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「お、起きたみたいだな?」
部屋からヨリトの泣き声が聞こえてきた。
リュートさんが慌てて抱っこして戻ってくる。
「ヨリト、おはよう、よく寝たか?おむつは濡れてないか?」
そういえば、いつの間にかリュートさんは革の胸当てを外していた。
抱っこしたときに、ヨリトの不快感をなくそうと思ったんだろうか。……ほらね。
いい人なんだもん。警戒心、持てないよね。
赤ちゃんに愛おしそうな目を向ける男の人に。
「ん?」
リュートさんの向こう側に立っていた女性二人が、こちらの方を見てひそひそと話をしている。ひそひそというか、わきゃわきゃというか。
年齢的には30代半ばくらいの女性なんですが、これが若ければきゃぴきゃぴという擬音を当てはめるような様子だ。
リュートさんを見て「素敵ね」とか言ってる?うん、赤ちゃんに優しい男性ってだけで素敵ですよね。
って、違う。よく見れば、視線はさらに私たちの後ろに注がれている。ああ、もう、私がリュートさんを素敵だと思ってるって自覚しただけだよ。
何にきゃぴきゃぴしてるんだろうか?
気になって振り返ってみると、建物と建物の間に、きらきらがいた。
妙に美しい整った顔をした男の人だ。……あ、そういえば前にも見かけたよね。えーっと、そう、リュートさんが自分を冴えないと言っていたときに、ああいう金髪男性にあこがれてるのかなぁと思ったんだ。
この近所の人なのかな?人気者だなぁ。女性たちが目で姿を追っている。あ目があった。
うん。向こうもこっちを見てた?黒髪が珍しいから?
ん?背を向けて走り出し、あ、躓いた。
……。
「……いや、まさか……ね?」
「どうした?」
「いえ、何でもないです。ふふ、ヨリト泣き止みましたね?リュートさん抱っこ上手になりましたね」
初めて見たときと抱っこの仕方は雲泥の差だ。
「ああ、そうなんだ。ヨリトが、俺の抱っこで泣き止んでくれた。それに、ほら、嬉しそうに笑ってるだろ?」
ふふふ。リュートさんの顔もとろけそうなくらい嬉しそうですよ?
「あっ、危ないっ」
ヨリトが容赦なく手をリュートさんの顔に伸ばした。もちろん、狙いは目。
「てっ」
「まだ、ヨリトの攻撃を避けるだけの訓練は足りないみたいですね。赤ちゃんって興味のある者にまっすぐ手を伸ばすんです。人の目だからって容赦ないんですよ。こら、ヨリトおめめはダメでしょ?」
「だー」
「この俺に一撃を与えるとは、なかなかやるな。将来有望だ!」
リュートさんがヨリトを脇を持って高く掲げあげた。
……そういえば、育児の本も出版してテレビにも出ていたカリスマなんとかおばあちゃんが、脇を持って抱っこしてはダメとか書いてたよねぇ……。無理だよね。さすがに、おんぶ紐だって、脇に紐通してよっこらせって背負うのに。……。あの方の持論だったのかな。




