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痛みで赤ちゃんにおっぱいを吸わせることを戸惑って悪化?
と、まぁ何でもいいか。うーんと、だ、れ、に、しようかな?
そうだ。あの時、赤ちゃんを言われるままに連れてきた黒装束、私に危害を加えたわけじゃないから痛み返ししてないし、慰謝料も要求してない。
……生まれたての赤ちゃんを、平気で母親から取り上げ、どんな目に合わせれるか分かっていたのにつれてきた、あの、黒装束。
「熱と痛み、炎症、飛んでいけ!」
女性の顔色がよくなった。
「あ、あれ?」
「ああ、よかった。えっと、ちょっとした魔法なんですが……」
女性に詳細は伏せてあいまいに、簡単に説明する。
「か、回復魔法?まさか、だって、伝説の……」
え?
回復魔法が伝説?
「いえ、違います、その……」
そりゃそうか。陛下の治療にすら回復魔法が使われない世界だった。一見して回復魔法に見える、この病傷転移魔法も安易に使うのも危険かもしれない。使うなら、半分だけとか苦しみを和らげる程度とかにした方がいいのかも……。
「一時的に、少しだけ楽になっているだけで……えーっと」
乳腺炎の情報を思い出す。
「根本的な治療ではないです。乳腺炎……えっと、母乳が詰まって、それが原因で炎症を起こして痛みと熱が出たんですよ。治療には、赤ちゃんにつまりを解消してもらう……たくさんおっぱいを飲ませてあげてください」
抗生物質とか薬を飲んで直すときは医者と要相談だけど、基本的には乳腺炎は飲ませて直すでよかったはず。というか、まぁ、再発を防止するってことだよね。今回は、私、痛いの飛ばしちゃったから。
……ん?でも、飲ませて直すのが基本って、あの黒装束授乳とかするわけじゃないだろうし、その場合膿んだりしたらどうするんだろう?
ま、いいか。国一番のお医者さんがお城にはいるわけだし。何とかしてくれるでしょう。
「あ、はい。ありがとうございます」
伸ばされた手に、赤ちゃんを返す。
「ごめんね、おむつも変えてあげなくちゃね」
と、愛おしそうな眼で赤ちゃんを見るママ。
うーん、相当熱でフラフラだったんだよね。ただでさえまだ3時間おきくらいの授乳で睡眠不足で大変な時期だろう。そこにもってして高熱。
赤ちゃんが泣いていても起き上がれないくらいの……。
ママが赤ちゃんのおむつを替えようとベッドに寝かせる。
「あの、この子のおむつもここで代えさせてもらってもいいですか?その……急に預かった子で、えーっと、いろいろとわからないことだらけで……」
ママが笑った。
「ええ、もちろんどうぞ。あ、大きな方?お水もいるわね。ちょっと待っていて」
と、女性が家の入り口に一番近い部屋に行った。
「ごめんなさい、ここ数日調子が悪かったから、瓶に水がなくて……すぐにくんでくるから」
え?えええ?
ちょっと待って、待って、そうか。水一つとっても、蛇口をひねればいい世界じゃないんだ。
病み上がりなうえに、こちらが頼みごとをしているのに……。
「あの、水汲みは頼みますからっ」
バタバタとママを追い越してドアを開ける。




