。

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