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「俺の気持ち」
え?
顔を上げてリュートさんの顔を見ると、そっぽを向いてがりがりと頭をかいていた。
「深く考えないでほしい。俺が、頼子に渡したかったんだ。じゃぁ、着替えるのに俺邪魔だろう、行くからっ」
リュートさんの気持ち?深く考えないようにっていうことは、深読みするなってこと……で、深い意味はないってこと……だよね?
困っているときに助けてくれた感謝の気持ちとかそういうこと、かな?
どちらにしても、着るものがない状態ではいられないので、ブラウスも脱いで干す。リュートさんが買ってきてくれたワンピースに袖を通す。
……誰にでも合うように作られているのか、かなり大きめだ。主に、胸元とウエストが。大きめなんじゃなくてこういうデザインかな。
白ちゃんが持ってきてくれたものはもう少しスリムなデザインだったけれど、あれは、白ちゃんが私に合わせて選んでくれたからってこと?
「ありがとう。着心地がいいです」
ごわごわしてない。柔らかな布だ。それできて着古した感のないたぶん新品で。高そうだけど、もう値段は気にしない」
「よかった」
マチルダさんの家の前で待っていたリュートさんにもう一度お礼を言う。
「ところで頼子は、行くあてはあるのか?」
行くあて?
……この世界のどこへ行くかということ?3年後には日本に帰りたいし、ときどきわるいことしてないか王様チェックしたり、慰謝料の分割払い分もらいに行ったりすることも考えると、遠くに行くのは得策じゃない。
かといって、じゃぁ、王都のどこでどういう生活をするのかということも、今はまだ考えられない……というか、私に何ができるんだろう。
んーと考え込むと、リュートさんが口を開く。
「さっき、お勧めの宿を聞いたんだ。一般的な宿よりも少しだけ高いが、安全面で問題のない宿を教えてもらったんだが……」
そうだ。
そうか。これからどうするかって先の展望よりも、今日の宿さえまだ決めてなかったんだ。
「一緒に泊まらないか?」
リュートさんの言葉におもわず赤くなる。
「部屋は、別で」
と、リュートさんに全力否定されました。
「あ、はい。そうですね。すいません。宿に誰かと泊まるというと、家族か友達との旅行しか経験なくて……ほぼ同室だったので……」
みっともない勘違いしちゃった。
顔が赤くなった自分が恥ずかしい。「は?冗談じゃない」って思えば、きっと怒りだの嫌悪感だので顔が赤くなるようなことはないんだから。
リュートさんと一緒の部屋に泊まるっていうことに対して……顔が赤くなったのは、その……。嫌じゃなかったからで。初対面の男性と一緒の部屋に泊まることに対して警戒心とかがとっさに出なかった自分が恥ずかしいっ!




