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「何を洗うんだい?おむつかい、なら、まずはあっちだよ。あそこでひどい汚れを洗い流して、それからそこで洗って。最後は一番きれいな場所で洗いなさい。薄汚れた旦那のパンツなんて適当でいいけど、赤ちゃんにはきれいなおしめ当ててあげなきゃね」
にこりと女性が優しく笑う。
ああ、いい人だ。ごめんなさい。なんだか警戒しすぎていたみたいです。
「あはは、違いない。きれいなパンツ履いたら見せたくなったといった馬鹿亭主はうちだよ。浮気の言い訳がそれさ!」
別の井戸から水をくみ上げていた女性が笑った。
「そこまで旦那さんが洗い物運ぶの手伝ってくれてただろ?優しくていい男だね」
また、間違えられました。どうしよう。ここまで間違え続けられると、毎回毎回否定するのも疲れるよね。
認めるのもおかしいし、とりあえず曖昧に笑っておこう。
「かわいい子だね。名前はなんていうんだい?」
名前はないです。名無しのごんべ。
捨て子だったのをリュートさんが拾っただけで……というのも、いちいち説明するのもあれかな。マチルダさんの、捨て子だと聞いた時の悲しそうな顔を思い浮かべる。……まぁ、いちいち説明もいいか。
「ヨリトです」
頼子のヨリと、リュートのト。
って、あああ、やっちゃった。二人の子じゃないのに、二人の名前から文字を取ってどうするの?ねぇ、私、どうするの?
孤児院に届けるのに。名前らしい名前付けちゃったら愛着わいちゃうから。もっと、こう、それこそ「ごんべ」とかにすればいいのに。
「ヨリト君かぁ。ふふふ、頬っぺた柔らかいねぇうちの子もこんなに可愛いときがあったんだよねぇ。今ではすっかり生意気盛りだけど」
という女性が、桶に入っていた衣類を絞って広げた。10歳くらいの男の子の服だ。
「ああ、やっぱりだ。この泥汚れは落ちないねぇ。まぁいいか。破らないだけよしとしよう」
パンパンと広げて二つ折りにしてからの桶に入れる。次の洗濯ものも同じように絞って広げて桶に。もうあとは持ち帰って干すだけのようだ。
ひどい汚れは手洗いで洗い、2,3度ゆすいできれいにした後、他のおむつと一緒にして水を変えながら、他の人の真似して踏み踏み洗い始める。
「あ……」
背中に、生暖かさを感じる。
「おやおや、やっちゃったねぇ」
ふふふと、10歳の子の母親……赤毛の女性がが私の背中を見て笑った。
「うわー、どうしよう、まだおむつ用意できてないのにっ」
針と糸、あ、もうこの際、布を切っただけで当てればいいか。うん、そうだよね。縫うのは落ち着いてから。そもそも糸も針もないし。
切ればって、ハサミもない。買わなくちゃ、いや、どこかで借りる?マチルダさんにまた頭さげようかな……。あー。もう。




