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「あの、それでこの子と3人で宿泊すると、宿泊費はいくらですか?」
泊めてもらえないと困る。
「馬鹿言っちゃいけねぇ!部屋の掃除もシーツの洗濯も自分たちでしてくれるんだろう?それに、アンナの手伝いもしてもらって、洗濯まで手伝ってもらって、水汲みもしてくれて、これで金までとったら、それこそ、こいつらに顔向けできねぇよ」
と、ご主人が背中の赤ちゃんを揺らした。
「あ、いやでも、こちらこそ、泊めてもらえるだけでありがたくて、もしかするとこの子がそそうしちゃうかもしれませんし、それにアンナさんには母乳を分けていただきますし……」
「ここの数倍高い宿に泊まろうと思っていたんだ。断られたが。だから、断られないだけで、それ以上の価値はあるんだ。遠慮なく宿泊費を取ってくれ」
リュートさんが水汲みを終えて戻ってきた。水瓶の一つを、食堂ではなく裏庭に運んでくる。
水を使いやすいようにと気を使ってくれたのだろう。
ご主人が困った表情を浮かべる。
「じゃぁ、うちの食堂でたくさん飲んで食べて売り上げに貢献してくれ。それで宿泊費はチャラ。その代わり、水が必要でも、お湯が必要でも、宿として何のサービスも出来ないから、自分たちで用意してくれるか?」
それじゃぁ、なんか、私たちが得しすぎない?
「自分たちに必要な物は自分たちで用意しますけど……何か、他にも手伝わせてください」
ご主人が笑った。
「ふふふ、お二人は似た者夫婦ですねぇ。人のために何か動かないと気が済まないようだ。いいんですよ、うちは腐っても宿です。ゆっくり休んでください。もしお二方が休めないようであれば、このまま宿をやめるしかなくなる」
ふ、夫婦?
「赤ちゃんもずっと背負われたままじゃ窮屈ですよ」
あっ。
ご主人に言われてハッとなる。そうだよね。ヨリトだって、構ってもらいたいよね……。
「ありがとうございます」
2階には部屋が4つ並んでいる。唯一使える部屋は一番奥ということで、部屋に入る。
……狭い。
いや、狭くはないんだけど、シングルルームといった広さ。ベッドはシングルベッドが一つ。ベッドと同じ程度の空間があとはあるだけ。
えーっと、さすがにここに3人は無理かな……。
「俺は、別のところへ行くよっ。ヨリトがいなければ、泊めてもらえると思う、いや、野宿だってかまわないから」
背中を見せたリュートさんの服を引っ張る。
「待って!」
「頼子?」
「ヨリト……孤児院に連れて行くんだよね?」
リュートさんがぐっと唇を引き締めた。
「あ、ああ。でも、もし頼子が」
私が?
私がヨリトを手放したくなくて、私がヨリトを育てたくて、私が孤児院に預けたくないってもし言えば……どうだっていうの?
3年以内に日本に帰るつもりだ。絶対一方通行なんてはずはない。帰らせる魔法もあるはずなんだ。だから……。
3年……日本だと保育園や幼稚園へ通い始める年齢になったヨリトを……かわいい盛りの子供を置いて日本に帰れというの?帰ったら、またヨリトは私に捨てられることになるんだよ……。




